〈02〉
時間は少し飛び、午前8時過ぎ。
「着いたな」
「おっ、もう教室か!」
俺たちは教室へ着く。
各々の席に座り、芍薬は自分の席の近くに居るクラスメートと会話をし始め、俺は1人で自分の席で携帯をいじる。
芍薬とは席が離れているので、朝の会話は教室へ着いたらだいたい終了するのだ。
俺もいつもなら、テキトーに会話の輪に入ったり入られたりするのだが、今日はちょっと違う。
そろそろアイツが教室に来る時間なんだが……。
ガラガラと教室のドアが開かれる。
俺が携帯いじりに飽きてきた頃に、彼は教室に現れた。
「よう、千兵衛」
「ふむ、サスケか。おはよう」
天馬 千兵衛
中学からの俺の親友。
こげ茶色の癖っ毛と、黄緑色の瞳がトレードマーク。
機械いじりが得意で、いつも何だかよくわからない発明品を作ってる。
家にいるメイドロボが可愛い。
そんな彼に、俺は話しかける。
「ほい、これ」
そう言って、学生鞄の中から朝に読んでいた漫画を差し出す。
「ふむ!例の漫画か!」
やや興奮気味に喋る千兵衛。
「最新巻も最高だったぜ、特に妹とデートする回。あの回は全ページ切り取って部屋に飾りたいレベルだ!」
俺は深刻なネタバレにならない程度の内容を話す。
「妹とデートだと!?今日の夕食は赤飯に決定だな!!」
俺も昨日は赤飯だった。
「返すのはいつでもいいぞ」
そう言いながら俺はバイブルを渡す。
「毎度、本当に感謝する」
「まあ、俺もお前に色々借りたりするしお互い様だ……さて、話は変わるがこの間借りた『もぎたてフレッシュ!ピチピチガール』を昨日読み終えたぜ」
説明しよう。『もぎたてフレッシュ!ピチピチガール』とは、水着姿の女の子達を集めたちょっとエッチな写真集のことである。
ビキニ、マイクロビキニ、チューブトップ、タンキニ、サロペット、上下別、ラッシュガード、パレオ、スリングショット、葉っぱ、貝殻、生クリーム、スクール水着、あぶないみずぎ、etc……。
あらゆる水着を網羅した写真集。
あの写真集に無い水着はあるだろうか、いや無い。
水着系写真集の、アブソリュートなハイエンド。
唯一の欠点は、ページ数が多過ぎる点か。たしか三千ページだっけ?
「ふむ、アレは俺のお宝本達の中でもトップクラスのお気に入りだ」
千兵衛が自慢気に言う。
うん、あの本なら家の家宝にしても良いと思う。
「そんなわけで、明日返すよ」
「ふむ、わかった。明日は鞄を空けとこう」
ぶ厚いから、空けとかないとね。
「ああ、それと──」
俺は話を続ける。
千兵衛が前、俺が後ろ、という席順でコイツとは席が隣りだ。
お互い暇なので、朝のホームルームが始まるまで、しばらく水着について会話する。
「やっぱりさ、俺は機能性とエロさを兼ね備えたスクール水着こそ至高だとおもうのよ」
「ふむ、お前の言ってることは良くわかる。今すぐお前とハイタッチしたいほどにな」
俺達はハイタッチをする。
「だがな、最近の俺のトレンドは葉っぱ水着なのだ!」
彼は葉っぱ水着について語る。
「葉っぱ、というと?」
「葉っぱ水着。それは水着界の中で、ナンバーワンといっても過言ではないワイルドさ」
「ふむ」
「───そして、自由度の高さ」
「ほう」
「葉柄の部分を結んで作るのもよし、葉身の部分を結んで作るのもし、小さい葉っぱを乳首に添えるだけなのも風情があってよし」
最後のは水着とカウントして良いのだろうか。
「つまり、葉っぱ水着は普通の水着以上に個性が出るものなのだ!」
「おお……」
千兵衛の力説に心が揺れ始める。
「さらに!!葉っぱ水着には『いやーん水着の中に虫が入ってるー』シチュがあるのだ!普通の水着にはない!」
「おお!」
「以上の理由から、俺は葉っぱ水着を推すね」
やはりコイツは天才だったか……。
そんな話をしてると、教室のスピーカーからチャイムが鳴った。
む、もうそんな時間か。
もうすぐ、朝のホームルームが始まる。
俺たちは会話をやめ、ホームルームの準備をする。
葉っぱ水着……いいな!