江戸で和宮、篤姫、勝海舟、そして坂本龍馬と出会う!
西園寺公望たち一行は、寿司屋で江戸前の握り寿司を食べ終え、今度は呉服問屋が立ち並ぶ一角を訪れていた。
そこで見かけたのは、公望たちと同様に、やはりお忍びで江戸の城下を訪れていた、
和宮と、もう1人の女は篤姫のようだ。
さらにその付き添いの侍は、あれは、勝海舟か…。
西園寺公望は思わず、声をかけた。
「姉様!」
すると、和宮はそれに気付くと同時に、驚きの表情を見せた。
「公望…!」
「やっぱりそうだ!姉様だ!それと篤姫様と、勝海舟殿も!」
西園寺公望とその供の者たち、それと和宮と、篤姫と、勝海舟。
よもやこのようなところで並んで歩くとは、全く思いもしなかった。
そして一同が向かった先は、勝海舟の別邸というところ。
ここで公望と、和宮と、篤姫は談笑することになった。
「なるほどのう、この少年が、西園寺公望殿と申すのか。和宮がよく話をしていた、噂の少年とは、この西園寺公望殿であったか。」
まず篤姫が話す。続いて和宮が、
「まあまあ、遠路はるばる、京の都から江戸まで…。
ご苦労様でしたね。もしかして、私に会いにきてくれたのかと、思いましたが。」
「いえいえ、姉様、姉様たちにお会いしたのは、本当に単なる偶然でして…。」
「まあ、公望ったら。京の都ではいつも私に甘えていたのですよ。」
そして公望は、和宮のその姿、その顔の表情を見て、いつの間にか思わず見とれてしまっていた。
そこに、とある1人の、ざんぎり頭のような侍が入ってくる。この侍は、どうやら土佐藩から脱藩して、ここまで来たらしいという。
「お主!ここに勝手に上がりこんで、まずは名を名乗るのが礼儀であろう!」
そう言ったのは公望だった。するとそのざんぎり頭の侍は、その名を名乗ったのだった。
「拙者か?拙者の名は、坂本龍馬じゃ!」
あの坂本龍馬が、ここにやってきたのだった。
そしてその坂本龍馬を、出迎えたのは勝海舟であった。この2人、実のところ、師匠と弟子のような関係だという。
「さて、それでは本日の講義を、始めるとするか…。
そちらのお方も、どうぞ。」
なんと、はからずも勝海舟の講義に、西園寺公望も参加することになってしまったのだった…。
まず勝海舟は訪ねる。
「もしも外国と戦になり、外国の軍隊が攻めてきたら、どう対処する?」「むろん、この日本刀で、奴らをたたっ斬る!」
坂本龍馬は意気揚々と解答したが、勝海舟は次の瞬間、拳銃を取り出し、銃口を向ける。
「こうして、銃を向けられてもかね。」
「うっ…!」
そして坂本龍馬は、西園寺公望が持っている西洋風の武器に注目する。そしてこう言い放つ。
「おぬし、おぬしも拳銃を携えておるのか?
そしてその腰に携えている剣は、日本刀ではなく、西洋のサーベルだな。」
そして勝海舟はさらに続けて言い放つ。一見穏やかなように見えて、言っていることははっきりと、筋が通っている。
「日本は四方を海に囲まれておる。そのような東端の小さな島国が、刀一本で西洋の軍艦や大砲を相手に戦えるのか?」
「……。」
「日本にも鉄砲はあるにはあるが、戦国時代の頃に伝わってきたような、火縄銃か、あるいはそれにいくらか改良を加えたという程度のもの。西洋の銃は、昨今開発されたばかりの最新型のものが、次々と出回っておる。
火縄銃とは違い、引き金を引くだけで弾を撃てる。しかも撃つのにそれほど時間はかからない。」「なるほど、ならば我が日本でも、西洋で使われているような、最新型の鉄砲や大砲をつくればよい。」
公望が最新型の鉄砲や大砲の導入を進めるべきと主張。
「たしかにそうだ。しかし今の日本には、そのための技術力も、予算も、そしてそれを整えるための時間もない。
しかしこのままではいずれ、この日本は西洋の国々の、欧米列強の植民地、いや、領土にされてしまう恐れがあるから、だからこのように言っているのだ。
欧米列強は植民地拡大を行う手法として、次に植民地にしようとしている国の、その国内の動乱に便乗して、それにつけこんでその国を植民地、いや領土にしようという、それが一つの手法だという。
我が日本も、幕府だ、攘夷だ、朝廷だと争っているうちに、気がつけば植民地、いや領土にされてしまっているやもしれぬ。」
「……。」
公望にはまだそこのところの事情はよくわからなかった。
ただ、隣にいた坂本龍馬は熱心に聞き入っていたということだけは、覚えていた。




