〈04〉
まあ、そんなこんなで俺たちは学校へ到着し、教室にいる。
……のだが。
「ねえサスケ君。今日は保健室のベッドで一日中保健体育の実技をしましょう?」
「俺は保健室には三年間行かないって決めている」
「じゃあ屋上で……」
「ウチ、屋上閉まってるよな?」
「むぅー……」
彼女のキャラが変わらない。
というか、ギアが上がった気がする。
……ここで現在の状況説明。
俺はいつも通り、自分の教室の、自分の席に座っている。
じゃあ、結依ちゃんはと言うと……。
「なあ結依ちゃん、膝上からどいてくれないか?」
「やだ。保健体育してくれないとやだ」
俺の膝上に座っているのだ。
しかも、俺と向かい合うようにして。
いやあ、ビックリしたぜ。俺が座って椅子を引こうと思った時には、もう膝上に居たもん。彼女は時を止めるスタンドでも持っているのか?
ちなみに、彼女が膝上に座ってから五分ほど時間が経っている。
あの……そろそろ……。
「足が痺れてきたんだが?」
「じゃあ、私がサスケ君の足になるよ」
やべえよ彼女。何のためらいもなく発言したよ。
まあ、今日は早めに登校したので、幸い教室には数人しかクラスメートが居ない……もちろん、誰も助けてくれないし話しかけてこないが。
お前ら……いつか仲良くなったら、上履きの中に豚汁入れてやるからな。覚えとけ。
「あー、トイレ行きたんだけど」
「私が貴方の便器になるよ」
「その発言は色々と危ない!!」
とにかく、彼女は何が何でもどかないつもりらしい。
うーん……どうしたものか……。
────正直に言おう。
実は、さっきから勃起しそうなのだ。
女の子が向かい合うようにして膝上に居るんだぞ!興奮しないわけがなかろう!
だが、ここで勃起したら保健室エンドまっしぐら。これからの高校生活を考えて、それは避けたい。
「なあ結依ちゃん。提案がある」
「……何?」
「どいてくれたら、食堂で何か奢ろう」
「却下です」
駄目か……芍薬だったら何とかなったんだが。
「じゃあこの、本屋のサービス券をプレゼント」
「私も一昨日貰ったわ」
「そうだった……同じ商品買ってたんだ……」
俺はポケットの中を確認したが、特に良い物を見つけ出せなかった。
物で釣る作戦は駄目だ、次行こう。
「俺ってさ、控えめな女の子が好きなんだよなー。ドラクエでもフローラ派なんだよなー」
もちろん嘘である。
明るくて積極的で、ちょっと痛い性格の女の子が好きだ。あと俺はビアンカ派だ。
「でもこのあいだ、『月刊 発情乙女迷宮〜ドスケベラビリンス〜』って雑誌……」
「ああああああああーーっ!ストップ!嘘!実は積極的な娘が好き!ビアンカ派!」
結依ちゃんは慌てる俺を見て、そうよね、私のサーチ不足かと思って不安になっちゃった、と言いながら笑みを浮かべる。
クソ、心を揺さぶる作戦も駄目か。
一体、どうすれば彼女はどいてくれるんだ?
……多分、俺はあと数十秒で、勃起してしまうだろう。
嗚呼、神はそこまで俺を退学させたいのか。
おい神、今度お賽銭箱に、とんでもない本を大量に入れてやるからな!プレデターみたいな奴しか居ない本だからな!
「おはようサスケ……ふむ、挨拶するのは野暮だったか?」
──なんて神に復讐を誓っていた、その時だった。
ほぼ毎日聞いている、なんとなく気だるそうな声が俺の耳に入る。
俺はすぐに横を向き、彼の姿を見た。
海藻のようにうねっている髪の毛、消費期限の過ぎたカフェオレのようにどんよりした目。
やはり、彼である。
「いや、むしろ挨拶して欲しかったぜ。千兵衛」
俺の親友、天馬千兵衛の登場だァーーッ!!