File-紗楽side-
「声がない方がいいって思う時だってあるじゃない。」
…言ってしまった。
つい出た言葉に、私は後悔した。
あの頃、いじめられていた頃から毎日思っていることだ。
“言葉なんて、必要ない”
言葉があるから人を傷つける。
言葉があるから人は傷つく。
なら、言葉なんてなければいい。
「楽しいね」 「可愛いね」
みんなが喜ぶような言葉を羅列しておけば、友情関係なんて簡単。所詮、そんなものだ。
いじめられていたあの頃…私は心を失った。天真爛漫な性格を保っているのも、正直もう限界だ。
「そんなことより、みんなは趣味とかある?」
星空の中で、闇に染まった偽善者の私が言う。
〖僕は読書かな。いつもずっと本を読んでるよ。〗
「え、意外だね!斉藤さん、読書が好きなんだ!」
他人のことなど興味ない。
けれど、偽善者を保つには、これしか方法がなかった。
〖うん、ほら、僕学校に行けないからさ。こうすることで時間を潰すしか、ないから。〗
「学校に、行けない?」
驚いた。
失声症というのはさっき斉藤さんが言っていたけれど、まさか、学校に行けないなんて。
「お前…学校行ったことないのか…」
西島さんが続ける。
「お前、頭良さそうだけど…もしかして、全部本で独学なのか…?」
〖うん、そうだよ。〗
この人には何か裏がある。
そう確信した瞬間だった。