突如として現れたのは山縣有朋!
ここから先の話は、全く史実通りではなく、むしろ作者のオリジナルの創作です。
あらかじめご了承の上で、お読みください。
志々尾一派と、公望たちがにらみ合う。
「お前がそうか。西園寺公望とかいう、公家のお坊っちゃまか。
ほほう、俺様も運がいいな。ここで明治新政府にとっても将来有望な幹部候補生の一人を始末しておけば、大手柄だな。」
志々尾一雄は悪態をつく。
「おい、お前、志々尾、さっきから聞いてりゃ、ずいぶんとなめた口の聞き方してくれるじゃねえか。
まずはその口の聞き方に気を付けろよ。」
西園寺公望も悪態をつく。
将来は昭和初期の最後の元老とまで言われるようになるが、明治初期のこの頃はまだ、20歳そこらの若造だった。
「おーい!ものども!やっちまえ!」
志々尾の号令で戦闘開始。
敵は約100人ほどと見た。
公望は刀を抜き、そしてみね打ちの構え。
いくら公望でも、ここで相手を斬り殺してしまったら、捕まってしまう。
だからあえて、みね打ちにした。
「でやあーっ!」
志々尾一派の門弟たちが斬りかかってくるが、公望は全くひるむ様子はない。
カキン!キン!ヒュッ!シュッ!
ヒュッ!シュッ!ザシッ!バシッ!ダシッ!
公望は敵を1人、2人とみね打ちにして、たたきのめす。しかし敵は圧倒的に数が多い。
しかし、公望のそのいでたちといい、刀剣の扱いといい、腕前といい、それはとても、公家とは思えないほどの、まるで腕の立つ武家の剣士のようだ。
「ええい!たった1人に何をてこずっておるか!
撃て!撃て!」
バン!バン!ババン!
志々尾一派の門弟たちの中に、拳銃を持っていた者たちがいた。
次々と拳銃を撃ってくる。よけるのが精一杯だ。
「拳銃まで使ってくるとはな…。」
その時だった。公望たちの背後に、軍服の兵隊たちが現れた。
その軍服の兵隊たちは、ライフル銃を構える。そしてその部隊長らしき人物が命令する。
「撃てーっ!撃てーっ!」
バン!バン!ババン!
「ぐわあっ!」
志々尾一派めがけて発砲した。たちまち数人が銃弾を受け、倒れる。
「かかれーっ!」
さらに軍服の兵隊たちは、志々尾一派を捕縛するために、一斉に突入してきた。
公望たちはこの光景を、ただ見ているだけだった。
こうして志々尾一派の大半が捕らえられたが、総大将の志々尾一雄は、そのすきに逃亡したようだった。
どうやら門弟たちが、総大将を逃がすためにわざと、捕縛されたようだ。
公望はその軍服の兵隊たちに礼を言う。
「かたじけない。おかげで助かった。」
「ただ、総大将の志々尾一雄は、逃亡したようだ。
志々尾一派の拠点は、ここからさらに山奥にあるようだが、まあ、志々尾一派の征伐は、我々に任せてもらえないか。」
そこに、部隊長よりも位の高いとみられる、ある人物が馬に乗って現れた。
その人物は、どうやら明治政府の中でもかなり位の高い人物のようだ。
幕末維新で、中心的役割だった人物たちは、維新後には明治政府の中心的存在として辣腕を振るうことになる。
おそらくは、その中の誰かか…。
「そのほうが西園寺公望か。私は山縣有朋と申す。」
山縣有朋。
長州藩出身の、実力者の一人。今は志々尾一派を討伐する軍勢の総指揮官となっているようだ。
「西園寺公望とやら。そなたの噂は、かねがね聞いておるぞ。
確か、岩倉殿の推挙を受けているとか。」
この山縣有朋だけでなく、この後公望は、明治政府の重鎮たちとの出会いを重ねていくことになる。
山縣有朋は、馬に乗って、軍勢とともに去っていった。
「ふふふ、あれが西園寺公望か…。
あやつめは、とんでもない大物になるやもしれないな…。」
山縣有朋はそう感じ取っていた。
一方で公望の方も、その山縣に対して、あの人物はただならぬ御仁だなと、感じ取っていた。
「あの御仁が、山縣有朋殿か…。」
公望は去っていく山縣の後ろ姿を見つめていた。




