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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第1章 被害者面の女王様が、冷たい床の上で土下座するまでのお話
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第9話 女王の悪あがき

 残り1回の魔法で、アデルが行ったことは、時を止めること。それは、エリザベート女王と取引をするためだった。


「私に刃を向けてきた以上、本来ならば、あなたとこの国をまとめて灰燼に帰してやるところだったのよ。それが、私にとって最も簡単でリスクのない選択だったの。だけど、互いの利益のため、私はあなたと取引することを選んだ。取引が成立するかは、あなた次第だけど」

「取引ですか……」


 アデルのエリザベート女王に対する言葉には、暗に脅しが含まれていた。自分との取引に応じなければ、この国を亡ぼす、と。


 アデルは既に、7日間のうちで行使できる魔法を使い果たしている。アデルが次に魔法を使えるようになるのは、今夜の12時を回った時点だ。彼女は今、いざというときに実力行使はできない。


 しかし、エリザベート女王はその事を知らず、アデルが今すぐにでも魔法を使えると思い込んでいる。そして、今まさに時を止めるような大魔法を見つけられ、“あなたとこの国をまとめて灰燼に帰してやる”とのアデルの言葉が決して妄言ではないと感じていた。


 実際、少なくとも今、時が止まった世界の中で、エリザベート女王を護衛できる兵士はいない。彼女は今、眼前の魔女に容易に殺められる状況にあった。


 だからアデルは、強気に出る。


「取引はこうよ。私とジローが、20年前の真相を漏らさないままこの国を出ていく。それと引き換えに、例の悪魔の力を宿した指輪を私に譲りなさい」


 提示された取引内容に、エリザベート女王が驚く。


「なっ!? 悪魔の指輪を……!?」


 そして、もう一人、その取引内容に、ジローは飛びつくような勢いで物申す。


「アデル殿!? 真実を隠すというのですか!? そんな馬鹿な!」

「不服なの?」

「当たり前ですよ! あんまりです! このまま私の父上の冤罪を晴らさないと言うのですか!?」


 大声を張るジローに、アデルは冷めた目を向ける。


「あなた、私との取引をする時に言ったわよね。ただ真実を知りたいって。そして、父親の名誉回復を望んでいるわけではないって」

「父上の名誉回復を望んでいないとは言っていません! あれは、たとえ20年前の事件の真実がどのようなものであっても受け入れるという意味で言ったのです! そして、今、父上の無実が明らかになった以上、それを世間に伝えるのが道理というものでしょう! この国に蔓延した残酷な偽りを払拭するのです!」

「いえ、あなたはこのまま私とこの国を去るのよ」

「そんな……!」


 ジローは、とてもではないがアデルの命令には従えない、といった様子だった。アデルは、そんな彼に苛立ちを覚える。


 黙って従え、と一蹴したくなる気持ちを抑え、アデルは、ジローを説得するよう試みる。彼の協力なくしては、円滑に取引を行えないからだ。


「いい? あなたは、あなたの尊敬する父親の思いを踏みにじろうとしている。20年前の真相を国民が知れば、どうなるかは想像がつくでしょ。王族が悪魔の力を濫りに使用し、しかもその事実を長年隠匿していたことが国民に明るみになれば、王家の威信は堕ち、王政が危ぶまれる。

 あなたの父親ジルは、自らの命を払ってでもエリザベート女王を庇い、王家の威信を守ろうとした。そんな英雄が勇敢で尊い行動で守ったものを、その息子が台無しにするというの? あなたの父親はそんなこと望んでいないわ」


 その言葉に、ジローは狼狽える。言われてみれば、確かにアデルの言う通りだった。


「そして、重要なことを忘れているんじゃないでしょうね? あなたは、魔法の取引において、自身の全てを私に捧げると契約したはずよ。__確か、誇りにかけて誓ったはずじゃなかった? つまり、あなたは、私の命令に従わなくてはならないはずよ。

 父親の思いだとか、自身の誇りだとか、私にはひどくつまらないものに見えるけど、あなたにとっては、それなしでは人として生きていけない程の、欠かせないものなんでしょう。どうなの?」

「それは……」


 ジローは項垂れる。


 自身の今までの理不尽な経験が彼の脳裏に過り、アデルの命令を受け入れることに逡巡する。だが、彼女の命令を拒否することは決してできなかった。まさに、アデルの言う通りだったのだ。父親の思い、そして、自身の誇り__彼には、それを無視することはできない。


