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001  魔法少女☆誕生



(あおい)、十四歳のお誕生日おめでとう!」


パァン! パパパーン!!

派手なクラッカーをいくつも鳴らして、母と祖母がお祝いの言葉を贈ってくれる。


「――ありがとう、お母さん、おばあちゃん」


私は、全身紙吹雪まみれになりながら、一応お礼を言う。

クラッカーは人に向けて鳴らしちゃいけないんだよ…と言いたかったけど、この二人は人の話を聞かないタイプだから…心の中でこっそりため息をついた。


そもそも、こんな高級レストランで…ちいさな子のお誕生日会なノリはどうかと思う。

周囲のテーブルのお客さんやホールスタッフの人たちからも、拍手とお祝いの言葉を次々といただいてしまい、無理矢理作った笑顔が段々とひきつってくる。


私の家…七瀬(ななせ)家は、昔から女性が家督を継ぐ女系家族のせいか、個性の強い女性が多い。


祖母は未だ現役の女医、母は自然派化粧品会社の社長、叔母は海外からも出演依頼がくる国際派女優、従姉は有名雑誌の読者好感度No.1モデル…と、皆それぞれの分野で活躍している。

(私を除外すれば)才色兼備の華麗なる一族。

その華々しさと圧倒的な存在感は、小市民の私には目に眩しい…というか、寧ろ針のムシロ状態。


正直、家の外で同じ場所に一緒に居たくない。

否応無しに、周囲の視線を集めるから。

叔母と従姉が仕事で食事会を欠席してくれなければ、もっと大変だったのだ…と思うと、気が遠くなる。


誕生日には母が選んだ可愛いドレスを着せられ、美容院でヘアセットからメイクまでされた後は、写真館で家族揃っての記念撮影。

その後は外で豪華なお食事会。

毎年のことだけど、今年はお父さんが海外出張でいない分…私の家族の『非凡』さが際立っていて、気が滅入る。


美人の母に容姿が似ていても、私の中身は地味な父親(歴史学者。某私立大学の助教授)似なのです。

白鳥の子でも、華々しい舞台より日陰が好きなのです。

――ああ、早く家に帰りたい……読みかけの本の続きも気になるし、自分の部屋でのんびりまったりしたい。


ホールスタッフさんの手を借りてクラッカーの後片付けをして、私が身支度を整えて席につくタイミングを見計らったかのように、お料理が次々と運ばれてくる。


ホールと厨房の連携が良いのは、一流のお店の共通点。

お店の人たちに感謝しつつ…でも…豪華な食事を前にしても、私の食欲はわかなかった。

まったく手をつけないのもシェフに失礼だから、無理をして一品づつ少量を口に詰め込んでいると、店内にある骨董品(アンティーク)の柱時計がボーンボーン…と低い音で時刻が二十時であることを告げた。


その音とほぼ同時に、母が唐突に質問を投げてくる。


「…ね、葵は、一緒に暮らすとしたら、どんな動物がいい?」


「え? 何、いきなり」


「いいから、答えてちょうだい」


早く、早くぅ…とせっつく母を、祖母が(たしな)める。


「美雪、お前と違って葵は思慮深い子なのだから、いきなり訊かれてもすぐには答えられないさ。

まぁ落ち着いて、葵の答えを待とうじゃないか」


「だって、気になるんだもの。

次はどんな子なのか。

お母さんだって、早く会いたいでしょう? 

聞いてみたいこともあるでしょう?」


「…そりゃあ、あたしも同じさ。

でも、それとこれとは話が別だろう? 

葵はまだ…なんだからね」


母と祖母との間で交わされる台詞には、何か深い事情がありそうな感じがした。

下手に追求すると、めんどくさい話がでてきそう。


目線で語り合い、意味ありげに笑う二人を見て、私の危険予知能力が最大級の警告を発する。

今すぐ逃げろ、全速力で! …と。


「――どうしても、答えないといけないの?」


「「もちろん」」


一応抵抗を…逃げ道を探してみたけれど、即座に潰えた。



『隊長! 敵前逃亡しようとしましたが、無理でした! すんません!』

『…仕方ない、ここはおとなしく従って様子を見よう』

『は! 了解であります!』



私は脳内ひとり劇場で覚悟を決め、しぶしぶ答えを口にした。


「…トイ・プードルがいい。

ちっちゃくて、こげ茶色の。

ぬいぐるみみたいで可愛いから」


せっかく答えたのに、二人の反応は薄い。

私の顔に二人の視線は向けられている。

だけど、心はここにないみたい。


「お母さん? おばあちゃん? 

