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公望、ついに大西洋を渡り、まずはイギリスへ!

当時は欧米でも、交通機関といえば、帆船か、蒸気船が主だった。


「いっそのこと、ボーイングの旅客機にでも乗っていけたら、楽に到着できるんだがな…。」


しかし、何しろ1871年の話。


年が明けて1872年になったわけだが、


ライト兄弟が人類初の飛行機を発明することになるのは、


それから30年以上も後の、1903年の話。


リンドバーグが大西洋単独横断飛行を達成するのは、1929年の話。


しかし西園寺公望の長い人生においては、それらの出来事もまた、この人物が生きてきた中の、同時代の出来事なのである。


「さあ、いよいよ大西洋を渡って、ヨーロッパだ!」


西園寺公望が目指すフランスは、アメリカから行くと、大西洋を船で渡っていくことになる。


そうなると、またまた船酔いが気がかりになる。


ここは当然、酔い止めの薬を飲んでいくことになる。


「みなさんも、酔い止めの薬は、必ず飲んでいった方がいいですよ。」


そう皆に忠告をした公望は、当時のニューヨークや、ワシントンの景色、さらにはホワイトハウスなどをバックに、岩倉使節団の面々を、デジカメで写真におさめた。




そして出発の日が来た。


「今度乗っていくのは、この船か。」


思えば、日本から太平洋の荒波を乗り越え、アメリカに到着したら、今度はアメリカの広大な大地を鉄道で走り、その次はまた船に乗って、今度は大西洋の荒波を乗り越えていくという。


蒸気船に乗り込み、いざ、大英帝国、イギリスへ。


当時はビクトリア女王が統治していたイギリス。


当時、世界の覇権を握っていたのは、アメリカではなく、イギリスだった。


当時、世界の七つの海を支配するといわれた、大英帝国、イギリス。


その大英帝国、イギリスに下り立った、岩倉使節団の代表者と随行者、それと留学生たちという、その日本人たち。


そして日本では、こんなことが書かれていた。


『今、世界の五大州のうち、既にアメリカ、アフリカ、オセアニアはヨーロッパ列強の入植者たちの支配下にある。

アジアといっても、既にインド、オランダ領東インド、インドシナ、フィリピン、ビルマなどは、ヨーロッパ列強の植民地となり、

残るは我が日本と、清国、朝鮮、ペルシアのみであり、そのうちヨーロッパ列強との関わりを持たないのは我が日本だけである…。』


このようなことが書かれていた。日本もまた、欧米列強の脅威を、まざまざと感じ取っていた。


それにも関わらず、相変わらず公望たちは、物見遊山の気分だった。


公望はイギリスでもデジカメで写真を撮りまくった。ここまでは観光旅行気分だ。


「イギリスは世界で最初に鉄道が走り始めたそうだ。また、石炭は既に18世紀頃から使われはじめていたそうだ。

市民革命と産業革命を経て、ヨーロッパは発展してきたんだな。」


イギリスのロンドンに立った公望。ここでもまた、使節団全員集まって、記念写真を撮ろうと、真っ先に提案したのは公望だった。


「それじゃいきますよー。はい、チーズ!」


パシャッ!


いつの頃からか、写真を撮るときに、『はい、チーズ!』と言うようになったが、この頃からだったのかは、それはわからない。


ただ、本当にいつの頃からか、写真を撮るときに、そういう言い方をするようになったということだけは事実だ。


しかし公望の旅の最終目的地は、このイギリスからドーバー海峡を越えた先、フランスだった。


「ドーバー海峡くらいなら、太平洋や大西洋に比べたら、なんてことはない。」


そしてドーバー海峡を越えていくことに。


ついにたどり着いた、あれがパリの灯だ。



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