母旅~hi!
第13章
ゲストハウスに着くと、入口に体格の良い白人男性数人が座って何やら話している。
「ハイ!」と口々に挨拶する。
私も返す。
母は小さな声で「ハーイ」と言っていた。
「どてらい階段があるで。お母さん大丈夫?手すりがあるでつかまりゃあ。荷物、持とうか?」
「大丈夫だに、あんた先行きゃあ。」
などと言いながら、急な階段を上って部屋にたどり着く。
部屋のキーを開けると母を小さなテーブルの前の小さな椅子に落ち着かせる。
「いつもは5時には食べとるで、まあ7時半だで。」
「お母さん食べやあ。」
母はむっしゃむっしゃとエビグラタンをプラスチックのスプーンですくっては食べた。
「新幹線の中でお弁当かなんか、食べとると思ったに。」
「やっすいチケットだで遅い新幹線でねえ。」
「こだまできたん?」
「ひかりだけど、どっかで止まっちゃあ、先に通してばっかりで。」
母はいつも割引チケットを使っていた。20年前に私が帰省した時も
「お弁当代が出るで。」と言って割引チケットを私に渡していた。
今回も高い新幹線のお弁当を節約したのだろう。
それか、怒りで打ち震えて、私の顔を見るまで食欲がわかなかったか。
「やっぱりこういうのは味が濃いね。」
「コンビニのだで若い人のだで。」
3分の2食べると母は「多いに。」と言うので
「残しゃあ。」と言うと
「あんたが夜中にお腹がすいて食べるといかんで。」と無理に食べている。
「じゃあ捨てやあ。」と言っても母の年代で食べ物を捨てれる人はそういない。
なんだかんだ言いながら食べ終わると、
「やっぱりお腹がすいとるといかんね。」と言う。
お説教が始まるのが怖くて
「ゴミ箱が外にあるで、案内ついでにトイレ教えるわ。」
「そうだね、夜中にトイレいくだで覚えにゃ。」と連れだって廊下に出る。
「ここがトイレ、これがごみ箱、分別ね。」と分別の仕方を教えるとふんふんと聞いている。
「分からんくなったらまたききゃあ。」と言うとこくっとうなずいている。
「ここがシャワー。立って浴びるに。」
部屋に戻ると。
「あんたはどうやってこういうところを知るん?」と言うので
「ネットとか。あと学生時代ワンゲルにいたで。お母さんの分かる感じで言うとユースホステルみたいな感じだに。」
と言うと
「ほー、そうかね。」
と感心している。
「あんたに呼び出されると、いっつもどてらいところを知るに。」
10年前の別居騒動の時、倒れた私のために一か月3万円のドミトリーのゲストハウスから荷物をひきあげてくれたのは母だ。
「今度のとこはちったぁいいねえ。」
「そこに狸の絵が描いたるに。」と言うとチラッとみて
「和めるねぇ。」と言っている。
さて、お説教の時間が始まる。