…この質問に、どんな意味があったの? 

まさか、お誕生日の祝いにプレゼントとして買ってくれる…とか、言わないよね?」


我が家はいまどき珍しい日本家屋で、畳のお部屋が多いから、室内犬を飼うのは難しい。

私の部屋はフローリングだけど…でも…。


私の問いかけに、二人は同時にふっとちいさく息を吐いた。


「――買うんじゃないよ。葵、お前のために『現れる』のさ」


微笑みを浮かべて答えた祖母に、母が言い添える。


「おばあちゃんの時は、白い文鳥。

お母さんの時は、黒猫だったのよ」


「……? 何が?」


訳が解らない。

もっと詳しい説明を…と言おうとしたとき、二人はわざとらしく席を立った。


「おっと、あたしはそろそろ病院へ戻らないといけない時間だ。

可愛い孫娘の誕生日なのに、あまり時間がとれなくてすまないね。

患者よりも医者のあたしの方が不健康な生活をしている気がするよ」


「あら、私も今夜は海外の支社とTV会議をしなくちゃいけないの。

葵、貴女はデザートまでしっかり食べてから、タクシーで家に帰りなさいね」


「…え、ちょっと待って…」


二人は私の制止を振り切って、足早にレストランを出て行ってしまった。


確か食事中に席を立つのって、マナーとしては最悪なんじゃなかったっけ…?

内心で首を傾げつつ、食欲もないことだし…と、お店のホールスタッフさんに頼んでデザートはお土産にしてもらい、私は一人でタクシーに乗って帰宅した。



玄関でカードキィを使って開錠し、ホームセキュリティ用のコントローラーで防犯機能をセットした。

広い家に一人で留守番する時のために…と…契約しているのだけど、オンとオフの切り替えが習慣になるまでは、結構面倒くさかった。


お土産にしてもらったデザートのケーキを冷蔵庫にしまい、二階の自分の部屋のドアを開けて灯りをつける。

室内が照らされた瞬間、私は視界の端っこに見慣れぬ物体があることに気がついた。


「…?」


あれ、なんだろう? 毛玉?

ふわふわでもこもこ……あんなクッションなんて、私の部屋にあったかな?

意識を集中させた途端、それが毛玉でもクッションでもない事が解った。


「ちっちゃくて、こげ茶の、トイ・プードル…?」


見間違えか夢じゃないかと一瞬考えたけど、ふわもこのトイ・プードルが私の足元にトコトコ近づいてきたのを見て、現実なのだと知った。

私はちいさな仔犬を驚かせないように、ゆっくりとしゃがみこむ。


「…あなた、どこから来たの? 

どうして、私の部屋にいるの?」


不思議で、つい話しかけてしまった。

もちろん、答えが返ってくることなんて、これっぽっちも期待していなかったのだけど。


「――俺は、セーレン・ティーアの魔導士。

我が師が交わした約定に従い、お前を護り導くためにここに来た。

葵…お前は今日から期間限定で魔法が使える……魔法少女になったんだ」


……はい?


犬が、喋りました。

しかも、回答がかなりヤヴァめなのは気のせいでしょうか?




冷やし中華はじめましたのノリと勢いと思いつきで2011年6月に開始した後、他作品の「乙女ゲー 全ルート制覇(全お相手キャラの伏線回収=超長編)」の流れに恐れをなして同年8月に撤退。

ブームが去った今、こっそりと復活。


二度目ましての皆様、大変長らくお待たせ致しました!(土下座)


大きな改稿点は「異世界(セーレン・ティーア)と現実世界の時間の流れの違い」と「異世界人の寿命」です。

改稿前は「時間の差は一定」でしたが、改稿後は「不安定(その都度違う)」となっています。

改稿前、「異世界人の寿命は○百年」となっていましたが、改稿後、その設定は無くなりました。


わんこ殿下のおおまかな背景や異世界をご理解頂くために、別作品を執筆してます。

『うちのお兄ちゃんがハーレム勇者にならない理由 (http://ncode.syosetu.com/n0329bh/)』


『魔法少女』は異世界人が現実世界へ転移してくるお話ですが、

『うち兄』は現実世界から異世界へ転移してゆくお話です。

未読の方は、是非こちらの作品も一緒にお楽しみください。

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