〈12〉
「つーわけで、行くぜ!」
そう言ったと俺が認識した時には、すでに芍薬は宇治原のすぐそばに居て、アイツを殴ろうとしていた。
……速え。
「…………!」
宇治原は体を横にずらしてよける。
そして反撃の拳を芍薬に向ける。
が、しかし。
「はい!!」
芍薬の元へたどり着く前に、芍薬による第二の拳が宇治原の頬を殴り抜ける。
「はいはいはい!!」
殴った拳での裏拳、もう一つの拳でのアッパー、からの中段蹴り。
非常に荒々しいが、全て繋がっている攻撃。
それらをくらって、宇治原は後方へ十メートルほど飛ぶ。
「かーっはっはっ!!」
芍薬は高笑いしながら、宇治原の元へゆっくり近づく。
「クソッ……!」
宇治原はバク転をして体勢を直し、悪態をついてから、口を大きく開いた。
「とっておき!」
宇治原はそう言って、口から光の柱を出した。
──俺の時より、二倍くらいデカい光線だ。
「芍薬!!よけろ!!」
流石の芍薬でも、あの光線をくらったら大きなダメージを受けるだろう。
そう思い、俺は警告する。
「嫌だね!!」
が、相手は芍薬牡丹。
俺の警告を真っ向から無視して、その場から一歩も動かない。
というか、腕を組んで仁王立ちしている。
もう嫌だアイツ。
「芍や──うおっ!」
俺が再び警告しようとした時に、光線は芍薬を飲み込む。
光線は想像以上に太く、よけなかったら巻き添えをくらうところだった。
……あ、ゴメン、今の嘘。
右腕の肘から下が無くなってたわ。
俺は即座に右腕を再生する。
痛みが来る前に再生すれば、痛みを感じないのよん。
なんて頭の中で説明しているうちに、光線は姿を消していた。
「……で?早く見してくれよ、とっておきを」
──無傷の芍薬を残して。
芍薬はまるで何事も無かったかのように、再び歩き始める。
ダメージの痕跡が服にさえない。
……彼女は未来から送られてきたロボットか何かだろうか。
「マジかよ……!」
一方、宇治原は顔に焦りの色を見せながら、ジリジリと後退していた。
「私ってさ」
動揺している宇治原に、芍薬は話しかける。
「下校途中にさ、よく路地裏とかで色んな奴とバトるのよ。楽しいから」
いかにも自然な風に、おかしな事を語る。
買い食い感覚でバトんなよ。
「それでよ、やっぱりお前みたいにビーム打つ奴も結構居るんだわ」
マジかよ。
俺の周りには居ねえぞ。
「いつも危ねえなって思って回避してたんだけど、ある日避けられない状況で撃たれちゃったのよ」
お前にも避けられない攻撃ってあるんだな、というツッコミを我慢して俺は芍薬の話を聞く。
「それで私はダメ元で、サスケに見してもらった漫画に出てきた、ある技の真似をしようと思ったのよ」
俺が芍薬に見した漫画……?
「こう、ばっ!!……って感じに気合いを飛ばして、敵の光線をかき消す技」
芍薬は片手を横に突き出し、そこから何か透明な物を勢いよく出して塀を壊す。
あー、あの七つのドラゴンなボールを集める漫画ね。
……いやオイ待て。
「塀、壊すなよ」
なんで出せんだよとか、出し方を教えてくれとか、色々言いたかったが、とりあえず塀を壊したことを突っ込む。
「かはは、スマンスマン……てなわけで、私はアンタの光線をかき消したわけだ」
芍薬は心ない謝罪をして、その場に立ち止まる。
……塀は千兵衛に何とかしてもらおう。
「……さて、ソラ」
名前を呼ばれて、宇治原も後退を辞める。
「降参するなら今だぜ?」
「断わる」
即答だった。
「……いやあ、私、地球人ナメてたわ。地球人がここまで強いなんて聞いてないぜ。ぎゃはは!」
宇治原は後頭部を掻きながら、感想を言う。
いや、芍薬を基準にしないでくれ。
俺は後で宇治原へ、地球人について詳しく説明しようと決意した。
「だから──」
宇治原は、芍薬の元へ歩く。
ゆったりと、余裕を持って。
「──私も、本気で行かせてもらうわ」
お前ら、最初から本気出せよ。