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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第4章 高潔ぶった聖騎士が、犬の真似を要求されるまでのお話
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第1話 時代遅れの都市

 古い時代から、グロス教会は、魔法使いに対する弾圧の先導を担っていた。


 グロス教会とは、光を司る神を信仰するグロス教の宗教団体である。世界各地に多数の信者を抱え、多くの国に対して政治的影響力を持つ。


 そして、彼らグロス教徒は、魔法使いという存在を嫌悪していたのだった。邪悪な悪魔と契りを交わし、神が敷いた摂理を歪めて、己の欲望を満たすため魔法を行使する、そんな魔法使いを許されざる悪魔の手先と考えていた。


 グロス教会は、魔法使いを容赦なく殺戮していった。


 教会には、国家権力による助力があり、神の御名を借りて思い通りに動いてくれる多数の信者もいた。また、彼らは、聖騎士団といった強力な武力集団を所持していた。その教会の巨大な力の前に、魔法使い達は、次々に駆逐されていったのだった。


 だが、魔法使い達も、一方的にやられてばかりにはいかなかった。彼らは、教会に対抗するべく、世界各地から集結し、“魔法結社”なるものを創り上げた。


 そして、力を合わせた魔法使い達の力は、教会のそれを凌駕した。魔法結社は、多くの魔法使いで構成された、世界最強の戦闘力を誇る軍隊となったのだった。


 教会と魔法結社の抗争は長く続いた。国家と社会を味方に付けている教会の弾圧は粘り強く行われたが、圧倒的な戦闘力を有した魔法結社は、それに屈することなく反抗し続けた。


 長く続く抗争の中、教会は疲弊していき、やがて魔法結社と対立する以外の途を考え始める教徒も出て来た。すなわち、両者が魔法使いについて何らかの取決めを定めて和解し、教会と魔法使いの衝突を出来る限り回避しようとする考えが唱えられ始めた。


 また、魔法結社の出現により、魔法使いに対する社会の認識も変化し始めた。魔法結社は、その権力を背景に、魔法使い独自の法を定め、魔法使いの社会に秩序を齎した。法と秩序に支配された魔法使いは、徐々に、未知なる恐怖の化け物というよりも、有用な人材として一般社会に意識されるようになった。


 そうしていつしか魔法使いは、教会からの弾圧を受けることが減っていき、一般社会に受け入れられるようになっていったのだった。



 以上が、魔法使いに関するアデルの歴史的考察だった。そして、その考察は、歴史家の通説から大きくは外れるものではないだろうと、彼女は思う。


 したがって、アデルにしてみれば、魔法使いを迫害するような社会や輩は、時代遅れの狂った連中と、罵られるべき存在だった。


 そして、今アデルが訪れたトラバという都市は、その時代遅れの狂った連中に支配されていたのだった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 トラバは、比較的大きな都市だった。それなりに交易も盛んで、市場では色々な物が売られ、旅人のための宿屋も多く存在する。


 様々な店が立ち並ぶトラバの表通りに、一人の魔法使いの少女の姿があった。闇色のローブとトンガリ帽子、そして胸に目立つ赤リボンの服装の彼女は、長い金髪に赤い瞳を煌めかせて、トラバの街を散策していた。


 彼女は、『赤リボンのアデル』。自身に掛けられた呪いを解くために、各地を旅していた。このトラバには、旅の途中で寄ったに過ぎない。彼女は、トラバがそれなりに大きな都市であること以外、ほとんど何も知らないのだった。


 したがって、彼女は、嫌という程に街の人々から不穏な視線を向けられることを、予測していなかった。


「どうなっているの、此処は……」


 アデルは、溜息混じりに呟いた。


 トラバに着いてからずっと、住民からの扱いが非常に冷たい。アデルは、うんざりしていた。


 道行く人達からは、嫌悪の視線を向けられる。唾を吐きかける人もいた。広場で遊んでいた男の子達に声を掛けてみれば、「悪魔の手先だ」と罵られ、蹴られ、逃げ去られてしまった。


 また、立ち並ぶ店で買い物をしようとしたところ、店の人に「魔女に売る物は無い」と、追い払われてしまった。美味しそうなワインが売られており、お金なら十分にあるのに、非常に残念ながら、買うことは出来ない。


 取り分け困っていたのが、宿だった。やはり、どこの宿屋も泊めさせてはくれない。宿主からは、嫌な顔をされて、悉く追い払われてしまうのだった。これでは、今夜は野宿となってしまう。


 そんな中、アデルはとある宿屋に巡り付いた。表通りから少し外れた場所にあるその宿屋は、あまり立派なものではなく、お金に困っているような旅人が泊まるようなみずぼらしい外装をしていた。


