〈10〉
「うおっ……」
外の血が入ってくる何とも形容し難い感覚と、皮膚を裂かれる痛みが俺を襲う。
気分は最悪だ。
「……っふう。作戦成功だぜ」
しかし、それもすぐに終わった。
……さて、この作戦の概要を説明しようか。
まずチャンバラをして、アスファルト舗装の道路に大量の血を染み込ませる。
血が充分にアスファルトへ溜まったら、宇宙人が俺から一旦離れるように誘導する。
そして宇宙人が再び接近した時に、俺はアスファルトの血を超スピードで再生させる。
この時、血を相手の足に当てて再生したのだ。
要するに、血の再生を利用して宇宙人を転ばしたのである。
因みに、作戦のソースは彼岸島。
彼岸島のアレに、俺流のアレンジを加えたのである。
「はっはっはっ!!油断したな宇宙人め!!」
俺は光線ソードの刃を消して、自慢げにそう言った。
……もちろんこれはハッタリで、正直これはかなり成功率が低い作戦だった。
宇宙人が一旦離れる可能性はかなり低かったし、再生スピードの調整を上手く出来るかどうかわからなかったし、宇宙人がその程度の要因で転んでくれるかわからなかったし、そもそも出血した血を再生するって行為が初めてだったし。
挙げればキリが無い。
「────っそう!!くそう!!悔しい!!私は悔しい!!」
俺が考えにふけっていると、いきなり宇宙人は大声を出した。
その顔には、悔しさだけでなく嬉しさも見える。
あ、やっぱコイツ芍薬と同じタイプだ。
……それなら。
「二度も腹に穴を開けられた!!ぎゃはははははははは!!!!……っぬん!!」
宇宙人は突然笑い出したかと思えば、突然体を力ませた。
忙しい奴だな。
何?第二形態とかあるの?ミルドラースなの?
「───っうう……ハア……ハア…………うしっ!!」
なんて心の中で突っ込んでいる間に、宇宙人は腹を再生していた。
……あれえ?
そういえば俺、さっきアイツの腹に風穴開けたけど再生されたよね。
………………大事な事を忘れてた。
「安心しろ、人間。私はお前みたいに何度も再生できん。一日三回までだ」
不安が顔に出ていたらしく、宇宙人が説明してくれる。
あ、そうなんだ。
「えっと……俺に二回使ったから、あと一回か?」
「そうだな」
「よし、じゃあ……芍薬!!」
ブッダフェイスも三度までと言うし、そろそろ交代して貰おう。
「わかってるさね!!」
芍薬は屋根から大きく跳び上がり、空中で何度も回転してから俺のそばに降りてきた。
いちいち行動がカッコいいなオイ。
「ナイスファイトだったぜ、サスケ」
芍薬は爽やかな笑顔でそう言って、優しく俺の肩を叩く。
「そうか。じゃあ後は頼んだわ」
なんて言い返して、俺は照れ隠しのために後ずさる。
「おう。任せろ、サスケ」
芍薬は片手を少し上げて、そう答えた。
やだ……イケメン……!
「ぎゃははははは!やっとお前の番か!女!」
俺たちを待ってくれてたのか、ちょうど良いタイミングで宇宙人が芍薬に話しかけた。
「そうだ。やっぱり楽しみは最後にとっておきたいだろ?」
「ぎゃははははは!!そりゃそうだな!!」
「ああ……あ、そうだ宇宙人、ちょっと質問したいんだけど」
芍薬はふと何か思い出したらしく、改めて宇宙人を呼ぶ。
「あ?」
「お前に攫われた人って、何処に居るの?」
お、いいこと言った。
これで宇宙人が場所をゲロってくれれば、二人が戦闘をしてる間に俺が攫われた人を救えるじゃん。
「攫った人間はその日の中に、無傷で返すのが私の流儀さ。だから今は誰も捕らえてねえ」
活躍できるかなと思ったが、どうやら世の中はそんなに甘くなかった。
まあ、人は居ねえ方が良いんだが。
人質とかにされたら困るしね。
「そうか、なら安心した。情報提供サンキューな。えっと……アンタ名前なんだ?」
「地球では宇治原 宙って名乗ってる。アンタは?」
「私は芍薬牡丹。将来の夢はお嫁さんだ」
俺と芍薬に対しての態度の違いと、芍薬の将来の夢にショックを受けつつ、俺は道路の端に寄る。
……俺には教えてくれなかったよな。
「そうか……なあ、牡丹」
「どうした?ソラ」
──二人の雰囲気が変わる。
対戦相手への疑問がなくなった。
ならば、あとは始めるのみ。
「ケンカ、しようぜ」
「おう!」
──二人は、衝突する。