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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第4章 高潔ぶった聖騎士が、犬の真似を要求されるまでのお話
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第2話 半霊の聖騎士

 アデルは、トラバの西地区の裏通り辺りにやって来た。


 小太りの宿主の男の情報によれば、此処に反教会的な人達が多く、魔法使いのアデルであっても買い物が出来るというのだった。


 だが、結局、市民のアデルに対する対応は、あまり変わらなかった。道行く人には不穏な目を向けられ、店で買い物をしようにも売買を断られる。強いて他の地区との違いを挙げるならば、彼らからの視線に刺々しさが無い、という気がするくらいだ。


 これでは、話が違う。と、アデルは不満を募らせる。


 アデルは、諦めずに通りを歩いていると、ワインが並べられている店を発見する。ワインは、アデルの好物。彼女は、店主の男に声を掛ける。


「ねえ、おじさん、そのワイン売ってくれない?」


 店主は、困ったように顔を伏せた。


 アデルの闇色のローブとトンガリ帽子の恰好を見れば、誰だって彼女が魔法使いであると分かる。


「魔法使いには物を売れないので」


 案の定、売買を断られる。だが、好物のワインを目の前にして、アデルは易々と引き下がらない。


「この辺の地域の人達は、反教会的って聞いたわよ。ねえ、あなたもそうじゃないの? 売ってよ」


 店主は、面を上げて、驚いた顔をした。


「反教会的!? どこでそれを……」

「とある情報屋から仕入れたの。……違うの?」

「……。それは、言えません」


 その店主の黙秘は、ほとんど肯定しているのと変わり無かった。反教会的な人が虐げられるこの都市で、もし反教会的でないなら、反教会的でないと断言しそうなものだ。


 アデルは、それならば、と説得を試みることにする。


「ねえ、あなた悔しくないの? 馬鹿みたいな教会の連中に支配されて。……ほら、私が、ささやかな憂さ晴らしを手伝ってあげるわ。ささやかな、奴らに対する反抗を。奴らが忌み嫌う魔法使いの私にワインを売ってちょうだいよ。絶対、誰にも言わない。絶対、誰にもばれないから。だから、ね……?」


 アデルの囁くような声に、店主は頑なに首を横に振る。


「いや、出来ません」


 アデルも、諦めない。


「教会の奴らが来て色々困っているんじゃないの? 私も、教会の奴らには昔から困らされているの。せっかくだから、愚痴を零し合いましょうよ。二人だけの秘密で」

「……」


「あいつら、自分達が正しいって信じて疑わないわよね。本当に腹立つわ。グロス教を信仰している、ってだけで、良い気になって、馬鹿みたい。当人は、どうしようもなくつまらない人間だったりするのにね。馬鹿の一つ覚えみたいに、誰かが口にした教義を一言一句言えただけで、自分も聖人になった気でいて。滑稽だと思わない? そして、苛々しない? そんな、頭からっぽな高潔ぶった連中に、卑下されるのは」

「……」


 店主は、やはり口を開かない。グロス教徒を散々貶すアデルを追い払うこともなく、ただ俯いて、黙っている。


 アデルは、唸って、考える。


「ねえ。これは、教会の悪口じゃ決してないんだけど。この都市から魔法使いがいなくなって困ったことはない?」


 やや唐突に、アデルは切り出した。


「困ったことですか……?」


 すると、店主は、アデルの思いの外、素早く話に食いついた。何かが彼の琴線に触れたのかもしれない。彼女は、心の中でほくそ笑む。


「ほら、魔法使いって、色々便利でしょ。あなたも色々お世話になったことない? 建物を簡単に直してくれたり。手軽に綺麗な水を出してくれたり。暑いときに、氷魔法や風魔法で涼しめたり。電気でマッサージとか。あとは__」

「病気を治してくれたり、とか、ですか……」


 店主が思わず零した言葉に、アデルは、深く頷く。


 アデルに限らず、魔法の商売をする魔法使いは相当数存在する。魔法使いは、自身の魔法でお金儲けをし、一方で、その利用者は、それで色々と助けられる。取り分け、魔法使いの治癒魔法で助けられる人は多い。


 店主は、自分の零した言葉に一瞬はっとなったが、自分に向けられたアデルの真剣な瞳を見て、つい話を続けてしまう。


「……確かに、魔法使いがいなくなって……特に、治癒魔法が利用出来なくなったのは、困りました……。いざ病に冒されたとき大変ですから。重い病を治すのは、やはり、魔法使いでないと」


 店主の言葉にはやや熱が籠っていた。その事を誰かに対して口に出して言いたくて仕方なかった彼の思いが、窺われた。


 アデルは、じっと店主を見つめる。そして、強く共感するように、店主の言葉一つ一つに頷いていく。その時のアデルの態度には、誠実さすらあった。少なくとも、店主は、そのように感じた。


