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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第3章 お頭の弱い博愛主義のエルフが、愚かな選択を繰り返すまでのお話
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第5話 王城の悲劇(前編)

 約50年前、フィール王国。


 イーディア女王による粛正__リアリス団長を含めた王国騎士団員達に対する、殺傷行為禁止命令違反を理由とした処罰が一斉になされた日から、1週間以上が経過した。


 精霊の森の北西の平原に、ロブ王国のゴブリン兵が大勢集結し、フィール王国は警戒態勢にあった。敵の大規模な攻撃が予測されるため、フィール王国の現場の兵士達には、ただならぬ緊張感が漂っていた。


 一方、イーディア女王は、現場の兵士達とは異なり、特段緊張感を持っているわけではなかった。


 今回、今後も、問題なく退けられるものだと思っていたのだった。


 研究に研究を重ねた、幻術。改良に改良を重ねた、眠り薬。そして、訓練に訓練を重ねた、エルフの兵士。イーディア女王は、それらの戦場における圧倒的な活躍ぶりを目の当たりにしたことがある。


 彼女も、戦争初期の頃は、先代の王と同様に、兵士達と共に戦場に立ち、戦の様子を見守ったことがあった。


 そして、目にしたのは、幻術と眠り薬の戦術の前に、呆気なく敗れる敵のゴブリン兵。味方と敵、いずれも大した血を流すことなく終了した戦闘。武器の出る幕が無い戦場。


 イーディア女王は、確信する。エルフも、ゴブリンも、誰も血を流すことなく、戦争を終結させる途があると。

 

 決意する。無血の戦争終結の果てに、エルフとゴブリンが、互いに手を取り合える世界を創り出すと。


 そして、信じる。その夢は叶う、と。なぜなら、それは、正しき博愛主義だから。全ての種族が、向かうべき未来だから。


 したがって、イーディア女王は、戦争をただ、静観していたのだった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 しかし、その日、予想外の事態が起きる。


 時刻は、夜。イーディア女王は、それまで寝室で静かに読書をしていたが、城内の雰囲気が妙に騒がしいこと、そして、窓から眺めた城下町に幾つもの煙が上がっていることに、不穏な空気を感じ取り、本を畳んだ。


 そして、暫くして、部屋のドアがノックされ、イーディア女王の返事も持たずに、慌ただしく一人の兵士が入り込んできた。


「失礼します、女王陛下!」

「……一体、何があったのですか? そんなに慌てた様子で」

「町にゴブリンが! それに、城にも……!」

「ゴブリン!? いったい、どういうことですか……」


 兵士は、酷く混乱した状態だったが、それでも必死に説明しようとする。


「その、城下町でゴブリンが暴れていまして、今、兵士総動員で鎮圧に向かっているところです。……かと思えば、今度は、城にゴブリンが現れるようになりまして……」

「ゴブリン達は、いったい何処から……、まさか、城塞が破られて……!?」

「それは……分かりません。各方面の城塞の兵士達と連絡を取っている最中ですが、事態を把握しきれていなくて……。とにかく私は、陛下のご無事を確認するため、参ったところで__」


 その兵士が説明している最中、突如ナイフが飛ぶ。ナイフは、兵士の背中に刺さる。呻き声を上げてよろめく兵士は、驚いて後ろを振り返る。


「ゴ、ゴブリン……!?」


 兵士が振り向いた先__寝室の入り口に、3体のゴブリンがいた。それぞれ剣を持ち、腰にはナイフを縛り付け、ぎらついた瞳でイーディア女王を睨み付けていた。剣やナイフは、おそらく奪った物だろう。


 そして、よく見れば、一番後ろのゴブリンは、メイドのエルフを片腕に抱え、もう一方の手に握った剣を、そのメイドの喉元に据え置いている。人質だった。人質にされているメイドのエルフは、腕や頬から血を流し、憔悴し切った表情で、ゴブリンのなすが儘となっている。


「ヒトジチ、イル! ウゴクナ! ウゴクナ!」


 耳を劈くような高い声で、ゴブリン達はそう叫ぶ。ちゃんと人質の利用の仕方を心得ているのだ。


 ナイフの痛みに苦悶の表情を浮かべながら兵士は、素早く剣を引き抜いて、イーディア女王を背に庇う体勢を取る。


「陛下! そ、その……、私は、どうすれば……?」

「どうとは……」

「奴らを、……殺しても……」


 兵士は、目の前にいるゴブリンに対して、刃で対抗しても良いものかと、躊躇していた。


 最近になって行われたイーディア女王による粛正は、当然、兵士達皆知っている。そして、兵士は、ゴブリンに対する殺傷行為により、自分もまた同じように処罰されるのではないか、恐れているのだった。


