母旅~出発前
第18章
シャワー上がりのショートパンツ姿で寝ようとしたら。
「あっちゃん、足を冷やすと神経痛になるに!」と母がたしなめた。
「だって・・・」と言うと。
「涼しくて気持ちいのは分かるよ。でも糖尿だっておいしくてたくさん食べて動かんかったでなったんだに?自分の気持ちいい事ばっかりしとったら、後で大変な思いをするに。」
なかなか耳が痛い。
「はーい。」
と言ってスウェットをはく。
「おやすみなさい。」
「おやすみ。」
そういえば、吐き気や、お腹の具合が悪いのが全く無い。
副作用と思っていたが、精神的なものだったのか。
そんな事を思いながらいつのまにか眠っていた。
翌朝も6時ぐらいに目が覚めた。
昨日眠ったのが夜9時過ぎだから、よく眠った。
「起きたん?」と上から声がする。
母も寝起き声だ。
第19章
母と自分の朝食を買いにコンビニへ。
母は昨日の朝食の残りのぶどうパン2個があるから飲み物だけでいい、と言うのでホットコーヒー
私は何の気なしにメロンパンと小さなぶどうカスタードパンと豆乳。
さっきももらった1000円のお釣りで、母へ、と毎日新聞を買う。
今朝は母の目の前で、トレシーバとリキスニアを腹に注射してセイブルを飲んでパンをたべだした。
「一口くれりゃあ。」といってはメロンパンを大きく持っていく。
「取ったる。」と言ってぶどうカスタードパンを大きく母はえぐり取っていって笑ってる。
「もうー。」と言って私は笑った。
メトホルミンとエクアを飲んで喫煙所でタバコを吸って、楽しい気持ちで帰ってくると。
母が広げた新聞紙の上で自分の化粧ボーチのボロボロになった合革の部分を。
「なんかポロポロくーろいのがカバンに落ちると思ったらこれがめくれてきとったに。」と指ではいでいる。
「こうやってめくったところをマジックで塗ればわからんね。」と言ってはめくれてきたものを指ではいでいる。
「おお!大きいのが取れたがに。」とペリっと剥ぐと母はなきだした。
「お母さんどうしたん?」と心配になって急いで訊くと。
「だってあっちゃんがあんな甘い菓子パン食べただに。。。。あんな甘い。」
ハッとした。
ただえさえ目の前で自分の腹に自分で注射する姿を見てショックを受けたろうに。
なのに、私は何の気なしに菓子パンを2つもたべた。
「普段信号が点滅してるのを渡るのもいかんのに、こんなうるさいお母さんが居ても食べるなんて、お巡りさんが見とっても点滅信号渡るようなものだに。」と言って泣いている。
「ぼんやりしとって、前みたいに食べただけだに、わざとじゃないに、気が付けんかっただけだに。」
まだ泣き止まない。
「もう。。。一生菓子パンは食べんに。。。」
「本当?他の食べ物にも気を付けるかや?」
「気をつける。」
やっと涙は止まったが風化した合革をめくる手は止まらない。
ぺりり、ぺりりとめくりながら。
「前にあっちゃんがどうしても気に入ったバッグ買うために、その前にお母さんが買った黒いバッグ返品したの覚えとる?」
「私が2万円のバッグ気に入っちゃってお母さんがお金たりんくて5千円のバッグ返しとったね。」
「あの後返したバッグと同じやつが後から名古屋に送られてきたに。」
「あれ!そんな親孝行したっけな?」
本当に覚えていない。
「さて!めくり終わった。ハゲになったでよ。」
とポーチをポンと置くと。
「あんた。これで最期まで一緒だに。」
と母はポーチに話しかけている。
母はかわいい。
最期と言う言葉が切ない。
母とのお泊りが終わった。
帰り際母は受付の白人女性に
「サンキュー!サンキュー!ありがとねーありがとねー」
と言った。
「バーイ!ハバナイスデイ!」
と女性が応えた。