〈06〉
「テ、テメェ……!!何……ごふっ……しやがった……それに……腕が……!!」
彼女は俺に訊く。
胸に穴が空いてても喋れるあたり、流石宇宙人と言いたいが、かなりのダメージらしく喋るのがとても辛そうだ。
「お前に切られた右腕を、引き寄せた。お前を貫通するほどのスピードでな」
実は、俺は普通の人間ではない。
「俺はな、身体を自由に再生出来るんだよ。様々な方法でな」
今回みたいなパーツの一部が取れた場合だと、切れた所をくっ付けて再生するパターンと、新しく生やすパターンの二つだ。
「今回はくっ付けて再生するパターンを選んだワケよ」
因みに、いらなくなったパーツは蒸発させて無くすことも可能。
クリーンだね。
「さらにパーツをくっ付ける時に、わざわざパーツを取りに行かなくてもいい」
理屈はよくわからんが、くっ付ける再生の時に、パーツを磁石のように引き寄せられるのだ。
俺は、この引き寄せる力を利用した。
「かなり便利な能力だろう?」
俺は、彼女から光線ソードを取り返すついでに、自慢するように言った。
ダメージのせいなのか、彼女の手には力が入れられてなかったので、すんなり奪い返せた。
彼女は攻撃もしてこない。
「人間ならそのダメージで死ぬが、お前は宇宙人だからな」
そう言いながら、彼女の前で光線ソードを振り回して遊ぶ。
ビームなので、重さが全然無い。
かがくのちからってすげー!
「俺は臆病なんでね、頭部を切らせてもらうぜ」
俺はそう言って、光線ソードを構える。
そして、光線ソードを思いきり振ろうとしたとき。
「ガアアアアアアアーーーッ!!!!」
彼女は吼える。
「うお……ッ!」
咆哮の勢いは脅威的で、俺は少し怯む。
「ぎゃははははははははははははははははははははは!!!面白い!実に面白い!やりやがったな人間!」
あれ?さっきガフゴフしてたよね?何でそんな流暢に喋ってんの?
「ぎゃははははははははは!胸にポッカリ穴が空いたぜ!超スースーする!ぎゃはははははは!」
やはり、頭部を破壊しないと駄目らしい。
彼女の頭部を真っ二つに切るため、再度彼女にフルスイングしようと思った時。
「あーあ、元に戻らないと駄目だな、うん」
彼女は面倒くさそうにそう言ったあと、彼女は崩壊した。
比喩ではなく、本当の意味で崩壊した。
グズグズに崩れて、ドロドロに溶けて、肌色の液体になった。
液体はセーラー服をジュワジュワと溶かし、色を肌色から銀色に変化させる。
「まさか……変身する感じ?」
俺は急いで彼女だったモノを光線ソードで焼き切る。
何度も何度も切る。
だが、いくら切っても無駄らしく、どんどん彼女の新しい身体が作られていく。
以前よりさらに細い、小枝のような足が出来上がる。
試しに足を切っても、すぐにくっつくので意味が無い。
「変身完了まで待つしかないのか……クソッタレ」
仕方ないので、変身が完了するまで待つ。
腰、胴、腕、と出来上がる。
全て、足と同様に細い。
見た目は以前と同じ人型。
だが以前とは大きく違う点が二つある。
肌の色と、腕に付いてるカマキリのようなブレード。
腕に厄介なモノがついたな……。
引き続き彼女の変身を見守る。
ついに、頭部が作られる。
人間とは違う、細長い頭部が。
鼻が無くなり、目は六つに増え、口はパックリと裂けている。
いかにも宇宙人らしい、人間離れした外見だ。
「ふぅ……待たせたな、人間」
「待ちくたびれたぜ、宇宙人」
声は以前と変わらない、女性の声。
あ、そこは変わらないんだ。
ちょっと期待はずれ。
「……なあ、宇宙人。もしかしてまだバトる?」
「当然だろ?本気でバトるために本来の姿に戻ったんだから」
「本気でってことは、さっきよりも強くなってる?」
「そうに決まってんだろ?ぎゃははは!」
彼女は例の耳に残る笑い声と共に、そう言った。
ふざけんなコノヤロウ。
「じゃあ早速、バトろうぜ」
一瞬で彼女は肉薄し、ブレードで俺を切ろうとする。
「……ッ!」
なんとか光線ソードで応戦。
オイマジかそのブレード光線ソードで焼き切れないのかオイマジか。
「ぎゃはははははは!」
宇宙人はブレードで光線ソードを弾き、再び俺を襲ってくる。
ブレードが何度も俺を切ろうとする。
「……ッ!……!」
全て弾き返せず、幾つかは俺の身体を切る。
まあ、切られても再生すれば良いだけなんですがね。
「俺のオハコと行きますか……!」
俺は、奴のスタミナ切れを狙う。
こうやって戦っていれば、相手はいつか疲れるはずだ。
俺には再生能力があるから、スタミナに関しては気にしなくていいのよ。
しばらくチャンバラが続く。
「ちょっと飽きてきたな……」
三分程経った時、宇宙人はそう言ってアッパーをするように両腕のブレードを振り上げる。
「うおっ……!」
光線ソードが思いきり上へ弾かれる。
やべぇ……!!
「ぎゃははは!」
彼女は笑ったあと、口から何かを出すように、大きく開けた。
「ご……ッ!」
俺の腹が、光の柱によって消滅する。
「ぎゃははは!口からビーム!ぎゃはははははは!」
ビーム出せんのかよ……。
俺はすぐに再生し、今度こそ宇宙人を光線ソードで一刀両断しようとするが、宇宙人が再びビームを出して俺の腹部を消し飛ばす。
切ろうにも腹部が無いので、身体のバランスがうまく取れなくて切れない。
何度も腹を消し飛ばされ、ついには光線ソードを落としてしまう。
「くそっ……」
「ぎゃはははははは!」
宇宙人のビームは衰える気配が無い。
……アレ?コレ詰みじゃね?
決して負けないけど、決して勝てない。
くそっ……どうすりゃいいんだ……?
──そう思った時。
俺と宇宙人のすぐ近くに、彗星の如く何かが降ってきた。
「えっ……?」
「あん?」
何かのおかげでビームが止まったので、俺は急いで剣を拾い、後ろへ数歩下がる。
「すまん、遅くなった」
降ってきた何かは、そう言った。
──聞き覚えのある声。
「遅すぎだろ、全く」
俺は彼女に言う。
「かはは。まあ、ヒーローは遅れてやってくるって言うし?」
「別に遅れるのは構わんが、次回からはもうちょっと早く来てくれ────芍薬」
「おう、気をつける。……ってなわけで!おいっす!宇宙人!バトろうぜ!」
芍薬牡丹、参戦。