3話
3話目です。
よろしくお願いします。
屋敷の地下牢に入れられた。
特に枷ははめられなかったが、檻はとても目が細かく、また扉もなかった。
村長が俺を連れて行くと勝手に人が通れる穴が開き、檻の中に突っ込まれた。
「1つ伝えておきましょう。
あなたのあの黄色と黒の生き物たちは、神に捧げます。
死を悼むならどうぞご自由に」
そう言うと村長は階段を上っていった。
村長が地下牢を出ると、階段と一階につながる階段は壁に戻った。
「お前さん、人間か」
横から声が声が聞こえた。
見てみると、
なんか子供のような大きさの髭面のおっさんが、
胡座をかきながら、
酒っぽいものを飲み、
イカの燻製のようなものをかじっていた。
俺とは別の檻の中で。
「そうですが、あなたは」
「……流れものか。お前さん、運が良くも悪くもないな」
「どういう意味ですか」
いきなり説明もなく檻に入れられたんだが。
小さいおっさんは答えるつもりがないのか、律儀なのか、
自己紹介を始めた。
「おれはドワーフってやつだ。
お前さんの世界に居たかは
しらねぇがな。
まあ、
おれのことはカタアって呼びな。
きちんと"さん"を付けしろよ」
めんどくさそうなタイプだが、
彼しか情報源がない。
「カタアさん。さっきの言葉の意味を教えてください」
「ドワーフってのはな」
「ドワーフのことではなく、運が良くも悪くも、っていう言葉の真意についてです」
「あぁ、ドワーフがどうでもいいってのか」
おっさんが飲んでいた酒っぽいものの入れ物を、床に叩きつけるように置いた。
すげぇ、めんどくさい。
「いえ、私のいた世界でも、ドワーフの素晴らしさは伝わっています。ですから、先ほどの言葉の真意を教えていただけませんか」
持ち上げて聞きたいことを聞き出す。誇りを持っているやつは、その誇りをきちんと汲めば、
そこそこ気のいい人間でいてくれる。
「そうか、さすがドワーフだな。
ドワーフはどの世界でも、世界一の種族だからな」
そこから、おっさんはドワーフの素晴らしさを語り出した。
それに素晴らしい、さすが、とか合いの手を入れながら思う。
さっさと話せ、酔っ払い。
しばらくしてようやく、話が戻る。
「……で、お前さんが悪くないって言ったのは、エルフに捕まったからだ」
「エルフ、ですか」
あいつらエルフだったのか。耳は特に尖っていたりはしなかったが。
「おうよ。ここはエルフの村だ。エルフは知ってんのか」
「いえ、まったく知りません」
映画とかフィクションでは知っているが、この世界のエルフについて知りたい。
「かっかっかっ、エルフは全然知られてないのか。やっぱり、ドワーフの方が素晴らしい種族だからなぁ」
おっさんは気分良さそうに笑った。
やっぱり、ドワーフとエルフは仲が悪いのか。
決めつけるには早いが、対応は正解だったな。
「奴らは、会話できる生き物を殺さない。
そんな野蛮なことはしないそうだ。
自衛のためを除くとか言ってたが」
そこでおっさんはグッと酒っぽいものを飲む。
「で、お前みたいな流れものってのは、国によって対応が分かれているんだ。
ポピュラーな対応は、便利な能力を持っていて捕まえられるなら、奴隷にする。
危険なら放置か、意思疎通が取れるなら懐柔して奴隷にする。
役に立たないなら殺す。
まあ、見た目が良ければ奴隷になるがな。
お前さんなら、能力が良くても悪くても奴隷だろうな。
変態のマダムか、その筋のオトコに人気がありそうな、
綺麗な顔をしている」
嫌なことを言う。その言葉を聞かなかったことにして、顔を引きつるのを感じながら尋ねる。
「エルフはどうするんですか」
「できるなら捕まえて、
外に影響を出さないように
一生監禁する」
「それのどこがマシなんですか」
