5話
俺が黙っていると、レセルはまた口を開いた。
「もちろん、ヨマさんにもメリットはあります。
この村の塀は、エルフしか開けることができません。
エルフの協力者がいないと、外に出るのは難しいのではないでしょうか。
願いを叶えていただければ、私たちが貴方を外に出して差し上げますよ。それに何より、ここにいつまでも居たい訳ではないでしょう。私たちに協力して貰えませんか」
脅しのような言葉だが、事実だ。
もし、彼女らが俺を匿ってくれなかったら、少し厄介なことになる、
自力で村から出れないと思わないが、そこそこ、悲惨なことになるだろう。
しかし、いいように使われるのも気分が悪い。
それを察したのか、レセルは慌てて言葉を足した。
「お礼はいたします。
ヨマ様はここから出たとして、どうされるおつもりですか」
「旅に出る」
間髪入れずに答えたが、難しい選択なのはわかっていた。
人がいる場所に行けても、流れものだとバレると危ないかもしれない。
おっさんの話が本当ならば、人の国に入るのも一苦労だろう。
そう考えていると、レイルが声をかけてきた。
「もし、火の木をどうにかできたら、私たちがヨマの旅を手伝うわ」
「私たちは、ヨマ様よりは、この世界について知っています。きっとお役に立てるはずです」
一見、素晴らしい提案のように聞こえるが、
彼女たちが役に立つのだろうか。
彼女たちはこの村以外のことを、おそらく知らないだろう。
少し考えて結論を出す。
世間知らずでも、いないよりはマシかもしれない。
この世界の常識は、おそらく彼女たちの方が持っているはずだ。
それに、どうせ苦労するなら、得るものが多くて楽な方がいい。
口約束なのが気になるが、仮に契約書を交わした所で意味はないだろう。
「わかった、その木をどうにかすればいいんだな」
操るとは言わない。
その木をどうにかするのは、まあできるだろう。
木を枯らすなら、いくつか手はある。
それが効かなかったとしても、ゾウを大量に作り出し、体当たりさせ続ければいつか折れるだろう。
きっと大丈夫だ。
「詳しい、火の木についての情報をできるだけくれ。
あと、カタアさん。
私がここで死んだらお酒も作れません。手伝ってもらえませんか」
「まあ、いいだろう」
おっさんは少し面倒そうな雰囲気を出したが、頷いてくれた。
「では、火の木を調伏していただけるのですね」
レセルはパッと花が咲いたように笑った。
「本当にありがとう」
レイルも同じ笑顔で笑う。
「いや、どうして植物も操れると思ったのかは知らないが、俺にその火の木とやらを従えることはできない」
少しだけ本当のことを話す。
「俺ができる可能性があるのは、その木を枯らすことと、折ることだ。
その木を殺すことになるが、それでよければ手を貸そう」
さてどうでるか。
一応神様的な存在を殺すと伝えて、俺と組むだろうか。
レイルとレセルは少し目を瞑る。
しばらくすると、同時に目を開けた。
「わかりました。
それが一番いいのかもしれません」
「エルフを解放して」
重大な決断だと思うが、割と短い時間で結論を出したな。
「なら、やるべきことは2つだろう。まずはその木を見てみたい。
何が可能で何ができないのか。それを見極めたい。
知っていることを全て教えてくれ」
2人の話をまとめると、相当厄介な木みたいだ。
近づいた生き物は灰に変えられるらしいが、凄まじい速さの鳥が迷い込んだ時に、幹の周りをグルグルと回っても燃やされなかったらしい。
予想でしかないが、一定の距離の中に入れれば、燃やされることはないのかもしれない。
しかし、そんな速度で行動できる生き物は、あんまりいない。
なら地面から攻めてみるか。
「とりあえず色々やってみたい。実験させてくれ」
「あまり時間はありません。何度も試すことはできないと思います」
「できる限り一回でやってもらえない?」
ただでさえ面倒なことを、ほぼ準備なしでやるのは辛い。しかし、やるしかないか。
「わかった。一応最終手段も用意しておく」
特に考えていないが、どうにかなると信じる。
「とりあえず、何匹か動物を潜ませたい。火の木の近くまで隠れていって、色々仕込んだらもう一度ここに戻って来れるか?」
「できなくはありませんが、大丈夫かはわかりません。恐らく脱走したことはバレていると思うので」
「できる限り時間はかけないよ」
また、あの光化学迷彩のようなものをかけてもらい、手を引かれるまま村長の家に向かった。
なんでも、村長の家は火の木を囲むように建ててあるらしい。
一応、最速の生き物として、ハヤブサに最終兵器を付けて空に放っておく。
そして手のひらから同じように最終兵器を付けた、ヨーロッパモグラを作りだして火の木に近づける。
まあ、火の木までたどり着くかはわからない。とりあえず、土の中まで火の木の攻撃が届くのかを調べることにした。
生き物を放った生き物を感じながら、隠れ家でくつろぐこと4時間。
モグラが木の根にタッチした。
モグラは何ともないようだ。
どうやらあの火は土の中までは燃やせないらしい。
そう思っていたが、地面ごと燃え上がった。
モグラは灰に変わってしまった。
燃えた灰が木に吸われていくように上がっていく。
ふと考えが浮かんだ。
「なあ、もう一度、あの木の所に行きたいんだが、頼めるか」
「ええ、構いませんが」
「どうするつもり?」
2人はすぐに答えた。
少し回答が早すぎるな。
不審には思いながらも、それを顔に出さずに答える 。
「もしかしたら、サクッと終わらせられるかもしれない」
2人に連れられ、火の木の所は来た。
そこで、トラをできる限り召喚し木に突っ込ませた。
すると、どんどん燃え尽きていくが、燃えた分だけ木に吸収されていく。
木が少し大きくなったように見えた。
さらにトラを大量召喚していくと、次第に目に見える形で、木が一回りも二回り大きくなる。
木の全体に、トラから作られた部分が広がった。全体に行き渡った。
斑らにトラを吸収してできた部分が存在している。
吸収されたトラを作っていたものが消えるように念じた。
すると木の彼方此方に穴が空き、自重で音を立てて崩れた。
「あなた、何を、したの」
「偶然だろう」
木が成長する際に、吸収したものを体全体に使ったからこの結果になったんだ。
普通の生き物に使うなら、1年ほど俺の動物を食べさせ続けなければならないだろう。しかし、時間をかければ世界を取れるかもしれない力だ。
日本の美味しい動物や植物を、この世界の人や動物にご馳走して回るとしよう。
もし、それが出来れば、俺は無敵に近くなれるかも知れない。
最強に興味はないが、こんな化け物が存在している世界だ。生き残るために、できることは全てやるべきだ。
だが、その前に、あの姉妹以外、エルフが全く見当たらない理由を、そろそろ聞き出す必要があるだろう。
おそらく、あの姉妹が何かをしたのだろうが、それを俺に伝えてきてない時点で、信用することはできない。
できる限り、穏便な話であることを祈りつつも、エルフ姉妹に向き直る。
「なあ、なんで、脱走に気付いているはずのエルフたちが1人も、俺たちの前に現れないんだ?」
読んでいただき、本当にありがとうございます。