第10話 天誅と称して要人襲撃、暗殺を図る者たち(2)
公望は公家とは思えない、まるで武士のような剣さばきを見せた。
カキン!キン!ヒュッ!シュッ!バシッ!ザシッ!ドガッッ!
公望は、みねうちで次々と天誅組の連中を倒していき、なんとか5~6人を倒し、残りはあと1人となった。
「でやあっ!」
天誅組のその1人は刀を振るうが、次の瞬間、公望は拳銃を取り出し、
ダーン!
「ぐああっ…!」
公望の撃った銃弾は敵の持ち手に命中。敵は刀を取り落とした。
「ぐっ…!引けーっ!」
天誅組の浪士たちはそのままいずこかへと逃げ去っていった。
そしてあたりは再び真っ暗闇となる。かろうじて、月の明かりと、星の明かりが、照らしてくれている。そういえば、星が見えるんだな…。
公望は刀を鞘におさめ、自らの屋敷へと帰る。
それにしても、あの天誅組の浪士たち、いったいどこの家中の者なのか…。
再び情報屋を呼び、調べてみることにした。すると、情報屋はこう言った。この情報屋はやはり、情報屋というだけあって、ありとあらゆる分野の情報に精通しているようだ。
「どうやら、京の都には今まさに、攘夷論を唱える各藩の藩士たちが、こぞって集まっている由にございます。」
幕府が開国を決めたことから、それに対する反発があり、外国人を打ち払うべし、という考えを持つ者たちが増えたということ。
そもそも「尊皇攘夷」という考えは、天皇を尊び、外国人を打ち払え、外国人を追い出して、自分たちの国であるこの日本を守れ、という意味だったが、
その本来の意味を履き違え、自分たちの意に反する者は誰かれ構わず殺してしまえ、ということで、天誅と称して、要人襲撃、暗殺といった行為に走る者たちもいるのだとか。
「ふん。そのような者たちなら、相手にとって不足はない、いつでも相手になってやる。」
公望はどや顔でそう言ったが、
「いけません!いくらなんでも、あなたさまは、かりにも西園寺家の跡取りでしょう。」
西園寺家の従者がそう言って制止した。そりゃそうだ。
何しろ、公望は後に「桂園時代」と呼ばれる一時代を築き、
そして何より、元祖、昭和の妖怪、昭和の最後の元老として、背後から政治を動かすような存在になるのだから、こんなところで攘夷論を振りかざすような浪士たちと斬り合って、万が一命を落とすようなことがあったら、それこそ歴史の流れが変わってしまう。
ただし、「昭和戦争」のあの敗戦の時代は、日本史の中でも屈辱の歴史と見る動きもあるようなので、背後から動かしていく中で、どのようにコントロールしていこうかと…。
しかし、実際にそれを考えるのは、ずっと後の時代のこと。
「すまん、すまん。できれば勤王の浪士たちとは極力はちあわせないように、気をつけるよ。」
西園寺は若い時は直接倒幕運動に関わることは少なかったが、ただ戊辰戦争に入ると、新政府軍の各方面軍に参加し、手柄をたてている。
その功績で、明治新政府の参与の1人に大抜擢され、そこから次第に頭角を現していくことになるのだった。