〈02〉
待て。
待て待て待て。
待て待て待て待て待て待て待て。
自分を必死に抑えつつ、俺は後ろをゆっくり振り返る。
するとそこには、セーラー服の女の子が目を輝かせながら立っていた。
……オーケー。
たとえセーラー服の女の子に突然プロポーズされた時でも、俺はクールな振る舞いをしたい。
上下家たるもの、常に余裕を持って優雅たれって親戚の優雅おじさんが言ってたからな。
まずは相手がどういう人物かを知ろう。
「……えっと、どちら様で?」
「あなたの嫁です」
俺が質問を言い切るかどうかの時に、彼女は答えた。
レスポンスが早えよ。
「……お名前は?」
「やみつ……じゃない間違えた。上下 結依です」
さっそく上下性使っちゃう?
「その制服はウチの高校のだよな?」
「うん!一緒のクラスだよ!」
……ああ……しまった。
まだ新しい学年が始まったばかりなので、俺はクラスメート全員の顔と名前を覚えられていない。
周りの席の奴ら数人と、去年もクラスが一緒だった奴らを覚えているくらいだ。
今は四月の中旬だからね、仕方ないね。
……この状況、だいたいわかったぜ。
「成る程……それで、結依さ──」
「結依って呼んで!もしくはハニー」
「結依ちゃん、正直に言わせて貰う。俺は君の事を全く知らない。あとそのノリしんどい」
初対面の相手にハニーはキツイっすよ、なんて心の中でツッコミながら、俺は本当の事を述べる。
今、俺の脳内には二つの可能性がある。
一つ、俺と彼女は昔に結婚の約束をして、それを彼女は今でも覚えているが、俺は忘れてしまっている。つまり彼女は本気で結婚したがっている。
二つ、彼女はかなりお茶目な性格で、結婚と言われて慌てふためくクラスメートを見て楽しんでいる。つまり彼女は結婚する気なんてサラサラない。
もし一つ目だった場合、今の俺の発言でショックを受けるはずだ。
二つ目だった場合、優雅な対応をしている俺の様子を見て、違う話を始めるだろう。パフェの話とか。
ぶっちゃけ一つ目は、創作物でしか見ないような出来事だよな。まずあり得ない。
……さて、彼女はどう返答する?
「だよね!だって直接話すのは、今日が初めてだもん。だからさ、結婚しよ?」
「なあ、俺の話聞いてた?」
どうやら二つ目の方らしいが、このよくわからないノリをまだ続けるようだ。
人の事を尊重しないタイプか……。
「私はね、お互いに納得した結婚をしたいと考えているの。だから私は他の阿婆擦れ共と違って、貴方の話をちゃんと聞いて、それを尊重するよ……あ、大丈夫だった!私と貴方は心と心で通じ合ってるんだから、いちいち話さなくても良いよね!」
「お願いだから自己完結しないで、俺の話を聞いてほしいな!」
彼女はヤバいぞと、俺の危険信号が全力で警告している。
何で今日初めて話す相手と心が通じ合えると思えるの?
絶対に間違って受け取ってるよな?お互い平行線だよな?
どうしよ……この子……。
「ん……サスケ君……それは放課後のお楽しみだよ……ふふ!」
「俺の心から何を受信したのかなー?俺はお前が頬を赤らめるようなことを考えてないぞー?」
どデカい台風、もといお前を対処する方法しか考えてないからな?
うーん……今日は学校をサボって、この子から逃げるか?
「サスケ君、早く学校へ行こうよ!そして私達のイチャイチャを馬鹿な豚共に見せつけてやりましょう!」
なんて考えていると、彼女が俺の右手を掴んで自分の方へ引っ張る。
いきなりのことだったので、俺はされるがままに引っ張られ、バランスを崩す。
「うおっ……と、と?」
バランスを立て直していると、俺の腕に彼女が絡みついてきた。
彼女は蛸の如くヌルヌルと動き、俺の右腕に、両腕だけでなく上半身も絡める。
「あの、結依ち──」
「さあ、行きましょう?」
離れてくれと言おうとした時に、右耳のそばから、心が溶けてしまいそうなほどの甘い声がささやく。
──────あ、もう我慢出来ん。
「おう!」
俺は意気揚々としながら、通学路を歩くのであった。
後先のことなんて、もう知らん。
リビドーに身を任せるぜ!




