〈01〉
平日の午前七時あたりだろうか。
善良な高校二年生、もといこの俺、上下 左右は今、電車で本を読んでいる。
まあ、本といっても漫画だが。
…ふむ。
……ほう。
漫画を読み終え、学生鞄へしまう。
やっぱり、この作者の漫画は最高だな!
主人公が好意をよせてるあのおしとやかなキャラも可愛いが、ピンク髮でロングヘアーな宇宙人も可愛い。つーかエロい。
……いや、主人公を殺そうとしてる金髪のあの子も最高だ。俺はあの子になら是非殺されたいね。
おい待て、落ち着け俺。主人公の妹のことを忘れるな。なんだあの可愛すぎる生物。七十二時間ほど身体中ペロペロしたい可愛さだ。
「おいっす!」
待てよ、あのツンデレ系風紀委員も可愛いよな……デレた時の破壊力といったら、つい電車内でニヤニヤしちゃった程だ。ハレンチだわ!
「……おい?無視か?」
───そういえば、あのドリルへアーお嬢様キャラが居なかったら、ヒロインたちが温泉でおっぱいを揉み合うシーンがなくなってしまうのか……ありがとうドリルヘアー。マジ感謝。
「…………」
それと、そうそう。新キャラだよ新キャラ。あのピンク髮でロングヘアーな宇宙人の、これまた可愛い妹たち。あの子たちは次巻から活躍するんだよな。
嗚呼、はやく次の話を読みた───お?
突然、何者かに頭部を鷲掴みにされる。
そして、頭部を掴んでる指に力が入れられる。
「えっ、何?……ちょ、痛い!超痛い!頭潰れる!お゛ぉ゛ん゛!」
アイアンクロー。
プロレス技の一つ。
相手の頭部を指の力だけで締め上げる技。
単純、実に単純。
故に、この技の破壊力は使用者の握力に大きく左右され───いだだだ!タンマ!痛い!マジ痛い!痛すぎてモノローグも出来ない!
「にぎゃああああああーーッ!」
「うるせぇな」
アイアンクローさん(仮名)がそう言ったあと、俺はアイアンクローから解放される。
マジに頭が潰れるかと思ったぞ、オイ。
「い、痛え……」
とりあえず、まずはアイアンクローさんのツラを拝んでやろうと思った瞬間。
「オラァ!」
「……ッ!」
アイアンクローさんに腹部を殴られた。もちろんコレも超痛え。
「まったく、挨拶はちゃんとしろよ?」
少し低めな女性の声が聞こえる。
このパンチ……この声……ハッ!
俺はアイアンクローさんの正体に気づく。
「朝から何しやがる、芍薬!」
「何って、挨拶だよ」
いやいやいや、挨拶ってお前……。
お前はアレか?拳でしか語り合えない不器用な人間なのか?いくらなんでも不器用過ぎだろ。ラオウでも挨拶ぐらいできるぞ。
──芍薬 牡丹。
高校で知り合った俺の友人である。
名前とは裏腹にバイオレンスな性格をしている。
深紅のショートボブとレモン色の瞳がトレードマーク。
スタイルとルックス共に、誰もが羨む程美しい。
正直、スタイルが良過ぎてセーラー服が似合ってないレベル。
……だが、とんでもないレベルの戦闘狂。女子高生が休日にストリートファイトしてるってどうよ。
たしか座右の銘が『私より強い奴に会いに行く』だった気がする。殺意の波動には目覚めないでね?
そんな彼女と電車で遭遇。
……とりあえず挨拶するか。
これ以上痛いのは嫌だし。
「おはよう」
「おう!おいっす!」
ニカッ!っと笑いながら挨拶をし返す芍薬。
戦闘狂じゃなければなあ……こんなにも可愛いのになあ……。
「なあサスケ、今日提出の宿題って無かったよな?」
「無いだろ、多分」
「そっか、なら良かった!」
俺は適当に答える。
普通の時の笑顔は可愛いんだがなあ……。
「あ、そうそう芍薬」
「ん?なんだ?」
「シーチキンとツナの違いって、知ってるか?」
二人でくだらない事を話しながら、学校行きの電車に揺られる。
芍薬は本当にくだらない事でも、全力でリアクションしてくれるから一緒に会話してて楽しい。
マジに戦闘狂じゃなければな……。