「そ……それは、……人質もいますし……ここは……」


 この状況下、イーディア女王としても、判断を決めかねていた。


「しかし、このままでは、陛下の命が! ここは、やむを得ないのでしょうか!?」


 ゴブリンを斬り殺しても良いか。場合によっては、人質がいるが、女王陛下を守ること優先して、見捨てでも反撃しても良いのか。兵士は、そう訊いているのだった。


「い、いえ……何とか、できないのですか……?」

「何とかって!?」


 余裕が無く、半ば涙声で、兵士は訊き返した。


 そんなイーディア女王達のやり取りに構うことなく、ゴブリン達は、剣を握り締め、襲い掛かろうと地面を蹴った。


「ひぃっ!」


 兵士は、身を縮めて悲鳴を上げる。


 その次の瞬間、寝室に突風が走る。その場にいた者達は全員、体を殴りつけるように強い突風に抵抗することが出来ず、風に乗せられるまま床を転がっていった。


 間髪入れず、銀のー閃が駆け抜ける。そして、ゴブリンの悲鳴と、迸る鮮血。


 突風に転がされたイーディア女王は、訳が分からぬまま体を起こし、部屋の状況を確認する。


「姉上……、いや、陛下、……間に合ってよかった……」


 そこに立っていたのは、全身に返り血を浴びたリアリス。右手には剣、左手には魔術に使う宝珠を握っていた。そして、彼の周囲には、首を刎ねられ血を撒き散らして死した、3体のゴブリンが横たわっていた。


 リアリスは、風の魔法でゴブリンを吹き飛ばし、そして、一瞬の内に剣でその首を刎ねたのだ。見事な魔術と剣術の合わせ技。フィール王国随一の戦士と称される、彼だからこそ為せる業だった。


「……リアリス、貴方……なんてことを。ゴブリンを殺して……」


 イーディア女王のその言葉に、リアリスは顔を顰めた。一言目が、それかと。自分の命が危なかったというのに、ゴブリンの死を気に掛けるのか。


「いい加減にして下さい、陛下。これはやむを得ないことですよ」

「それに、貴方、牢にいたはずでは……」

「抜け出して来ました。……こんな緊急時に、私があんな場所に呑気にじっといているわけにはいかないでしょう」


「どうやって抜け出して来たかを訊いているんです」

「私には多くの味方がいるんです。本当に信頼してくれる味方が。牢屋なんていざというときに簡単に抜け出せるし、外部の情報もちゃんと把握出来ていますよ」


 リアリスは、牢屋に閉じ込められている時も、密かに看守の人を通して外部の状況を報告してもらっていた。そして、いざという時に、抜け出せるように、牢屋の鍵を渡され、隠し持っていた。


 そして、今、緊急事態を聞きつけて、牢屋から飛び出してきたところだった。


「……貴方、こんな勝手が許されるとでも……」

「本当、呆れますね。この状況で、そんな口を利くんですか。

陛下は、私のおかげで助かったんですよ。貴女だけじゃない、貴女を庇っていた兵士も、人質にされていたメイドも、ゴブリンに殺されるところでしたよ。それで良かったんですか? 彼らの命は大事ではないんですか? ふざけるのも大概にしろよ」


 リアリスの言葉に、怒りの色が混じる。


「城下町で、ゴブリンが暴れているらしい。無辜の民が襲われている。平穏に暮らしていた、無防備な民が」


 フィール王国のエルフの大半は、戦闘訓練を受けていないどころか、まともな護身術すら覚えていなかった。戦争や警備、治安維持等は、兵士が全て担っており、エルフだからと言って、必ずしも戦闘力が高いわけではない。


したがって、城下町でゴブリンが暴れることで、甚大な人的被害が出るおそれがあった。だから、リアリスは焦っていた。


「奴らは、この城にまでやって来て、城の住人にまで襲い掛かっている。既に、多くの同胞の血が流れた。事態は一刻の猶予も無い状況。__陛下、我ら兵士に、殺傷行為の全面解禁を宣言して下さい」

