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公望、当時のニューヨークとワシントンへ…!

12月、ニューヨーク、ワシントンに到着。


津田梅子らアメリカ留学組とはここでいったんお別れ。公望らはさらに先のヨーロッパへ向かうことになる。


「どうした?公望よ。名残惜しいか?」


「いえ、別にそのようなことは…。」


顔では平気そうにしていても、心の中は寂しげだった。


当時のニューヨークは、今のように高層ビルが建ち並ぶ光景とはほど遠い町だった。


エンパイアステートビルが完成するのはずっと後の1931年のこと。


「ここが、当時のニューヨークか…。」


1870年代のニューヨーク。さすがにこれは、お世辞にも大都会などとは言い難い。


「そうだ、ここにエンパイアステートビルを突然出現させたら、さぞやみんな驚くだろうな。」


公望が突然、このような突拍子もないようなことを言い出したが、この発言は公望の発言ではなく、正確には公望に帰依(きえ)していた、高柳京介の発言だった。


公望が海外留学するのと同時に、公望に帰依(きえ)していた、現代人の高柳京介も同時に、あの船に乗って海を渡り、ここアメリカまでやってきていたという話だ。


「おい、高柳京介、突然何を言っているんだ。そんなことになったら、それこそアメリカの国中、いや世界中がパニックになってしまって、本当に歴史が変わってしまうぞ。」


「ちょっと、言ってみただけだよ。気にするなよ。公望さんよ。

冗談だよ、冗談。さてと、これからどうするんだ?」


高柳京介は元不良という現代人。


相変わらず口の聞き方は悪いのだが、それでも公望は、あえて高柳京介を自らの体に帰依(きえ)させておいて、生かしておくことにしていた。


「あとは、アメリカでは民間人が普通に銃を持ち歩いているからな。気をつけて歩かないと、いつ銃撃されるのかもわからない。」


ひととおり見て回ったが、1870年代のニューヨークでは、特に見て回るようなものもなく、適当に歩き回っていた。


公望はそこで、マークという、当時としては最新式の銃を持ち歩いている男と知り合うことになった。


「おい、お前、日本人だな。俺はマークという、ケチな野郎だ。」


「西園寺公望という。これからよろしく。

ところで、そなたの持っている銃は、いかなるものなのか?」


「ああ、これか。これはな、最近開発されたばかりの、ウィンチェスターの連発式の銃なんだ。

待ってろ、今あの的に撃ってみるからな。」


そう言ってマークは、目の前の的に向けて、ウィンチェスターの銃を撃つ。


ダーン!ダーン!ダーン!


パン!パン!パパン!


「なんと、これはすごい連発銃だ。」


「そうよ。ウィンチェスターは連発銃なんだ。

威力も、性能も、今までの単発銃とは比べ物にならないさ。

これからの時代は、戦争においても、このような連発銃や、最新兵器などが、続々と投入されていくことになるぞ。」


要するに、使い手の力量よりも、銃や兵器の性能ということか。


しかし、どんなに性能のいい銃や兵器でも、結局はそれを人間が使いこなせるようにならないと、宝の持ち腐れになってしまうというのは世の常というもの。




あと、公望がアメリカに来て思ったことだが、正直な話、アメリカの料理は、公望の口に合うようなものではなかったようだ。


これはもちろん、公望の個人的な考えで、アメリカの料理の方が口に合うという人たちにとっては、アメリカの料理の方がいいのだろうが、


公望にとっては、やはりフランス料理の方が、どちらかというと口に合う、といったところだった。


いや本当に、人それぞれの好みがある中での、個人的な考えだったのだが。


公望のアメリカ料理に対する最初の印象はこうだったが、後に公望はそのアメリカ料理も好んで食べるようになったという。


マークとの会話。


「ところで、その腰に携えているのは何だ?」


「これは、刀というものだ。いわゆる、日本刀だ。

古来より日本の武士は、戦争の時には常にこの日本刀を携えていたものなんだ。

私もその古来よりの習わしに習い、この日本刀を常に携えているのだ。」


そう言うと公望は、さっそくその日本刀を鞘からぬき、そして構えに入る。


「キエエエーイ!」


公望はマークの目の前で刀を振るってみせる。


「てい!やあっ!」


ヒュッ!シュッ!シュバッ!


そして公望は再び刀を鞘におさめる。


「なんと!これが日本刀というものか!」


アメリカ人マークも思わず脱帽と言わざるをえなかった。


当時からアメリカでは、銃の専門店がそこいらにあり、普通に銃を買うことができたのだった。


公望はさっそく、その銃の専門店で、ウィンチェスターの銃を何丁か購入する。実はマークは銃の専門店の店主だった。


「まいど、公望さん、ご購入ありがとうございます。」


「また来る機会があったら、買いにきてもいいよ。」


1870年代のニューヨークの話である。



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