「……私はまだ良いのですが、近所の知り合いのお子さんが、熱病にうなされて、それで……! ……教会の連中は、治癒魔法を、特に、目の敵にしていますから……」


 少しずつ声が震えていき、店主は、それ以上言うのを止めた。彼は目を瞑り、顔を背けた。


 グロス教会は、魔法について神が敷いた自然の摂理に反するものと考えており、その中でも特に、治癒魔法を生命の理に逆らうものと捉えている。むしろ、教会としては、病の苦痛を耐え忍ぶことを美徳としている節がある。


 アデルは、赤い瞳に、暗い暗い影を落とす。


「……。……ねえ、おじさん」

「どうされましたか?」

「……あのね」


 アデルも、一度目を瞑る。__そして、赤い瞳を開いて、笑った。


「あなた、今、とんでもない反教会的な発言をしたわね」


 笑みを浮かべたアデルから飛び出してきた言葉に、店主はぎょっとする。


「……どういう事ですか?」

「どうも、こうも、あなたの発言は、要は、私は魔法使いがいないことに困っている、っていう事でしょ。そして、その原因を作ったのは紛れもなく教会の連中でしょ。つまりは、あなたは、教会のせいで迷惑しているって言っているに等しいのよ」


 店主は、青ざめて、首を横に振る。


「さっ、さっき、貴女が言ったじゃないですか。“これは、教会の悪口じゃ決してない”って。……わ、私は、教会の悪口を言っていません。そんな事、全然考えていません。私はただ、魔法使いがいなくなって困ったことを述べたに過ぎませんよ」


 店主は、そう弁解しながら、自分があまりにも迂闊であった事に気が付いていく。彼自身、自分が間抜けな弁解をしている事の自覚はあった。アデルは、冷たい笑みを浮かべて、畳み掛ける。


「詭弁よ、それは。あなたは、実質的に、教会への批判を口にしたの。そもそも、教会が忌み嫌っている存在である魔法使いがいなくて困っている、っていう発言自体、教会の連中には不愉快な発言でしょ」


 店主は、たじろぐ。アデルは、店主の顔色が悪くなったのを見て、愉快そうに微笑んだ。


「だからね、おじさん、ワインを売ってよ。今のあなたの発言は聞かなかったことにしてあげる」


 そこまで聞いて、店主は、今までのアデルの会話の意図を完璧に察した。彼女は、自分から、反教会的な言葉を引き出し、それで脅すつもりだったのだ。彼は、教会に対する怒りに囚われ過ぎて、目の前の少女に対して僅かながらも心を開きかけていた自分自身を呪った。


 静観していたメメは、アデルに嵌められた店主に、同情した。


 暫く、店主は沈黙する。俯いて、どうするべきか考えているようだ。


「__何を言っているんですか、お嬢さん」

「ん?」

「私は、貴女と何も会話していないですよ。貴女が、勝手に、一方的に、私に話掛けていただけです」


 店主の人が言い出したことに、今度はアデルが驚く番であった。


「は? あなた、何を言って……」

「貴女は、グロス教会が忌み嫌う魔法使いです。貴女が、もし、教会の者達におかしな告げ口をして、私に濡れ衣を着させようとしても、そうする前に、貴女は彼らに捕まえられて、処刑されるでしょう。いや、私がそうさせます。グロス教徒である私を、陥れようとした邪悪な魔法使いがいる、……とか言って」

「……」

「私は、敬虔なグロス教徒です。その私と、魔法使いの貴女、一体どちらの言葉が教会の者達に信用されると思いますか?」


「敬虔なグロス教徒って、あなた……」

「私は敬虔なグロス教徒です」

「そんなわけないでしょ。あなたの今までの発言に鑑みれば、どう考えたって……」

「私は敬虔なグロス教徒です」


 店主は、真顔になってそう繰り返す。彼も彼で、グロス教に支配されたトラバの都市を生き抜く処世術を身に付けているのだった。


「だったら、あなたが言った事全部、教会の連中にばらしても良いのね?」

「どうぞ、ご自由に。私は、敬虔なグロス教徒ですから」

「……」


 アデルは、苦い顔をする。これは、一筋縄ではいかなさそうだ。腕を組み、次なる戦略を考える。


そこに、


「__おい、そこの魔女! 貴様だ! ここで何をしている!」


 突然、アデルに怒声が向けられた。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 アデルは、怒声が鳴り響いてきた方向を振り向いた。そして、通りの向こうから歩いてくる、白服の一団が目に留まる。


 白銀の鎧を身に纏って、純白のマントを羽織り、凛然とした様子で堂々と道の真ん中を歩いてくる、4人組だった。


 通りにいた市民たちが、驚いて、まるで怯えて逃げ去るように、その白服の一団に道を譲る。ワインの店主も、その白服の一団を確認するなり、緊張で顔を強張らせる。アデルは、その場の空気が張り詰めるのを、肌で感じた。