「そっ……、それは……」

「それは……?」


 イーディア女王は、首を強く横に振る。


「それは、出来ません! 出来る限り殺さないようにして鎮圧をして下さい!」

「……」


 その言葉を聞いて、リアリスの目の色が変わる。凍えるような、冷たい目の色になる。彼は頷き、不気味なほど落ち着いた声で言う。


「そうですか。ならば、私が、女王の名を借りて、兵士達に殺傷行為を命令します」

「は? リアリス、貴方、何を言って……」

「__おい、お前! この部屋から動かず陛下をお守りしろ。襲いに来たゴブリンは容赦なく殺して構わん。頼んだぞ」

「だから、何を言っているんですか!?」


 リアリスは、イーディア女王を無視して、床に倒れていた兵士を起こし、女王を守るように命令しておく。


 イーディア女王は、嫌な気配を感じ、焦ったようにリアリスに詰め寄る。


「貴方、何をするつもりですか!? 勝手なことは許しませんよ!」

「陛下はこの部屋で寝ていてください。ちょうど寝室で都合が良い。貴女がやりたくない汚くて辛い仕事は、私どもがやりますので」


 そう言って、リアリスが取り出したのは、粉が入った小瓶。イーディア女王は、その小瓶に入った粉の正体が、あの効果抜群の眠り薬だと気付き、彼の行動を察する。


 逃げようとするイーディア女王だったが、リアリスの素早い動きで、彼女は腕を掴まれ引き寄せられる。そして、小瓶が開けられ、魔法の風によって、彼女は眠り薬を無理やり吸わされる。


 イーディア女王は、眠り薬の効力に抗えず、眠りに落ちた。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 頬に鋭い痛み。


 誰かに、頬を叩かれた。


 イーディア女王は、痛みで目を覚ました。気付けば、自分は寝室のベッドの上で寝ていた。朧げな記憶の中、ゆっくりと上半身を起こして、寝ぼけ眼で周囲を見渡した。


「やっと起きましたか、陛下」


 まずその場にいたのがリアリスだった。その全身は、夥しい返り血で汚れている。


 そのリアリスの顔を見た途端、イーディア女王は、眠りに就くまでの記憶を思い出し、血相を変えてベッドから飛び上がった。


「……リアリス! ……貴方、一体何てことを!」

「すいません、陛下。貴女が、全然起きずに間抜け面で寝ていましたもので、少々手荒く起こさせてもらいました。恐縮ながら、頬を叩いて」

「いえ、そうではなく、貴方、この私を無理やり眠らせて……! ただで済むと思っているのですか!?」

「それよりも、ご報告申し上げます」


 リアリスの、慇懃無礼な口調の裏には、冷たい怒りの棘があった。彼は、暗い瞳で、イーディア女王を見つめる。目が据わり、その表情に一切温かみが無い。


 気付けば、寝室には、リアリスの他に、数人の兵士やメイドがいる。皆一様に、げっそりしていた。


「出現したゴブリンは、捕虜収容所から脱走してきた者達と判明しました」

「脱走……」

「そうです、脱走です。収容所の牢の鍵は悉く開けられて、そして、牢番達は皆、殺されていました。収容所の監視体制についても改善するように忠告していたはずですよね……。いえ、今はそれよりも__」


 リアリスは、イーディア女王への非難を堪えて、話を続ける。


「把握していた収容数は743匹。現在のところ、そのうち死亡を確認したのが588匹。捕縛したのが117匹。残りの行方は不明です。残りは、集計漏れしているのか、逃げたのか、隠れているのか分かりませんが、引き続き警戒態勢を取ります」

「死亡が588……!? 殺したのですか、そんなに……?」

「そうです」


 イーディア女王は、顔を青くした。


「陛下がお休みになられている間、私が、女王の名を借りて、兵士達に殺傷行為を全面的に許可しました」

「本当に、貴方は、何てことを……! これは、反逆罪ですよ! 女王の名を勝手に騙り、勝手に兵士に指示を下した、女王への忠誠に背く行為! 許されざる国賊め! ゴブリンの尊い命を蹂躙した殺戮者め!」


 激昂するイーディア女王に、リアリスから鋭く平手打ちが飛ぶ。


 イーディア女王は、よろめき、ベッドの上に崩れ落ちた。頬の痛みに震えて、口を閉ざす。恐怖を感じた。痛みに対する恐怖ではない、平手打ちから伝わったリアリスの底知れぬ怒りに、驚き、恐怖したのだった。


 リアリスは、説明を淡々と続ける。


「現在、暴れていたゴブリンの鎮圧を、ひとまずは完了しました。ですが、我らの兵士や住民の死傷者数はまだ確認できておりません。町の、そして、城内の死者の片付けもまだです」

「死者……」

「ですから、陛下、是非とも城内が綺麗になる前に、私と来て下さい」


 リアリスは、イーディア女王の腕を強く掴んでベッドから起き上がらせ、強引に寝室の外へと連れ出そうとする。


「リ、リアリス! 一体、何処へ……」

「城内を歩き回りましょうよ。貴女には、見なければならないものがある」


 リアリスの声には、拒否を許さないと言わんばかりの、強い意思が込められていた。


 イーディア女王は、リアリスに腕を引かれるまま、城内の廊下を進んでいった。リアリスは、魔法で指先に光を灯し、城内の様子を照らした。


 そして、血を目にする。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

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