「うちなら、お客様を泊めることができますよ」


 宿主らしき小太りした男が、アデルにいやらしく微笑みかけた。


「えっ、本当!?」

「ええ、うちは魔法使いの方も泊まれます。いや、うちでしか魔法使いの方は泊まれないでしょう」


 散々嫌な顔をされて宿泊を断られてきたアデルは、その小太りした宿主の言葉に、思わず飛び上がってしまいそうであった。


「いやー、助かったわ。どこも泊めてくれなくて困っていたところなのよ」

「それは災難でしたね。しかし、不幸中の幸いとはまさにこのこと。運良くうちの宿屋に辿り着けたというわけですな」


 店主は、調子良く答えた。


「全く、どうなっているの、この都市は。まさか、今時、魔法使いの迫害でも行われているわけ?」

「そのまさかなのですよ」


 店主は、トラバの現状について説明し始める。


 近年になって、非常に敬虔なグロス教徒の人が、トラバの市長に就任することになった。それを機に、トラバには、“銀星聖騎士団”が招かれ、駐在することになる。銀星聖騎士団とは、グロス教会が有する聖騎士団の一つであり、グロス教徒の中でも極めて過激派であることで有名だ。


 その銀星聖騎士団の後ろ盾の下に、トラバではグロス教会による布教活動が行われる。悪質かつ過激な宗教勧誘が、布教活動という名の下に行われた。


 グロス教に改宗しない住民には、グロス教徒による執拗な嫌がらせがあった。周囲から無視されることや暴言を吐かれることはまだましな方で、場合によっては集団リンチや強姦の被害に遭うのだった。住居には汚物を投げ込まれたり、酷いものでは火を放たれたケースもあった。そして、それらの悪事は、当然のように黙殺される。


 警吏に被害を伝えても、追い返されてしまうのだった。例えば、“グロス教を信仰しない野蛮な貴様の言うことなど信用できない”とか、“グロス教徒でない貴様へ神が与えた当然の罰だ”とか、“グロス教徒でない者を助けることなど出来ない”など、信じられない程理不尽な理由を並べられて、受け付けてくれない。


 グロス教会への批判に対する弾圧も容赦がない。教会に対して批判的な事を言う者の元には、銀星聖騎士団が駆け付け、連行し、拷問をする。地獄のような苦痛を与え続け、最終的には“私は、教会の滅亡を目論んでいました”と無理やり吐かせたところで、死刑に処す。トラバの都市法では、教会に対する重大な加害行為を目論んだ者に対して、死刑が科されることが定められている。


 特に魔法使いは、これらの理不尽な仕打ちの対象者となる。グロス教徒にとって、魔法使いは忌むべき存在と考えられているため、それは当然の流れだった。


 そして、教会は、魔法結社との取決めを潜脱するような、魔法使いの弾圧を実質的に行っていた。


 教会は、魔法結社との取決めにより、魔法使い側が教会に対して直接的な害を与える行為をしない限り、手出し出来ないことになっている。しかし、逆を言えば、魔法使いが教会に直接的な害を与える行為をすれば、教会は、取決めに抵触することなく魔法使いを攻撃できることになる。


 教会に直接的な害を与える行為とは、例えば、教会の施設を破壊したり、教会関係者や信者に殺傷行為をする他、布教活動を妨害したり、信者へ改宗を迫ったりする行為も、これに該当し得る。


 そして、グロス教会が、トラバで行ったことは、魔法使いの上記のような行為のでっち上げだ。事実の捏造には、トラバの市民全員が協力してくれる。とりわけ、信者へ改宗を迫ったといった行為は、簡単に捏造することが出来る。


 そうやって、グロス教会は、でっち上げた事実をもとに、魔法使いへの攻撃を始めた。魔法使い達は、まともに弁明する機会を与えられず、次々と聖騎士に殺されていった。生き残った魔法使いは、トラバの都市から逃げ出していった。そして、トラバから、魔法使いの姿が消えたのだった。


「酷い時代遅れの都市ね……」


 宿主から話を聞いて、アデルは顔をしかめた。


「お客様は、この都市に入る際、城門の衛兵に何か注意とかされなかったのですか?」

「城壁なら空を飛んで越えてきちゃったから会ってないわ」

「あー、そうでしたか……。もしちゃんと注意聞けていたら、なかなかこの都市に入ろうと考える魔法使いはいないのですが。ろくに買い物も出来なければ、宿にも泊まれませんので。__しかし、それでもこの都市に入ってきた魔法使いが泊まれるのがこの宿屋なんですよ」


 宿主は、にやり、と微笑み掛けた。


「それではお客様、一泊金貨3枚で御座います」


 アデルは、宿主が何気なく口にした宿泊料に、目を丸くした。


「……は? 一泊いくらって言った……?」

「金貨3枚です」

「高すぎない? こんなボロ臭い宿で一泊金貨3枚て……。その値段でこんな宿に泊まる人なんていないでしょ」

「うちは、お客様ごとに宿泊料を変えているんですよ」


「他の人には、大体どれくらいよ?」

「そうですね……大体、銀貨2、3枚、くらいですかね……」

「で、私には金貨3枚なわけ?」

「はい」

「馬鹿にしてんの?」


 宿主は、落ち着いた様子で首を振り、答える。


「お客様、私にはリスクがあるんです。この都市の人が、魔法使いを無視するのは、単に嫌っているというだけの理由じゃないんです。魔法使いに関わると、教会の連中に目を付けられるからなんですよ。場合によっては、この都市にいられなくなるし、……最悪の場合は、奴らに殺されるんですよ。

