新潟県の皆さん、申し訳ございません、公望はフランスへの留学を希望していたのに、なぜか新潟県知事に就任することになりました
西園寺公望は、まだ戊辰戦争が終わってから間もない頃に、新潟に派遣されていたことがあったという。しかし、当人はそれほどやる気がなかったという。
だいたいからして、ついこないだまで、そもそも畿内どころか京の都からも出たことがなかったような、新潟のことなどそれまで何も知らなかったような若造に、
いきなり新潟県知事など任されたとしても、とても勤まるはずはなかった。
いや、正確にはまだ、廃藩置県の前だったことから、『知藩事』という名称で呼ばれていた。その知藩事を、一時期任されていたのだった。
「あーーーーー!退屈だ退屈だ退屈だ!何か楽しいことでもないか?」
知藩事の仕事といっても、部下が持ってきた書類に印鑑を押すぐらいのもの。しかし、部下たちの評判はすこぶるよかったようだ。
新潟の町の見回りでもするか。
町並みは、どこをどう見ても、京の都や、江戸ほどの規模ではない。
しかし、新潟といえば、全国でも有数の豪雪地帯として有名だ。
ひとたび大雪が降れば、たちまち建物が雪に埋まってしまう。
また新潟は、魚沼産コシヒカリで知られるように、全国でも有数の米所としても有名だ。
公望は田園地帯へと向かう。あたり一面に水田が広がっているかと思ったら、どうやらこの時期は稲の収穫も終わり、休耕田になっているようだ。
そこで、河井継之助に出会った。
外の世界では死んだことになっているが、命からがら落ち延び、今こうして、公望と再会したのだった。
「公望か。久しいのう。」
「継之助殿ではないか。」
「長岡戦争の時に刀を交えて以来よのう。」
長岡戦争と聞いて、公望は河井継之助から、小林虎三郎という人物の話を聞く。
小林虎三郎…、どこかで聞いたことがあると思ったら、どうやら『米百俵』の話で有名な人物だ。
まさかこんなところで、小林虎三郎の『米百俵』の話が出てくるとは…。
「長岡も、先の長岡戦争の時に壊滅し、焦土と化してしまった。
その焦土と化した長岡を再興するため、また長岡の人々を食わせていくため、小林虎三郎は、米を百俵、集めているとか。」
そして、公望と継之助が今食べているのは、魚沼産コシヒカリの握り飯だった。
「新潟は米所。時代が進めば品種改良も進んで…。
あっ、これは未来の話なのだが、早くこのような米を、庶民がたらふく食えるような時代を実現させてやらないとな…。」
公望は言った。続いて継之助が言った。
「さよう。しかし、明治の世になり、もはや刀で戦う時代ではなくなった。
近代化が進むと、鉄砲や大砲で戦うようになり、その鉄砲や大砲の性能もまた、向上していく。」
「さよう。そして一般庶民を兵隊として徴用する。
たしか徴兵制度もできるとか。将来の外国との戦に備えてのことか。」
公望と継之助は、つもる話をして、やがて日も暮れる時間になり、それぞれ家路についた。
「それじゃあな。今度はもう、いつ会えるかもわからないがな。」




