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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第4章 高潔ぶった聖騎士が、犬の真似を要求されるまでのお話
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第3話 激怒

 アルジーナは急に剣を抜いてきたが、それに対するアデルの対応も素早かった。魔法の箒『ノノ』を呼び、剣が届かない上空へと一旦退避した。


 アルジーナは、上空に逃げた魔女に対して怒声を響かせる。


「降りてこい、貴様! 我ら高潔の星“銀星聖騎士団”の刃が断罪してくれる!」


 アルジーナに続いて、他の3名の聖騎士達も鞘から剣を抜いた。


「落ち着きなさないよ、あなた達。私は、ただこの都市には、旅の途中で寄っただけよ。こんなところ、明日には出ていくわ。この都市で特に何かするつもりはない。教会にはなんの迷惑にもならないでしょ」


 アデルとしては、目の前の聖騎士達と、なるべく事を構えたくはない。『赤リボンのアデル』の悪評を広め敵を作ることは避けたいので、出来るなら教会関係者とあまり諍いを起こしたくないのだ。


「迷惑にならないだと!? 貴様らは、その存在自体が害悪なのだ! 駆除されるべき存在なのだ!」


 アルジーナの好戦的な態度に、アデルは呆れる。これは随分と、時代遅れで、性質の悪いグロス教徒だと。


「魔法使いを目の敵にする時代は終わっているのよ。アース王国や、それこそロートヘルム帝国の連中を見習いなさいよ。あそこの教会の人達は、ちゃんと魔法使いの必要性を理解して、慎みを持ちながら宗教活動しているわよ。魔法使いとの共存・共栄が、今の時代の教会の主流でしょ」


 アデルの述べたグロス教会の主流の話について、アルジーナは、極めて不愉快そうに顔を歪める。


「アースやロートヘルムの腑抜け共と、我々を一緒にするな! いや、そもそも、汚らしい魔法使いの貴様が、何を知ったようにグロス教会の主流云々の話しているのだ!?」

「あら、あなた達銀星聖騎士団が、時代遅れの主流外れって言われて悔しいの?」

「時代遅れではない! 我々こそが、教会の本来あるべき姿だ! 神の僕のあるべき鑑だ!」


 グロス教会は、巨大な宗教団体だ。そこには、穏便派から過激派まで、様々な考え方の者達を内包している。そして、アルジーナが所属する銀星聖騎士団は、最も過激な考えを持ったグロス教徒の集まりであり、教会を全体的に見れば、あくまで少数派に止まる者達であったが、だからと言って、彼らは、微塵も自分たちが間違っていると思っていない。


「貴様には分からないだろうが、この地上には、神の偉大さを十分に理解できていない無知蒙昧な愚民に溢れている。この都市の市民の多くもそうだった。だが、我々が来てから、彼らは自身らの愚かさに気付き始めた。私達は、その愚か者共の目を覚ますという高潔な使命を負っている。……魔法使いの貴様は、もう手遅れのだがな、この害虫が」


「本当、イライラするわ。あなた達は、自分達が迷惑な存在って気付いてないようね」

「迷惑な存在とは貴様の事だろう、魔法使い! 本当に救い難い奴だな貴様らは!」


「ふん、あなた達みたいなのが、教会全体の評判を悪くするっていうことに気付かないの? グロス教徒なんて、頭からっぽな間抜け達の集まりだけど、少なくとも、他の教徒達は、その頭の内容量の薄さがばれないように、上手く振舞っているわ。あなた達は、馬鹿丸出し」


 アデルによる侮辱に、アルジーナは、怒りで顔を赤らめる。


 アデルは、ついつい喋り過ぎてしまった。彼女自身、グロス教会に対して強い嫌悪感を胸の内に秘めているせいもあった。そして、剣の届かない安全な上空から見下ろすように喋れる優越感が、彼女を饒舌にさせたのだった。


「貴様! 許さんぞ!」

「お願い、許して」

「許さんぞ!」


 アルジーナは、怒声を放った後、息を吸い直し、剣を両手で握り締めた。聖騎士の剣の鍔の中心には宝珠が埋め込まれている。彼女は、剣を持ち上げ、その宝珠に額を当てて、祈りを捧げるように粛然と目を閉じた。


 その宝珠は、ただ綺麗なだけの宝石ではない。強い魔力を帯びた、魔術に使用する宝珠だった。それを用いて、アルジーナが行うことは、決まっている。彼女は、呪文の詠唱を唱えた。


 そして、淡い光が、アルジーナを包む。身体能力を高める魔法を使ったのだ。全身に光を帯びた彼女は、上空でこちらを見下ろすアデルを睨みつけ、剣を構える。


「死ね! 『赤リボンのアデル』!」


 アルジーナは、地面を蹴った。白いマントがはためく。その跳躍力は凄まじい。半霊の身体能力と、身体能力向上系の魔法によって為せる、超人的な跳躍力だった。鳥のように軽く素早く、アデルのもとへと飛んで行った。


