〈05〉
「ふむ……サスケの膝上に座っているのは誰かと思えば、お前だったか」
千兵衛は哀れな子羊に注いでた目線を、結依ちゃんへと移す。
……千兵衛の声音には、少しばかりの嫌悪を感じられた。
「……何よ」
結依ちゃんは、これでもかというくらい眉間に皺を寄せて、千兵衛を睨みつける。
さっきまでの蕩けた顔とは五百四十度違う、敵意丸出しの顔だ。
超怖え。
俺から見てこれほどの恐ろしさなら、千兵衛から見たら、鬼、いや阿修羅の形相だろう。
「そこをどけ」
そんな彼女を気にもせず、千兵衛はきっぱりと、短く言う。
お前の心はアダマンチウムか何かで覆われているのか?
「何で?私が居ると都合が悪いの?」
「都合は悪くないが、胸糞が悪くなる」
「そんなの、貴方の勝手でしょう。私が嫌なら用事は諦めなさい……それと私、自分勝手な人は嫌いなの。早く失せてくれる?」
「お前こそ勝手にサスケの膝上へ座ってるだろう」
……うわぁ。
仏頂面の千兵衛と、阿修羅面の結依ちゃん。
比喩で神を使ったが、神からは程遠い内容の口論なんだよな。
何で俺の周りって、こう、譲歩しない奴ばかりなのだろうか。
「ふん……ならサスケくんに決めてもらいましょう?どちらの用事の方が大事なのか」
「ふむ……お前の意見という点に少し納得がいかないが、まあ良いだろう」
おっと。
軽々しく比喩に神を使ったせいで、天罰が下ったようだ。
「と、いうわけでサスケくん。あんな天パオバケより、私との甘い時間の方が大事よね?」
「ふむ……外見は良いが中身が超弩級に不細工な女より、俺との有意義な時間の方が大事だよな?」
ぐりん、とホラー映画の幽霊のように首をこちらに回す二人。実はお前ら仲良いんじゃねえの?
……さて、やっと俺の発言タイムか。
実はもう、答えは決まっている。
俺って意外と決断が早いのよ。
ほら……男の仕事の八割は決断で、そっから先はおまけみたいな物だって言うだろ?
「そうだな……俺は、千兵衛と朝の時間を過ごしたい」
俺は、聞き間違いが無いように、ハッキリと二人に伝えた。
「なっ…………!?」
「ふむ、当然の結果だな」
いつも通りの千兵衛とは対称的に、目を見開いて、驚愕する結依ちゃん。
……そこまで驚くことか?
「なっ……!?なんで!?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!?あんなスチールウールを頭に乗っけてる男の、どこが良いの!?」
結依ちゃんは俺の肩を掴み、思いきり怒鳴り散らす。
スチールウールって……。
「結依ちゃん、よく聞いてくれ」
肩の痛みを表に出さずに、俺は結依ちゃんを真っ直ぐ見つめる。
芍薬ほどではないが、力が強いな……気を抜いたら泣きそうだぜ。
「俺はたしかに千兵衛の方を優先した。しかし、それは朝の時間内での話だ」
「……えっ?」
俺の言葉が届いたようで、彼女の力が弱まる。
あー、痛かった……ん、この感覚……骨にヒビ入ってるな。再生しとこ。
「つまり俺はな、君とゆっくりじっくりどっぷりまったり話し合いたいんだよ。朝って、どうも心が落ち着かないだよな」
「あっ……そうだったのね!やだ!私ってば、貴方が私の事なんかどうでも良いと思ってるって、勘違いしちゃった!」
ごめんなさいね、と言って結依ちゃんは俺の膝上から離れる。
「あはは……勘違いくらい誰にもあるさ」
「もう……サスケくんって優しいのね……じゃあ、放課後、ゆっくりじっくりどっぷりまったりはっきりぱっちりゆったりあっさりくっきり話し合いましょうね!じゃあ、非常に遺憾だけど、ここから離れるわね」
結依ちゃんは可愛らしい笑顔を見せて、スタスタと廊下へ向かった。
…………。
「なあ、サスケ」
「どうした?」
「お前は将来、希代の詐欺師になれるぞ」
「……かもな」




