〈06〉
「さて、千兵衛。彼女が一体何者なのかを説明してくれ。誰だあの子、キャラ濃過ぎだろ」
彼女が完全に視界から消えるまで見届けたが、戻ってくるという可能性も万が一にあるので、暫く間を置いてから俺は口を開いた。
これは今とあまり関係ない、ふと頭によぎっただけの与太話だが、随分と前に、俺は学校の階段付近でミラクル・ザ・カミカゼに遭遇して、とある女の子のスカートの中を不思議発見。
元々食堂へ用事があったが、俺はダッシュで教室へ戻り、そのラッキー現象を千兵衛に話そうとした。だが、例の女の子が俺を追っていたらしく、千兵衛を呼んだ途端、喉に鋭い手刀を頂いだ。
まあ要するに何を言いたいかというと、女の子の話をする時は、本人が居ないか確認してから話せ、という事だ。以上、閑話休題。
……因みに、クマさんパンツだった。
「ふむ……やはり、お前は彼女の事を全く知らないようだな」
千兵衛はズレていた俺の机の位置を直し、自分の椅子に座る。なるほど、結依ちゃんが居たから座れなかったのか。だから、俺らに話しかけたって訳ね。まあ、そうじゃなくても話しかけるか?
「ああ、今日初めて知った。上下結依ちゃん……じゃあないよな、名前」
「もちろんだ。上下という苗字は、歴代卒業生を考慮しても、この学校にはお前しか居ないだろう」
いやいや、案外居るかもしれないぜ。思い当たる節がない訳でもない……と言いたいところだが、話が脱線してしまうので、上下の件については今度話すとしよう。
まあ、あまり話したくない事なので、話さない可能性があるが。
「かもな……で、彼女の苗字はなんだ?たしか、オツキミみたいな感じの……あ、モチツキ?」
もちろん、これはワザと間違えている。ちょっとしたジョークだ。一度聞いたレディの名前を忘れないのが俺の特技。決してうろ覚えとかではない、決して。
「ヤミツキだ。闇夜の闇に月見酒の月で、闇月」
────闇月 結依
それが彼女の、朝に話しかけてきた少女の、可愛らしいあの娘の、本当の名前。
俺は確実に、決して忘れないように、彼女の名前を心に刻んだ。
闇月か……珍しい苗字だな、初めて聞いた。英語にするとダークネスムーン。ダークネスムーンブレイクでもシャドームーンでもブラックムーンでもないので、残念ながら心当たりは全くない。
あ……もしかして、どこかのお嬢様だったりして?
「たしかに、少し特殊な仕事を代々受け継いでいる家の者ではある。しかしその仕事内容は今の俺たちに関係ない、実に平凡なものなので、今は割愛させてもらおう…………ふむ、以前に彼女から発明品開発の依頼を受けたことがあるのだ。だから彼女が、口が悪いことに目を瞑れば、いたって普通の女子高生なのを、俺は知っている」
流石、俺の相棒だ。顔をみただけで、質問しようとしたことを話す前に察し、わかりやすく答えてくれる。これが阿吽の呼吸というやつか。違うな、千兵衛が一方的に呼吸してるだけだコレ。
まあ、結依ちゃんが何者か知れた。阿吽の呼吸について今は関係ないし問題ない事だ。次の話題へと移ろう。
「へえ……で、なんでそんな彼女が俺に話しかけてきたんだ?しかも随分積極的にときた。見たところ、普段からああいう感じじゃあないんだろう?」
「そこだ。俺にとって、そこが不可解であり不愉快であるのだ。何のために、あの毒舌女がサスケにアプローチをしたのかが、さっぱりわからん」
そうか……一応の交流がある千兵衛でもわからないのか……ここは一つ、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる作戦、もとい思いついた限りの可能性を出す作戦を実行しよう。
「高校二年生になって、キャラを変えてみたとか?青春を謳歌する為に、キャラチェンジ!」
それで、クラスメートがどういう反応するかをまずは俺で実験。これなら辻褄は合うはずだ。
「ないな。闇月はかなり我が強いタイプだ。仮に青春を謳歌しようとしたら、キャラよりも環境を変えるだろう」
そうか……なら……。
「お前の発明品を使って、頭がおかしくなってる!」
おそらく昨日あたり、結依ちゃんは使ったのだろう。そのせいで現在何かしらの影響をきたしている……と。うん、これなら道理にかなっている。
「ふむ……ビジネスの際は真面目に品物をつくり、安全をしっかり確認してから渡しているからな?そこのところは真剣だからな?」
これが一番可能性高かったんだけどなあ……。でも、千兵衛本人が安全確認はしたといっているのだから、この推理も間違っているのだろう。
「……ああ、駄目だ。彼女の情報が少な過ぎて、全く予想がつかん!」
とりあえず闇月結依は、顔は少々童顔っぽさがあるが確かに可愛らしく、俺には異常なほど優しくて、アプローチが激しい高校二年生ってのは理解してる。
だが、逆に言えばそれしか知らない。
何か、何でもいいから、彼女に関連するキーワードが欲しい。
つまり、なぜ彼女が俺に熱心なアプローチをするのかではなく、彼女はどういう人間なのかを掘り下げなくてはならないのだろう。
彼女がどういう人物なのかについての話は、まだ終わっていなかったのだ。
「そういえばさ、結依ちゃん家ってずっと受け継がれてる仕事があるんだよな。さっき、俺たちには関係ないなんて言ってたが、一応言ってみてくれよ。なんかのヒントになるかもしれん」
棚からぼた餅、という言葉があるし、今はとにかく、そこらじゅうの結依ちゃんに関する棚をこじ開けよう。いつかぼた餅が出てくる……あれ、言葉の意味が違う?
「ふむ……いいだろう」
──このとき、俺はすっかり忘れていた。
「闇月家が代々受け継いでいる仕事、それは殺し屋だ」
千兵衛のいう普通は、全くアテにならないことを──




