〈05〉
俺は何かに背中からブチ当たり、倒れる。
背中と腹に鈍い痛みがある。
腹部にも痛みがあるということは、腹に何かをされたらしい。
「ぎゃはははははは!」
宇宙人好きな女の子の、下品な笑い声が辺りに響く。
彼女は俺がさっきまで居た場所に、拳を突き出した状態で居た。
なるほど。俺は彼女に腹を殴られ、此処までブッ飛ばされたのね。
「お?……お!アンタ凄いな!私のパンチをくらって意識を失わなかった奴はテメーが初めてだよ!いよっ!ナイスサンドバック!」
彼女は姿勢を戻しながら言う。
「ははっ……そんな褒めんなよ……」
腹部を殴られたばかりなので、うまく喋れない。
「ぎゃははは!別に褒めてねーし!ぎゃはははははは!」
そう言いながら俺を指さす。
「人間マジおもしれー!ぎゃはははははは!いひひひ!」
コイツマジうるせえ。
身体の痛みが気軽に喋れる程度にまで引いてきたので、とりあえず彼女の正体を聞き出してみる。
芍薬が来るまでの時間稼ぎだ。
はやく来てくれよ……。
「アンタは人間なのか?」
「いや、宇宙人だ……え?何?殴られたのに私の正体まだわかんないの?」
「わかるわけねえだろコノヤロウ」
俺らにそんな能力ねえよ。ニュータイプかよ。
まあ、彼女は宇宙人らしい。
「ぎゃははは!なら説明してあげよう!私は太陽系の端っこに有る、スミ星って星に住んでいる宇宙人だ!」
随分と安直な名前だな。
「そうか。じゃあ、お前にも名前はあるのか?」
星に名前があって、その惑星の生物には名前が無いなんてことは中々無いだろう。
「もちろんある。聞きたい?」
やはりナッパとかベジータとかだろうか。
「聞きたい」
俺は彼女の名前に期待する。
「教えねーよ!バーカ!ぎゃははは!」
コイツブッ飛ばす。
俺は彼女の元へ全力で走る。
「このヤロウ!」
彼女の腹部へ思いきり拳を入れる。
が、手応えが無い。
「地球人マジトロい!でもそういう所大好き!」
横に避けられ、反撃を喰らう。
背中に衝撃が四つ。
「ガッ……!」
俺は地面に落ちる。
マジ痛え……。
「ぎゃははは!だっせー!……あ、そういえばテメーのコレ、何が入ってんの?」
彼女は、俺が持っていたジュラルミンケースを左手で弄びながら訊いてくる。
「ああ、そのケースの中にはな、お前を倒すためのビックリドッキリメカが入ってんだよ」
……これしかない。
俺は、千兵衛が時限爆弾を渡した可能性に賭ける。
まあ、普通の武器だったとしても、ピンチが大ピンチになるだけだ。安心しよう。
「ほう……とりあえず開けてみるか!ぎゃははは!」
パンドラの箱が開かれる。
「これは……ぎゃは!」
「そういうパターンか……」
ケースの中に入っていた発明品。
それは白く、ちょうど両手で持つのにピッタリなサイズの、剣の柄だった。
真ん中あたりにボタンがある。
俺は、俺たちはコレに見覚えがある。
先週テレビでやってた映画に出てきた武器じゃねえか……!
「ポチッとな」
彼女はボタンを押す。
すると柄から青白い、長さ一メートル程の、光の刃が出てきた。
「ぎゃははは!こいつはスゲえや!ぎゃははは!」
彼女は、新しい玩具を与えられた子供のようにはしゃいでいる。
確かあの剣は、映画では光線ソードと呼ばれていたな。
剣の刃の部分をビームにしたもの。
ビームなので、刃こぼれや錆の心配がない。
対象を焼き切る武器。
「なるほど、これなら宇宙人もイチコロだな!考えたな人間!」
そう言いながら、剣で空を何度か切る。
剣は振り回す度にぶおん、ぶおんと音を奏でる。
「だが、残念だったな。私に奪われるなんて」
ああ、本当に残念だよ。
まさかピンチが大ピンチになるとは。
今度から、もう少し千兵衛を信用しよう。
「くくく、なあ人間。お前で試し斬りさせてもらうぜ」
彼女はそう言った後、光線ソードを思いきり振る。
逃げようにも、背中を踏まれていたので逃げられなかった。
「──ッ!!!」
俺の右腕から、焼けるような痛みが襲ってくる。
右腕が、焼き切られた。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」
「ぎゃはははははは!良い声だ!ぎゃはははははは!」
痛みで意識を失いかける。
「がああああああ!!!!!!あああああああああ!!!!!!あああああ!!!!!!」
叫んで、なんとか、意識を、保つ。
「ぎゃはははははは!しゃあ!」
彼女は俺をサッカーボールのように蹴り飛ばす。
「グッ……」
俺は十メートルほど道路を転がる。
そのおかげで、なんとか意識は戻った。
「ぎゃははははははははは!」
彼女が近づいてくる。
──さて。
状況を整理しよう。
俺は今、大ピンチだ。
身体能力は段違い。
頼みの綱だった発明品は宇宙人に奪われた。
芍薬も来てくれない。
右腕を失った。
どこにも勝てる要素がない。
以上、整理タイム終了。
「右腕を斬られた気分はどうだ?人間」
彼女はゆっくりとこちらに近づきながら、訊いてくる。
「最高に最悪だ。宇宙人」
俺は上体を起こし、返答する。
彼女がすぐ近くにまで来た。
「ぎゃははは!それは大変なこった!……じゃあさ、そろそろ殺していい?」
「まだ生きてたい。だから、お前に勝たないとな」
「ぎゃははは!お前まだ私に勝てると思ってんの?ぎゃはははははは!マジ馬鹿だな!無理だっつーの!ぎゃははははははははは!」
彼女は笑う。
高らかに笑う。
「ああ、お前の言うとおりだよ。俺はお前には勝てない」
「俺が、普通の人間だったらな」
そう言ったのとほぼ同時。
彼女の胸部に穴が空いた。
「……は?」
──さあ、反撃開始だ。