〈03〉
俺たちは楽しく談笑しながら、通学路を歩く。
「ねえサスケ君、一昨日の午後七時五十七分二十三秒ごろに『全国素人女子高生大図鑑(改訂版)』って本を買ったでしょ?」
「なんで秒単位まで知ってるんだ?俺も知らないことだよ?」
「私もその本を買ったんだけど……サスケ君はどの娘が一番良かったの?」
こんな感じに、会話の主導権が一切ねえけどな!
さっきから、結依ちゃんが質問して俺が答える形ばかりだ。
なので俺は彼女に対して、たった一つしか情報を得られてない。
……話を聞いた限り、この子は定期的に俺をストーキングしてるっぽいのだ。
さっき結依ちゃんが『ゴメンねサスケ君!昨日は用事があって貴方の後を追えなかったの!』とか言ってたし。
……あれ?もしかして彼女、ヤバい子?
「えーっと……ほら、黒髪ロングの一ヶ所だけ紅いメッシュを入れてる、目が碧とエメラルドグリーンのオッドアイだった娘、居たよな?」
まあ、俺はストーキングされてるからといって、女の子を遠ざけるような真似はしなくない。
とにかく今は、美少女との会話を楽しもうじゃねえか。
「ああ、七十二ページ目の娘ね。サスケ君はああいうタイプが好みなの?」
結依ちゃんはサラリと答える。
すげえ、俺より読み込んでるぞ。
「おう。今の俺の中のトレンドが、ちょっとミステリアス系女子なんだよ」
さらに具体的に言うと、ちょっと痛い感じの女の子。
俺の周りには、そういう子が居ないんでな。憧れてるんだよ。
「なるほどなるほどなるほどなるほどなるほど。つまり私はサスケ君のストライクゾーンなんだね!」
結依ちゃんは謎の結論を出した後、ふんすと鼻を鳴らす。
その鼻息が耳元に当たり、危うく俺の最後の砦が崩れかける。
……学校までもつか?
リビドーに身を任せるとか言ったけど、犯罪はいけないと思う俺なのだ。
「いや……アウトではなんだけど、ストライクでもないと言いますか……」
なんだろう……大リーグボール二号って感じ?
「へえ……」
曖昧な俺の返答だったが、結依ちゃんが納得したみたいなので、俺はこれ以上何も言わないことにしよう。
俺は今、女の子の感触に集中したい。
──とくに、めちゃくちゃ柔らかい二つの感触をな!
……これは……Bカップか……?
「…………」
「…………」
無言で三分ほど感触を楽しんだ俺は、彼女を横目でチラリと見た。
俺がフィーバータイムしていた間、結依ちゃんは一切言葉を発さなかったので、ちょっと彼女が心配になったのだ。
彼女はモグモグと口を動かしながら、前を向いていた。
あ、なんだ、何か食べてたから静かだったのね。
「なあ結依ちゃん。お菓子まだある?」
結依ちゃんを見て、俺も何か食べたくなってきた。
今日は朝飯を抜いて来たから、ちょっと腹を満たしたい。
「え?お菓子?……持ってないよ?私って食べ物は携帯しない主義だし」
女の子に集かるのは、紳士として如何なものか?と思っていたら、予想外な返答が返ってきた。
「じゃあ、結依ちゃんの口に入っているのは?」
……まさか、空気を食べているのか?
「ああ、これ?」
結依ちゃんは上半身と両腕を解き、ほんの少し距離を離してから、俺のほうへ向いて口を開いた。
ああ……おっぱいが……。
俺は少し、哀しい気持ちになる。
「……ん?何もねえな」
彼女の口内を隅々までよく観察したが、食べ物らしきものが何も見当たらない。
「えー?ちゃんとあったよ?」
そう言って結依ちゃんは口を閉じる。
彼女から意地悪をしている印象は、特にうけない。
……え、マジに空気食べてるパターン?
「もしかして……空気を食べてるとか?」
「うふふ!違うよ!」
空気じゃない……?
「……一体、何を食ってるんだ?」
「サスケ君の抜け毛」
オゥ…………。