「アデルッ!」

「分かっているわ!」


 メメの警告とほぼ同時に、アデルはノノを叩いて、箒を更に上空へと退避させた。アルジーナの剣は、先ほどまでアデルがいた虚空を空振りするだけで終わった。それから、アルジーナは、空中で白いマントを翻しながら緩やかに地面へと着地し、標的を仕留められなかったことに舌打ちをする。


 アルジーナは、再び上空へ退避している魔法使いを、睨み付ける。


「このっ! 降りてこい!」

「……呆れた。本気で殺しに掛かってきているわね。魔法まで使って……」

「魔法ではない! この力は、神より授かった“奇跡”だ!」

「はいはい……」


 アデルが、つくづく馬鹿げていると思うのは、教会が忌み嫌う魔法を、その教会自身も使用しているという事実だ。そして、可笑しいと思うのが、教会は、あくまで“魔法”を使っていることを認めていない。彼らは、自分達が使用している魔法について、神から授かった“奇跡”として、他の魔法と区別している。確かに、教会が使用する魔法は独特で、他の魔法とは魔術系統を全く異にするが、それだけだ。本質的に魔法であることは変わりない。


「さあ、降りてこい! そして、我々を侮辱したことを謝罪しろ!」

「謝ったら満足して、許してくれる? とりあえず、剣、収めてよね」

「ふざけているのか! 許すわけないだろう!」

「それなら、わざわざ謝る意味なんか無いじゃない。ふざけているのは、そっちよ」


 アデルは、溜息を吐き、諦め半分で、アルジーナの説得を試みる。


「私は万能の魔女『赤リボンのアデル』。私が本気を出せば、あなた達なんて一瞬で吹き飛ばせる。私とやり合うのは賢い選択ではないわ。そして、私としても、あなた達みたいな疲れる連中と、あまり争いを起こしたくないの。つまり、私達がやり合うことは、お互いの不利益になる。だからここは、お互い出会わなかった振りをして終わりにしようじゃないの。それが私達の最良の選択肢よ」


「やはり、貴様、ふざけているな! 貴様らのような害虫を駆除することこそが、神に与えられた我々の使命なのだ! 尊く、誇り高い使命だ! 見逃すわけないだろう! さあ、降りてこい、魔法使い! おぞましき害虫が!」


 本当に話が通じないなあ、とアデルは嫌になってくる。彼女は大きく溜息を吐き、人差し指を立てた。


 アルジーナは、何かを仕掛けてくると感じ、身構えた。


「ノノ、お願い、逃げて。あっちの方よ」


 アデルは、北の方を指差して、ノノに指示する。


「貴様、逃げるのか!?」

「ええ、そうよ。さよなら」


 その気になれば、『赤リボンのアデル』の魔法で、眼前の愚かな聖騎士達を一掃出来る。


 アデルは、魔法を3回分使えて、しかも今夜12時を回った時点で使用回数が回復する。銀星聖騎士団からの喧嘩を買うだけ余裕はあった。加えて、アデルとしても、鬱陶しい教会関係者に、痛い目を遭わせたいと思う気持ちが無くはない。だが、ここは、彼女の理性が働いた。


 眼前の聖騎士達に手を出せば、後々教会関係者を敵に回すことになりかねない。そのような行為は慎むべきだと、アデルの理性は告げていたのだ。いや、おそらくは、既に『赤リボンのアデル』は教会の連中に目の敵にされてはいるのだろうが、その因縁をあまり深刻化させるべきではない。


「待て! 逃げるな! この害虫が!」


 ノノは、主が指差した北の方へ駆けていく。命拾いをしたとも知らず、怒声を張り上げてくるアルジーナに、アデルは、苦笑いを浮かべながら去っていった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 アデルが、元の宿屋に戻った頃には、空は随分と暗くなり、月と星の光が見え始めていた。宿屋の入り口には、寂しげに小さな蝋燭の灯りがあった。


 さて、宿屋に戻ってきたアデルには、まず、真っ先にやるべきことがあった。


「おい、ワイン買えなかったわよ」


 アデルは、受付で暇そうに座っていた宿主の顔を見るなり、向こうが話し掛けてくる前に、静かな怒りを湛えて不満を口にした。


小太りした宿主の男は、殺人鬼のように暗く鋭い表情で帰ってきたアデルに、一瞬驚いた素振りを見せるものの、咳払いをして、笑顔で対応する。


「いやあ、お客様、それは残念でしたな」


 宿主は、そんな呑気な事を言ってきた。アデルは、相手の態度次第では、穏便に済ませようと考えていなくも無かったが、宿主に申し訳なさそうな様子は全く無く、それが、彼女の怒りに油を注いだ。


「この詐欺師が! 銀貨4枚返せっ!」


 アデルは、壁を強く叩いた。


「あなたの情報は嘘だったじゃないの! 誰も私に物を売ってくれなかったわよ!」

「嘘ですと……? それは、どういう事ですかな? そんなはずはないのですが……」

「嘘だったわよ! そうじゃなきゃ、私は買い物出来たわよ!」


 アデルの怒りに怖気づく事無く、宿主は落ち着いて応じていく。


「ふむ……では、あそこ辺りの住民にちゃんと訊いたのですかな? 反教会かどうか」

「……どういうこと?」

「いや、おそらくは、反教会かどうか訊いても、まさか、私は反教会的です、と答えるわけありません。少なくとも、見知らぬ貴女には。しかし、紛れもなく、あそこら辺りの住民は、反教会的な人が多いんですよ。ですから、私の情報に嘘はありません」


