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母旅(ははたび)  作者: 大久保ひより
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沈殿

第9章


しばらくゲストハウスで丸くなっていると、気持ち悪さが薄らいだ様な気がして来た。

下腹部が痛んでギュルルと動く。


トイレに行くついでに外に出てしまおう、とキーを持ち、グッチとディオールの腕時計をボストンバックから取り出す。


これを売ってお金を作りたい。


トイレで水下痢。

若干薄気持ち悪いがそうでもない。


トイレから出ると中華系の男性と「おはようございます」と挨拶する。


外に出てタバコを吸う。

歩き出すと若干フラフラする。


土地名物の商店街をぶらつくとすぐに「高価買取」の文字が目に入った。

感じの良い中年女性がディオールの時計は買い取れるがグッチは電池切れなので無理だ、と言う。


「うちだとすごく安くなってしまうから、奥の時計屋さんの方が良いと思う」とアドバイスしてくれて時計屋の場所を教えてくれた。


時計屋は若い男でルーペで2つの時計を見ると

「こちらは買い取れません。」とディオールの方を戻すと「グッチってバックのブランドさんじゃないですか、電池入れるだけでもお金かかるし、ガラスに傷が入ってますね。」

と時計をディスりはじめた。

「いくらですか?」と訊くと、

「千円です。」

「じゃ、良いです」と時計を取り戻すと時計屋の若い男が一瞬

「あっ。」

という顔をした。


これは持っておこう。


途中のラーメン屋に

「ホタテの出汁のあっさりした旨み」

と書いてあって、

「スープだけ少しだけ飲みたいな」と私は思う。


思ったらまたフラフラして来たので手近なカフェに入る。

アイスティーを頼んで

「とりあえず、金の事は今は考えないようにしよう。」と思いながらぼんやりしていると、隣のカップルの女の方が

「生きてるだけで丸儲け、ホントそうだよねー。」


アイスクリームといちご、ホイップのタップリ載ったパンケーキをムシャムシャ食べながらデカいこえで言ってたので、そいつの腹に注射針を100本刺してやりたいと思ってたら、また吐き気がして来た。


第10章


既に昼の1時を回っているけど、気持ち悪さとお腹の痛さで、食欲は無い。

居座っているカフェを後にする。


ゲストハウスに戻って、喫煙所でタバコ吸って、横になろう。


ゲストハウスに着いて、持ってるエコバッグを探ってもタバコとライターが無い。

さっきのカフェに忘れたのだ。

土地の名前とカフェの名前でググって電話をかける。

「お預かりしてます。」

との事だったので20分くらい歩いて取りに行く事にした。

タバコを受け取って、さすがに疲れてベンチに座って休む。

まだ気持ちが悪い。


…疲れた

気が沈む。

こうして旅に出ているのに何故気が沈むんだろう。

疲れるんだろう。

とぼんやりしていると、雨。

低気圧か。

明日、一日中雨でもいいな。

そしたら、ずっとこのゲストハウスで丸くなって過ごす。


市街地からゲストハウスに向かう所にあるスーパーで半額のパンを買う。


ふとこのゲストハウスでは「何の為に来たのか」とか、「何かの時の連絡先を」とか言わなかったな。

「ドラッグを持ち込まない事」という項目に、一応言って置いた方がいいと思って

「私は糖尿病で、注射でインシュリンをお腹に打ってます。

ドラッグとかではないです。」

と強めに言った。


断わられたらどうしようと緊張して、つい、口調が強くなってしまった。

管理人の若い女性は、静かに「個室だから、大丈夫です」と言った。


静かで軽やかな物腰や考え方の表明の仕方に慣れてない私は、心動かされたものだ。


セイブルを飲んで半額だったパンと麦茶を食べる。

メトホルミンとエクアを飲んでベッドでゴロゴロする。

うっすらと気持ち悪くなるけど、すぐに引いて行った。


今朝までとは大違いだ。

今日はすごくよく歩いたが、帰り道少し寒いくらいだったので、シャワーは明日の朝浴びよう。

下のリビング行こうかとも思うけど、ノーメイクなのが気になる。


メイク道具を忘れてきてしまっている。


ドイツ語の話し声を聞きながら、ゴロゴロする。

部屋に食べ物は、無い。

その事に安心する。


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