 アデルとしても、その白服の一団の正体に心当たりがあった。


「貴様、そのようなふざけた格好で、何をしている」


 白服の一団の先頭に立つ少女が、アデルの前まで立ち止まって、厳しい声色で尋ねる。


 どう見ても10代前半程度しかないあどけない顔立ちの少女だが、彼女の佇まいに全く幼さは感じない。彼女の銀色の髪と瞳の輝きには、目が冴えるような鋭さがあった。刃物を突き付けられているかのような、油断ならない威圧感があった。


「あなた達、誰よ?」


 アデルは、一応尋ねておく。


「我らは、高潔の星“銀星聖騎士団”。私は、銀星聖騎士団トラバ支部第2部隊3班班長アルジーナ。只今、この区域の巡回中だ」


 アデルの予想通りだった。直接“銀星聖騎士団”とやらに出くわした事はなかったが、グロス教会の聖騎士団は、白色をシンボルカラーとして好んでいるは知っていた。何より、周囲の市民の怯えた様子を見れば、大体察せられた。


 そして、アデルには、アルジーナと名乗った少女のその幼い容姿と、銀色の髪と瞳についても、心当たりがあった。


「あなた、もしかして、“半霊”?」

「そうだが」


 アルジーナは、短く答えた。


 “半霊”とは、人が人としての肉体を保ったまま精霊化した者のことを言う。人と精霊の中間の存在であるから、半霊と呼ばれている。選ばれし特殊な人が、グロス教会の特別な儀式を受けることで、半霊となることが出来ると言われている。


 そして、銀色の髪と瞳は、半霊の外見的特徴の一つであることを、アデルは知っていた。儀式を経て半霊と化した人は、その髪と瞳の色が、銀色へと変貌する。


 さらに、アデルは、もう一つ、半霊は老いないことも知っていた。だから、おそらくは、アルジーナの実年齢は、少なくとも、その幼い見た目以上のはずだ。見たところ、彼女が部下として背後に連れて来ているのは若手の聖騎士ばかりであったが、彼女自身もそれくらいの年齢だろうか……。


 アルジーナは、アデルから向けられる視線に、不快そうに眉間にしわを寄せた。


「何をじろじろと見ている貴様。……私が名乗ったんだ、貴様も名乗れ」

「アデル」

「何? アデ__」

「嘘。本当の名前は、ルデアよ」

「何故嘘を吐いた、ルデア?」


 アデルは、うっかりしていた。つい、馬鹿正直に自分の名を名乗ってしまった。“アデル”の名前は、教会関係者の前で、あまり口にすべきではない名前だ。慌てて、何か言い訳を考えようとする。


「いえ、その、嘘じゃなくて……変わった名前だから、つい言い間違えてしまって」

「自分の名前なのにか、ルデア? 自分の名前を言い間違える奴がいるのか?」

「そうね」

「貴様、ふざけているのか」


 アルジーナは、声色の厳しさを強める。


「半霊の私には感じ取れるぞ、貴様から溢れる規格外の魔力が。底なしの邪悪さが!」


 半霊となることで、人であったときよりも様々な面で、能力が向上する。その一つが、魔力の感知能力が高くなることだった。


 故に、アルジーナには、アデルの正体が看破出来るのだった。


「驚いた……、まさか、こんな所で出くわすとは……。その金髪と、邪悪な赤い瞳と、赤いリボン……貴様があの、噂の『赤リボンのアデル』だな!」


 アルジーナは、腰に下げている剣の柄に手を置いている。腰を若干低めて、剣を鞘から抜く準備をしていた。


 今にも斬りかかってきそうなアルジーナ。アデルは、驚いて後退りする。


「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ。あなた達が私に刃を向ける理由があるの!? というか、魔法結社との取決めで、教会は魔法使いへの攻撃を禁止しているはずよ!」

「貴様ら魔法使いは、神が敷いた理を荒らすこの世の害虫! その害虫を駆除する高潔な志を持ったのが我ら聖騎士! 断罪してくれる!」

「いや、だから、取決めがあるでしょ、取決めが」


 アルジーナは、殺意を緩めない。


「確かに、魔法使いへの攻撃は禁止されている。魔法結社との、忌々しい取決めでな。しかし、貴様はその取決めの射程外だ。“禁忌”の悪魔と契りを交わしている『赤リボンのアデル』ならな!」


 魔法結社との取決めにおいても、グロス教会は、全ての魔法使いへの不干渉を誓ったわけではない。両者の妥協の末、グロス教会は、“禁忌”を犯していない魔法使いに限定して、手を出さないことにしている。


 どのようなものがその禁忌に含まれるかは、一応、魔法結社とグロス教会で協議して定めている。実のところ、禁忌の範囲の解釈については両者間で若干のずれがあるのだが、少なくとも、アデルの魔法は、魔法結社が正統と認める魔術系統から明らかに外れたもので、禁忌であることに異論は無い。


「覚悟しろ、魔女め!」


 そして、アルジーナは、鞘から剣を抜いた。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

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