 目を伏せ、唇を強く噛みしめながらも、葛藤の末、ジローは悔しい思いを滲ませて、


「……分かりました、アデル殿」


 小さな声で、アデルの命令を受け入れた。


 それを聞いて、アデルは満足そうに頷いた。


「さて、エリザベート女王陛下、この通り私とジローはこのまま国外へ立ち去る準備ができています。例の指輪、譲って貰えますよね?」

「ちょっと待ってください! あれは我が国にとって極めて重要なもの。我々王家は、代々その指輪を守ることを使命としています。他人に譲れるものではありません!」


 アデルは、不快そうに眉毛を曲げる。


 そう、説得すべき相手は、ジローだけではなかった。


「はあ? 私との取引に応じなければ、どうなるのか分かっているの? せっかく取引っていう穏便な形で解決させてあげようとしている私の感動的な温情を汲み取れないのかしら?」

「しかし、あの指輪を失えば、我ら王家は……」


 こちらも、すんなり応じてくれそうにもなかった。アデルは、苛立ちを抑えるように、腕を組む。


「結局は、あなた達王族があの指輪を管理している、と国民が信じていることが重要なんでしょう。ルソル王国を亡ぼしかねない悪魔の力を宿した指輪を、王族の血統の者しか開けられない扉の中で封印し、王家がその悪魔の力を自由にできる__だから、国民は王家に逆らえない。そのロジックが、この国の王家の威信を支えている。そうであるなら、たとえ王家が指輪を失っても、国民が今だに王家が指輪を管理し続けていると思い込んでくれれば十分よ。

 だから、国民に知らせず、秘密裏に指輪を私に譲ってくれれば良いわ。幸い、今この会話を聞いている者は、他にいないし」


「我ら王家の使命は神聖なものです! 貴女の言うような野蛮な理屈で、王家の威信が支えられているわけではありません!

 それに、あの指輪は、非常に危険な物です。人が濫りに用いてはいけない物です。殊に、貴女のような得体の知れない者に、渡すことはできません」


「神聖な使命? つまらない幻想ね。統治者なら、幻想に囚われる側じゃなくて、利用する側になりなさいよ。

 それに、あなたは、あの指輪を過度に危険視しているみたいだけど、あんなのは、ただのマジックアイテムよ。使い方さえ間違わなければどうってことないわ。熟練の魔法使いである私なら安全に扱いこなして見せるわ」


「いいえ、危険です。そもそも、あなたはあの指輪をどうするつりですか?」

「私は、自分に掛けられている呪いを解くために世界を旅している。悪魔の力を宿した指輪なら、私に掛けられた呪いを解く鍵になるかと期待しているの。そのために使うだけだから、少なくとも、この国に迷惑はかけないわ。安心して、指輪を渡しなさい」

「……信用できません」


「それに、危険のことを言うなら、あなた達があの指輪を保管し続ける方が危険じゃないの? またどこかのおてんば娘が指輪でおいたするとも限らないし」

「……貴女っ!」


 アデルの皮肉に、エリザベート女王が顔を赤らめる。相手をからかうことはアデルの癖であり、その癖は、とりわけ彼女が苛立っているときに現れる。アデルは、エリザベート女王が、取引に快諾しないことに苛立っていたのだった。


 アデルは大きくため息を吐く。


「いい加減にしてくれるかしら、女王様」


 その口調が険悪なものになる。


「あなたは、大前提を理解していない。どうあがいても、あなたに満足のいく選択肢なんて用意されてないのよ。できるのは、まだましな選択肢を選ぶことだけ。

 私は、あなたにとってまだましな選択肢を用意してあげているのよ。確かに、素性がわからない私に指輪を渡すことに不安を抱くのはもっともだけど、王家の威信の失墜とこの国の滅亡を回避できる唯一の選択肢は、私との取引に応じることしかない。__これ以上承諾を渋るのであれば、最悪の結末をくれてやってもいいのよ」


 アデルの赤い瞳が、鋭くエリザベート女王を睨みつけた。その眼光に、これ以上の反論は許さない、という威圧が込められている。


「っぐ……その……」

「何?」

「……」


 アデルの冷たい声に、エリザベート女王は思わず口を閉ざす。


 時が止まった世界の中に、重たい沈黙が下りる。戸惑い黙り込むエリザベート女王を、時は逃がしてくれない。指先に魔法の光を灯し続け、時を止め続けるアデルは、永遠に返答を待つと言わんばかりに静かに屹立し、エリザベート女王に冷酷眼差しを向けている。


 逃げられない。逃がしてくれない。追い詰められ、エリザベート女王は、地面に膝をつく。


 そもそも、この恐ろしき魔女の前で、エリザベート女王に選択肢などなかった。


 エリザベート女王も、理解していた。納得していた。この魔女との取引に応じる他ないと。それが、『赤リボンのアデル』を前にして、一国の王女が採るべき、合理的な選択肢であると。__ただ、この追い詰められた状況を受け入れたくなくて、子どもが駄々をこねるように、アデルの言葉に反発し続けていただけであった。


 アデルは、無言でエリザベート女王の様子を見つめ続けている。


 そして、


「……わかりました」


 エリザベート女王が、そう返答した。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


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