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八月十八日の政変~三条追放

この物語は史実をもとに書かれてはいますが、実際の史実とは異なるようなところもあります。

そのつもりで、お読みいただければと存じます。


西園寺卿が見てきた幕末の時代…。

相変わらず京の都には、勤皇派の、いや今や攘夷派から倒幕派に転じた、各藩の浪士たちが、集まってきていた。

いや、この際だから呼び方なんて、なんでもいい。とにかくその手の浪士たちが京の都に集まってくる中で、その浪士たちと、新撰組ら取り締まる側との斬り合いも頻発していた。

そんな中、ちまたではある噂が飛び交う。

「生活に困窮した下級の浪士たちが集まってきているが、こうも次々と集まってくるとなると、単に下級の浪士たちだけの一存とも思えないな。

これは背後に、浪士たちを手引きしている黒幕のような存在がいるんじゃないか?」

「俺もそう思っていた。尊皇攘夷(そんのうじょうい)だの、倒幕だの、そんなだいそれたことが、

たかだか下級武士の力だけでできるわけがない。

これはおそらく、京の都のお公家様とか、そういった大物の人たちが、裏で糸を引いているに違いない。」


一般庶民の間では、こんな噂が流れていた。


「たかだか下級武士って…、下級武士の力をなめてるな。実際に一連の動きをおこしているのは、その下級武士なんだからな。

だけど、その下級武士たちを、裏で糸を引いて操ろうとしている公家というのは…。」

公望(きんもち)はこの時、すぐにピンときた。おそらくはあの2人のうちのいずれか、岩倉具視か、三条実美かの、どちらかか、いやそのどちらも、ということもなきにしもあらずと、公望は考えていた。


そしてそれを直接尋ねる機会があった。

「岩倉殿。京の都に集まる勤王の浪士たちを、裏で手引きしている者がいるというお噂を聞きましたが、もしやそれは、岩倉殿のことでは?」

「何!?そのような噂があるだと!?

何を申す。この岩倉が手引きなどするはずがないではないか。」

岩倉具視は否定したが、近ごろの浪士たちの動きを見ると、今までバラバラに活動していたものが、1つにまとまり始めている様子がうかがえる。

「それでは、三条殿では?」

「そなたは何を申しておるのだ。それがしでも、三条でもない。

そもそもそのような手引きをする者などいない。

その浪士たちが勝手にやっておることだ。」

それでも断固否定する岩倉。この時は三条は不在の様子。

結局その日は何も聞き出すことのできないまま、その夜はそのまま寝ることに。


そこで、あくる日から、公望は情報屋を雇い、逐一情報を聞き出すことにした。


情報屋♂ 磯之進(いそのしん)


情報屋♀ お(おりん)


この2人を雇い、世の中で何が起きているかの情報を逐一聞き出すことにした。


すると、さっそく、磯之進とお倫から、とっておきの情報を聞き出した。

「どうやら、勤王の浪士たちの中に、そのリーダー格となっている者たちがいるようです。

薩摩藩の西郷吉之助=西郷隆盛、それと大久保一蔵=大久保利通、

それと、長州藩の桂小五郎=木戸孝允。

この者たちが、それぞれのリーダー格。

磯之進からの報告は以上です。」

「ただし、薩摩と長州は折り合いが悪く、それぞれ別々の活動をしているとか。

薩摩は、幕府側に接近する動きも見せているということです。

お倫からの報告は以上です。」

「ご苦労であった…。」

他にも、土佐藩を脱藩した坂本龍馬の動きや、さらには肥前藩も薩長と同様の動きを見せているなど、情報を得た。




そんなさなかの1863年、8月18日《旧暦》、


ちまたでも噂になっていた。


世に言う、「八月十八日の政変」である。


「なんでも、お公家様同士でいざこざがあって、三条実美様と、それに同調していたお公家様たちが、京の都から追放されたとか。」

「へえ、それはいったい、どうしてだい?なにゆえ三条様たちが!?」

「なんでも、三条様が、過激な攘夷思想に染まって、攘夷派の浪士たちを京の都に呼び寄せて、裏で操っていたんじゃないかという疑いをかけられたとかなんとか。

それ以上のことはなんとも言ってなかったから、詳しいことはわからねえけどな…。」


実際のところは、会津藩と薩摩藩の公武合体派という考えの一団が、攘夷派の長州藩とそれに同調する公卿たちを追放したというのが、事の真相だったようだ。


三条実美は長州へと追放されることになった。

そしてそのまさに長州へと下ろうとしているところに、公望が姿を見せた。

「三条殿!実美殿!」

「おお、なんと、公望ではないか、いかがしたのだ?」

「三条殿は、まことに攘夷論などを振りかざして、京の都に浪士たちを呼び寄せて、何かを企てておったのでございますか?」

「…公望よ。そのことについては何も言わぬと、ここで見たこと、聞いたことは何も言わぬと、約束してくれるか?」

「三条殿…。」


ともに三条家と西園寺家という公家の名門の家に生まれた者同士。親近感があるのは当然といえば当然かもしれない。

このことは公望と三条の2人だけの秘密として、墓場まで持っていくことになった。


一方で、この政変を企てたのは、やはり薩摩と会津だということも、既にわかっていた。

「やはり、島津久光と、松平容保の差し金か…。」

そんなさなか、公望はついに、睦仁親王の身辺警護役を任されることになった。

公望の眼前には孝明天皇、そして睦仁親王が。

「近頃物騒なことが多いからのう。頼んだぞ。公望よ。」

「ははっ…!」



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