 私は、そのリスクを背負ってお客様を泊めるんです。そのリスクがある分、宿泊料が高くなるのはしょうがないことですよ。……お客様の方としても、この都市で宿泊出来る宿はうちぐらいしかないので、この宿にそれだけの価値があると思いませんか?」


 アデルは、唸った。宿主のその説明は、それなりに理屈が通っているように思えたのだ。


 しかし、それにしても、金貨3枚は高すぎたように思える。アデルは、しばらく考えた後、


「……分かった、金貨3枚ね」


 と、承諾した。


 やはり金貨3枚は、高過ぎだと思えたが、今のアデルには余裕があった。手持ちの袋にはまだそれなり硬貨が入っている。それだけでなく、今週はまだ魔法を1回も使用していないうえ、ちょうど今夜の12時を回れば魔法の行使回数は回復する。


 宿泊料の交渉を粘ることも出来るが、余裕があるアデルは、そんなことに躍起になって労力を費やす気にはなれない。勿論、多少釈然としないわけでもなかったが。


「まいどあり! ご理解頂けて助かります」


 宿主の男は、満足そうに微笑んだ。


 そして、アデルは、袋の中から金貨を探りながら、一つ頼みごとをする。


「じゃあ、私は外で買い物してくるわ。だから、このローブと帽子は預かってくれる? 魔法使いの恰好をしていなければ、買い物出来るでしょ。くれぐれも、丁重に__」

「それは出来ません、お客様」


 宿主の言葉で、袋の中の金貨を掴んだアデルの手が、止まった。


「いや、預かってよ。こっちは、金貨3枚も払うのよ。それぐらいのサービスはしてよね」

「いや、それは、本当に無理でございます」


 宿主の男は、強い口調で突っぱねた。


「魔法使いの持ち物を預かっておくわけにはいきません。それと、外出される際には、必ず持ち物を全て持って出かけてください。

 あと、言い忘れていましたが、もし運悪く教会の連中がこの宿に来たような場合、その時点で裏口から見つからないように立ち去ってもらいます。裏口は後で教えますので。

 大変恐縮ですかが、お客様にはこの条件を受け入れてもらいます。これも、教会に目を付けられるリスクを少しでも軽減するためにやむを得ない条件です。どうぞ、ご理解を」

「いやいや」


 宿主の突き付けてきた条件は、確かに、リスク軽減のために、ある程度理解出来なくもない。しかし、金貨3枚という高額な宿泊料を払うアデルとしては、そのような条件を付けられるのは、どうも納得しきれないものであった。


「とにかく、服は預かってよ」

「無理でございます」

「あなたは、リスクを受け入れてお金を稼ぐことを方針としている。それなら、これも同じ事よ。特別にお金払うから、この服を預かりなさい」


 アデルのその提案に、宿主は、顎に手を当てて考え込んだ後、答える。


「なら、金貨3枚で、そのローブと帽子を預かりますが」

「いや、高いわよ! なんで物を預かる料金と、宿泊料が同じなわけ?」

「同じくらいリスクがあるので」

「いやいや、払うとしても、せいぜい銀貨3枚よ」


 アデルの表情が、険しくなる。宿主の提示してきた金額は、随分と理不尽なものに思えた。小太りした宿主の微笑みに、人を馬鹿にしたような気配を感じ取り、不快感を覚える。お金に余裕があるとはいえ、流石に、黙っておけない。


「銀貨3枚はちょっと……。なら、特別に、金貨2枚で」

「物を預けるだけで金貨を出すこと自体がおかしいでしょ。銀貨3枚よ。いや、特別に銀貨4枚。これ以上は絶対出さない」

「いやあ。こちらとしても、金貨2枚でないと、流石に預かれませんが」

「銀貨4枚で預かってくれないんだったら、あなたを殺す」

「お、お客様……、私を脅すのですか……」


 唐突に表れた殺害予告に、店主は、たじろいだ。


 アデルの赤い瞳が、宿主を睨み付ける。殺意の籠った魔女の瞳に、宿主は顔を引きつらせる。


 その険悪な雰囲気の中、「落ち着きなよ、アデル」と、魔法の帽子のメメが宥めるが、アデルの殺意の目つきは変わらない。宿屋に緊張が漂う。


 すると、宿主は何かを閃き、ぽん、と手を叩いた。


「そ、それなら、お客様……、銀貨4枚で情報を提供します」

「情報?」

「この都市でも、反教会的な人達が多い地区があるんですよ。そこでなら、魔法使いのあなたでも買い物が出来るかもしれませんよ」

「……なるほど。で、そこは何処?」

「それは、情報料を払ってからです。銀貨4枚で」

「……」


 何が何でもお金を取ろうとする宿主の姿勢に、アデルは辟易してきた。怒りを通り越して呆れてくる。


「ここは平穏に行こうよ。理性だよ、理性。悪い取引じゃないと思うけどな」と、メメが一言後押しする。


 アデルは、溜息を吐く。そして、黙って金貨3枚と銀貨4枚を宿主に差し出した。


 全くとんでもない都市に来てしまったと、つくづくアデルは思った。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

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