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終章

 奥の間にいたモノはすっかりいなくなり、塗込の中などは畳も床板も荒れてがらんどうになっていた。

 まだ、箱の中身はときどき湧いて出たが、それは「彼女」に関係なくこの家の者が置いた箱に入ったもの達でできていたのだから、それが尽きるまでは終わらないのかもしれない。たまに、長持ちに「元に戻っていいんだよ、ただの木箱になりなさい」と由良が話しかけている。だが、長持ちは特には意思表示をしない(ただの呪具だから当たり前かもしれないが)。

 家人達も、大半がいなくなってしまった。残っている者も、日を追うにつれて減っている。一時期出ていた人面のモノも、たまに出るくらいで、数は多くない。捕まえてきて、瑠璃部に食べて消化してもらっている。今のところ危険ではなさそうだ。

 仏壇も神棚もない家だったので、由良はひとまず、自分で書店でお経の本を買って、彼らの墓のあるところまで行くことにした。


「はぁ……」

 自分で決めたこととはいえ、ちょっと後悔した。歩いても歩いても山。この状況と似たような句を思い出す。山頭火はこれを修行か何かだと思っていたのだろうか。

 無舗装の道をよじ登って、由良はどうにか頂上にたどり着いた。道中、草むらに大きめの石ころがいくつも転がっていて、おそらく、昔の村人の墓ではないかと思われた。あちこちで足を止めて、お経をたどたどしく読んで、あの人はもう行ってしまったので安らかに眠ってくださいねと話しかけるだけなのだが、ひょうひょうと秋風が足下をすくい、ほてった頭の汗を冷やして、だんだん由良を不安にさせた。これ、かえって先祖を怒らせてないか、大丈夫か。

 でも、自分が、慰霊したいと思ったのだから――安心していいと言っておきたかったから、やるしかない。物好きだなと梓は眉間に皺を寄せてこちらを見ていたが。コンビニのバイトのシフトを変えてまでついてきた。

 山頂の景色はそこそこ開けていて、そこでピクニックのように、お弁当を食べた。

 それから、下山して、麓の墓地に向かう。古くは山の近くにもあったが、家人の多くは家の近くの、裏山の麓に墓を置いた。その一角に、名前のない、赤ん坊みたいな大きさの墓石がある。

「これ、三船が作ったんだね……あの子の?」

 そうだねと、藪の風が囁きを返す。三船も、一部の家人らと同じで、まだ家にいる。

 風が呟く。

 いつか、これがあの子の鎮魂になればと思ったよ。

「そっか……」

 眠る魂はここにはいない。けれど、願うことはできるだろう。祈ることも。

 草陰で小さな虫がうごめいている。あの子が触れたかった外の風、外の生き物。

 新たな化け物を生み出したりしていないといいが――今のところ、怪しげなニュースは出ていない。友達からも、おいアレお前んちのだろ、という連絡も来ていないから、大丈夫だろう。

 梓のいるコンビニで、あんまんを買って帰る。月が出ている日には夜道がこうこうと照らされている。

 あの子の四十九日(仮)も由良がお経を読み上げた。家自体、菩提寺があるようなないような、微妙なままだ。きちんと、葬ることもできずに、いろんなものを封じ込め続けてきた家だから。でも今は、違う。

(そこら辺も、考えていかなきゃいけないのかな)

 どうか、自分の道が、梓の道が、多少でこぼこしていたっていい、望むように歩けますように。

 由良は願って、道を急いだ。

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