おっさんはニヤリと笑った。
「一生飲み食いに困らず、屋根付きだ。
酒も出てくる。楽園だろ」
ダメだなこのおっさん。
質問を変える。
「なぜそんな面倒なことをするんですか」
「奴らは異世界から来るものにも生きる権利はある、って言ってるな」
ふと考える。その言葉から考えると、トラとクロヒョウを神に捧げるとか言ってたのはなんなんだ。、
「あの、連れていた生き物を、神に捧げるとか言われたんですけど、どういう意味ですか」
「うん、ああ、たぶんそりゃ、そのままの意味だ。
お前さんの連れていたのが黄色か黒かったんだろ。
エルフが信仰しているのに捧げる供物は、
黄色か黒じゃないといけないらしいからな。
俺は酒しか信じてないから、奴らがどうするかはわからん」
「そうですか。
ところで、この檻とか、階段とか家、あと塀はどういう仕組みかわかりますか」
とにかくここから出たい。
閉じ込められているのは性に合わない。
木でできているならぶち破る手段はあるが、普通の木であればの話だ。
明らかにおかしな動きをするこの木の檻や壁を、俺の持ち駒で破れるのか。
試してみるのもいいが、
逃げられずに、能力もバレる可能性もある。
慎重に行動するしかない。
情報が欲しい。
「エルフは特殊な魔法を使う。
木に色々、無茶をさせることができる」
「知っているんですか。流石、博識ですね」
できればもっと教えて欲しい。
「ドワーフだからな。誰かが作ったものを見たら、解析したくなるのは性だ」
「やはりドワーフはすごいんですね。
人間にはとても真似できない技術と知識です」
「おいおい、自分の種族は下に見るもんじゃない。ま、ドワーフと比べたらどの種族も何段か下になっちまうのは仕方ねぇか」
「そうですよ。ところで、この檻はどういう仕組みなんですか」
ようやく本題に入れた。
めんどくさいおっさんだ。
「エルフの能力に植物を操るってものがある。
これは種族として能力で、エルフなら誰でも持っている。
まあ、早い話が、急激に成長させたり、その形を変えたり、あとは枯らしたりできるってわけだな。
それを利用して、エルフは家や塀、檻を作ってんのさ」
「なるほど、では材質自体はただの木なんですね」
それなら壊せる。
「お前さん、この檻をぶっ壊そうとしてんなら止めときな。
そもそもの材質としても石のように硬い木だし、エルフ全員の能力で、キズをつけても治るようになっている。
しかもご丁寧に、30分に1回、能力をかけ直しているしな」
「掛け直すとは、どういう意味ですか」
「この檻なら1003回か、それくらい能力をかけてある。
つまりは1003回、この木の傷は一瞬で治る。
1003回傷をつけないと、この木に本当にダメージを残すことができない。どんな攻撃をしても、1003回は防げるってわけだ。
この木にダメージを与えられる攻撃が1003回以上必要なんだ。
それも30分以内にやらないと、やり直しだ。
破るのは難しい」
「カタアさんでも無理なんですか」
このおっさんが壊してくれるなら、ありがたい。
挑発してみる。
「今の状況じゃ厳しいな。
まあ、逃げる気もないからどうでもいいってのが本音だが」
やる気はがないらしい。
この男に、
ここから逃げ出すことができるのかはわからないが。
「でしたら、私をここから逃すのに協力してもらえませんか」
ダメ元で頼んでみる。
自分1人でもどうにか、逃げられるような気はする。
でも、協力者はいた方がいい。
「勝手にやれ。俺は邪魔はしねぇが、手伝う気もねぇ」
おっさんはつまんなそうに言った。
「私のいた国で一番美味しいと評判のお酒を、ご馳走すると言ってもダメですか」
びくりとおっさんの眉が跳ねた。
「美味いのか」
「それはもう」