 確かに、教えらえた西地区の裏通り辺りの住民に、反教会的な人達が多いという事実には、思い当たるところがあった。


 だが、問題はそこじゃない。


「いや、私は買い物が出来なかったの! 買い物を断られたの! あそこなら、買い物出来るっていう話じゃなかったの!?」

「いいえ……、そんな保証はしていませんが」

「はあ!?」

「確かに、買い物できるかもしれない、とまでは言いました。しかし、必ず出来る、と断言はしていません。私は、あくまで、あそこら辺の住民には反教会的な人達が多い、という情報を提供しただけですから」

「ちょっと、ちょっと……」


 アデルは、宿主が言いたいことを理解して、唖然となった。


「つまり、私の支払った銀貨4枚の情報料っていうのは、“魔法使いが買い物出来る場所の情報”じゃなくて、あくまで“反教会的な人が多い場所の情報”に対してだけのものってこと……?」


 アデルは、宿主とのやり取りを良く思い出してみる。確かに、宿主が情報提供した事実は、“反教会的な人が多い場所の情報”に過ぎない。その場所で、魔法使いでも買い物を出来るか否かについては、あくまで彼の推測に過ぎなかった。つまり、買い物出来ると断言していない。


「いやあ、お客様、ご理解頂けて助かります」

「この詐欺師が!」


 アデルは、再び壁を叩く。宿主の弁解に溜飲を下げるどころか、小賢しい屁理屈に頭が沸騰しそうになった。


「私は、買い物出来る場所を探していたの! どこの誰が反教会的かどうかなんてどうでも良い情報よ! 私は、ワインを買いたかったから、あなたに銀貨4枚も出したのよ! それくらい、会話の流れで分かるでしょ!? あなたには、私がワインを買える場所を教える義務がある!」

「そ、そんな事言われましても……、私には、そこまでの情報は……知らないです」


 宿主の答えに、アデルは、怒りで体が震えた。


「知らない、ですって……? あなた、最初から、こういうつもりだったのね……。この私が、まんまと嵌められたわ。おじさん、頭良いわね……。だけど、本当に運が悪いわね! 騙した相手が、この『赤リボンのアデル』で!」

「あ、『赤リボンのアデル』……!? 貴女が、まさか、あの……!」

「豚野郎! 私が考え得る最も苦しい死に方で殺してあげるわ!」


 宿主は、驚いて椅子から立ち上がる。


「ちょ、ちょっと、待ってください! 私は、貴女を騙そうなどとは……!」


 アデルは、激情に駆られる。殺意に赤い瞳を光らせて、魔法を使おうと指を立てた。小太りした宿主の男に、これ以上腹立たしい無駄口を叩かせる前に、早急に殺害してしまおう思った。


「アデル、ちょっと、待ちなよ」


 アデルが指先に魔法の光を灯しかけたところで、メメの冷静な一声が入る。


「落ち着きなよ。彼、本当に騙そうとしていたわけじゃないよ。君に、買い物が出来そうな場所を教えようとしていたのは確かだ。僕が保証する」


 アデルは、止まる。他者の心が読めるメメが、宿主の男は騙そうとしていたわけではない、と言うのだ。


「それに、たとえ提供してくれた情報が役に立たなかったとしても、君が失ったのはたったの銀貨4枚だろ。今の君にとって、それは、全然大したことない金額じゃないか」


 メメは、出来る限り、ゆっくりと喋りながら諭す。怒りは、爆発した後、時間と伴に段々と鎮まってくるものだ。そのために、アデルになるべく時間を置かせようとした。


「もし理性的な人なら、ここで一時の感情に任せて、貴重な魔法を使ったりはしない。アデルは、どうなの?」

「……」


 アデルは、静かに手を握り締め、立てた指先を手の平に収める。そして、長い溜息をした後、宿主に向き直る。


「……分かったわ。あなたは、私を騙そうとしていたわけじゃない、そういう事にしましょう」

「ご、ご理解助かります」


 宿主は、安堵して、椅子に掛け直す。


 メメとしても、事を穏便に済ませることが出来て、一安心した。


 正直なところ、メメは、嘘は吐いていないが、物凄く微妙な言い回しをした。店主の男が、アデルに対して、魔法使いでも買い物が出来そうな場所を教えようとしたのは確かだ。しかし、たとえ反教会的な人だったとしても、教会の存在に怯えて、魔法使いとの売買に応じてくれないかもしれない、とは思っていた。また、店主は、必ず魔法使いが買い物できる場所があると思っている、というアデルの誤解についても、薄々気付いていた。


 つまり、アデルが買い物出来ずに終わる、という事態について、店主はある程度予測しておきながら、あえて告げないではいたのだ。


 しかし、その事をアデルに教えれば、アデルは再び理性を失うであろうから、メメは、言わないでおいたのだ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

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