〈04〉
時刻は夜の十一時ピッタリ。
俺は学校付近を、ジュラルミンケース片手にほっつき歩いてる。
学校付近の平和を守るため、寝る間を惜しんでパトロールをしているのだ。
芍薬は三分くらい前に『私は学校の屋上から道を見てる。異変を見つけたらそこへ跳んで犯人とバトるから。お前は学校付近の交差点を手当たり次第に歩いててくれ。じゃ、よろしく!』とか言ったあと空高くジャンプして、消えた。
もしかして、彼女はたった一回のジャンプで、ここから数百メートルは離れてるであろう学校の屋上まで跳んだのか?
は?
何アイツ?竜騎士なの?いつのまにモンクからジョブチェンジしたの?
因みに芍薬がジャンプした場所には、ちょっとしたクレーターが出来てた。
「……ぶっちゃけ、もう全部アイツ一人で良いんじゃないかな」
交差点まで足を進める。
そういえば、このジュラルミンケースの中には何が入っているのだろう。
放課後、千兵衛に宇宙人を倒すのにうってつけの発明品を貸してくれと言ったら、午後九時ごろにメイドロボがこのケースを家まで届けてくれたんだけど、まだ中身を見てないんだよね。
いやさ、前にも同じようなことがあって、その時は直ぐに中身を確認したのよ。
中身は時限爆弾だった。
しかもケースを開けたら起動するタイプの。
あの時は上半身が無くなりそうになって、本当に大変だったよ。
ちなみに後日、時限爆弾のことを千兵衛に訊いたらなんて答えたと思う?
『てへぺろ☆』
俺はアイツをブン殴った。全力でブン殴った。
それ以降、俺はアイツの発明品が入ってる箱を無闇に開けないことにしているのだ。
ケースには何か細工が施されているらしく、いつも同じ重さに感じるのでケースの重さは全くアテにならない。
中身がアハトアハトだろうが、水鉄砲だろうが、時限爆弾だろうが全て同じ重さに感じる。
何故そこにベストを尽くした。
そんなことを考えながら俺は歩き続ける。
たしか、あの交差点はここの角を右に曲がるとあるよな……。
学校付近の交差点、と言っても沢山ある。
そんな中で俺が今行こうとしてる交差点は、この付近で一番デカい交差点だ。
もし俺が人を誘拐するとしたら、一番デカい交差点で誘拐するね。
理由は?と訊かれたら、なんとなく、としか言えないんだが。
デカい交差点に着いたので、辺りを見渡す。
いつも通りの、実に殺風景な交差点しか見えない。
むう、ここはハズレか。
「えーっと、たしかここから一番近い交差点は、ここを右に曲がった先にあるんだっけ?」
出かける前にこの付近の地図をよく見ておけばよかった、と思いながら右へ曲がる。
曲がってしばらく歩いた先に、何かが居た。
目を凝らしてよく見ると、アレは……人……か……?
とりあえず近づいてみる。
あ、人だ。
しかもウチの制服を着てる。
セーラー服なので女の子。
「あのー、こんばんはー」
女の子に近づきながら話しかける。
「ん?……あっ、はーい!」
俺に気づいた女の子もこっちへ近づき、お互いの距離が一メートルほどになる。
「こんばんは、あなたも宇宙人のウワサを聞いて?」
女の子が俺に訊く。
「ええ、俺も宇宙人のウワサをどうしても確かめたくて……あなたも?」
それとなく話を合わせる。
「私ね、宇宙人が大好きなの!宇宙人になら誘拐されても良いわ!」
ああ、貴方そういうタイプの人ね。
「やっぱり、謎のビームで眠らせてから連れ去ってくれるのかしら?それとも無理矢理かしら?あぁん!激しいのは困るわ!」
「お、おう……」
やっべー、地雷踏んだ。
何この人、怖いんだけど。
「あなたも宇宙人を探してるんでしょう?一緒に探さない?やっぱり感動は誰かと共有したいよね!」
「アッハイ」
彼女の話を聞きながら次の交差点を目指す。
「私ね、宇宙人が出てくる映画も大好きなの!先週の金曜日にテレビでやってた映画みた?」
「ああ、あの全身真っ黒で呼吸音がうるさいマスクを付けた奴や、緑色のちっこい宇宙人とかが戦うSF映画ね。」
あの映画に出てくる、ビーム状の剣がカッコイイんだよな。
いつか千兵衛に作ってもらおう。
「そうそう!あの映画に出てくる宇宙人って皆可愛いよね!超キュートだわ!」
……そうだろうか?
「あのタコみたいな宇宙人も?」
「もちろん!」
彼女は中々変わったセンスをお持ちのようだ。
ふと周りを見渡すと、いつの間にか次の交差点に着いていた。
やはり人と話しながら歩くと、あっという間に目的地へ着くな。
「交差点だな」
「ええ!しばらくここで待ちましょう!」
彼女の言う通りにする。
ああ、そっか、交差点で待ち続けるのもアリだったな。
てっきり交差点に着いた瞬間にさらわれるのかと。
流石、宇宙人好きなだけあるぜ。
「そういえば貴方は、いつ交差点の話を聞いたの?」
彼女が俺に問う。
「今日だな。たまたま学校の食堂で、女の子達がその話をしているのが聞こえてきたんだよ」
たまたま、ね。
「へえ、でもあの話って何か不思議じゃない?」
いや、貴方のセンスほうが不思議だが。
そんな事は口が裂けても言えない。
「不思議って?」
「だってさ、誘拐事件なのに攫われた時刻と場所がハッキリしてるのって変じゃ無い?」
「ああ、言われてみればそうだな」
「それと、あくまで噂話とはいえ宇宙人という犯人像が出ている。普通、噂話でも宇宙人なんて出ないでしょ?」
「なるほど」
彼女の言うことは、確かにそうだ。
普通、そこまで情報があるのなら、どこかの機関やらが何かしらの対策をするはずだ。
なのに今、交差点にはそれらしき物は何もない。
「そういえば、貴方の周りの人たちはこの話をいつから知ってたの?」
「たしか、今日知ったって奴しか居なかったな」
千兵衛は俺が話すまで知らなかった。
芍薬も今日知った、と言ってた。
意外だな。芍薬ってかなりの情報通なのに。
「よく起きてるのに、昨日から知ってた人が全然居ないのも変じゃない?」
「おお……」
その冷静さを宇宙人に対して向けられないのか。
「あと、こんな時間に女の子がセーラー服で外出してるって変じゃない?普通着替えるでしょ」
彼女はニタリと笑いながらそう言う。
「……えっ?」
その直後。
俺は何かにブッ飛ばされた。