「1息で50連打叩き込む。それを20回繰り返せばいけるだろう」
瞬く間に、おっさんは立ち上がって手にはハルバードを持っている。
「ただ、問題がある。たぶん、攻撃すればエルフにはわかるはずだ。それをどうするか」
センサーみたいな機能もあるのか。
便利な力だ。
結局、俺の力が必要そうだな、
「エルフの能力が切れたら、わかりますか」
「ああ、わかるが」
それは好都合だ。
「私が1003回、攻撃します。
エルフの能力が無くなったら、この檻をぶち破ってください」
「その細腕で傷なんて付けられるのか。
この木はそこらの石並みに硬い。その上、魔法耐性も以上に高いから、並大抵の魔法じゃ効かないぞ」
魔法があるのか、この世界。
いいことを聞いた。
まあ、それはともかくやるか。
「まあ、私もそこそこの能力を持っています。それを使えばどうにかなるでしょう」
檻に手を当て、イエシロアリを大量生産する。
「なんだそれ、キモいな」
それには同意する、が、
檻と地上に続く壁を、
1000回以上傷付けるには、
こいつが一番だ。
檻と壁をシロアリが覆った。
動かずに待機している。
「10カウントで、0になったら一斉に攻撃を始めます」
「そんな小さいので大丈夫か。
それに、仮に傷つけることができたとしても、そいつらを潰さないようになどできないぞ。
功労者を消し飛ばすのは忍びない」
「大丈夫です。攻撃すると同時に、元いた場所に帰します」
「本当だな」
「ええ、信じてください」
強いて言うなら、
"帰す"というのは嘘だが。
10数えると、
シロアリが一斉に木をかじった。
確かに壁や檻にダメージを与えたのだろう。
おっさんがハルバードを1回振り回すと、檻と壁が一瞬で吹き飛んだ。
「すごいな、お前さんの生き物。
小さいのに、壁を傷つけるとは素晴らしい」
いや、おっさんの方が凄いだろ。
こんなおっさんを捕まえたエルフは、化け物だな。
逃げ出したのは、
早まったかもしれない。
そう戦慄していると、女の声が聞こえた。
「やるわね。期待した通り」
あの村長の娘が2人立っていた。
先ほど見たのと同じ服装で、
もう1人は少しだけボロい服を着ていた。
分身したのか。
やっぱり油断ならない世界だ。
「もうバレたのか。
カタアさん。
まだ、協力してもらえますか」
おっさんが戦ってくれるかで、
人道的に戦えるかが変わる。
「悪いが、嬢ちゃんたちとは戦うつもりはない」
おっさんはフェミニストか。
面倒だが、邪魔さえしなければ別に問題はない。
おっさんがどうでるか。
「わかりました、邪魔はしないでくださいよ」
おっさんが参戦するなら、みんな死ぬかもしれない。
「いや、嬢ちゃんたちは敵じゃないぞ」
「そうそう、
カタアおじさんのいう通りよ。
私たちはどちらかというと味方。
でも、
どういう魔法を使ったのか知らないけど、おじさんが協力するなんて思ってもいなかったけどね」
最初会った時と同じ服装のレイルが笑いかけてきた。
「本当にこの人に任せて大丈夫なの、レイ。ずっと見ていたけど、生き物を呼び出して戦わせるしかしていないよ」
ボロい服をきたレイルが不安そうに聞く。
「大丈夫。たぶん、切り札の1つや2つ、持っているみたいだから。
その中に、レセルを解放できる何かを持っているわよ、きっと」
「どういう意味だ」
「まあ、とりあえず移動しましょう。
このままだとすぐ見つかると思うから。
もちろん、
お茶とお菓子もあるわ」
ルイルがウインクする。
読んでいただき、とても嬉しいです。
ありがとうございました。
以下、生物紹介です。
・イエシロアリ
日本人みんなの敵。実はアリではなく、あの黒光りするGの仲間。
家を食い荒らすシロアリ。コンクリートくらいなら壊せる顎の持ち主。