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彼と彼女のソロプレイ  作者: 秋野終
第九章 主人公たる少年少女
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聖夜はまだ終わらない

 車がマンションの前で停まってから、有村は草間を抱き上げエントランスを抜けた。その間も、エレベーターが七階へ着き、角部屋のドアの前に辿り着くまでも、夢中でキスを貪る。

 鍵を開けてドアを開け、中へと入る、その数秒間でさえも我慢が出来ない。

 玄関で靴を脱ぎながら、壁際へ寄せる草間へキスをする。吐息は熱く、絡める舌は更に熱い。草間の瞳も熱に浮かされ、潤んでいる。甘い声が名前を呼び、再びに抱き上げると、舌ったらずに「くつ」と呟く。

「いい。待てないと言ったろ」

 ツリーの前でその唇へ噛み付いてから、身体が内側から燃えるようだ。

 思考は回らず、たったひとつだけを訴えている。欲しい。欲しくて堪らない。頭がおかしくなる。焼き切れてしまうくらいに、ただひたすら、無性に、仁恵が欲しい。

 ベッドへ横たえ、片方だけ残っていた靴を脱がせて床へ落とした。その足を、身体を跨いで膝を着き、有村は脱ぎ去るコートもジャケットも床ヘ捨て、シャツのボタンを外しながら身体を倒し、唇を重ねながら、その一枚も脱ぎ捨てた。

「仁恵……仁恵……」

 声になるのはそれだけで、取り去ったマフラーも、露わになる首筋にキスをしながら脱がせたコートも、同じように下へ落とす。

 もう、何も考えられない。欲しい。欲しい。それしかない。

 太腿から滑らせる手でスカートを持ち上げ、逆の手を背中へ回した。後ろに、ファスナーがない。身体を起こし、手を引いて草間を起こした。ワンピースをたくし上げようとしたところで、草間が小さく「あっ」を漏らした。

「…………っ」

 俯き加減の頬が真っ赤だ。耳も、首も、何もかも。

「…………」

 草間はきつく口を閉じていて、忙しなく左右へ動く瞳が、目が、泣き出しそうな形をしていた。

「……ごめん」

 ふと、目が覚めたような感覚で有村は息を吐き、ベッドの上、向かい合わせに座る草間を抱きしめる。

 感じる鼓動は全速力だ。それに、草間は微かに震えていた。

「ごめん。ちょっと……だいぶ飛んでた」

「いい、よ……そう、言ったし」

「よくないよ。ごめん。ちょっと落ち着く。怖かった?」

「……ちょっとだけ。でも、有村く、洸太じゃなくて……あの……」

「ゆっくりしよう。服、脱がせていい?」

「……うん」

 ハグを解いて向かい合わせになると、有村は草間と視線を合わせ、笑みを浮かべる。

 腹を括ったら、開き直ってしまったのかも。性急に進めてしまい、悪かったと思うけれど、やっぱり、やめる気はない。

「このワンピースも可愛いね。今日は、まだ言ってなかった」

「うん」

「そのヘアスタイルも素敵だ。よく似合ってる。でも、これから崩してしまうから、また今度、して見せてね」

「うん」

「解いても?」

「私、やる?」

「なんで。させてよ。このゴムを取ればいいのかな。痛くない?」

「うん。器用だね。見てないのに」

「キスしながらでも出来るよ。仁恵、舌、出して」

「うん……」

 小さく開く口から出て来るほんの少しの舌先に舌で触れ、物足りない分は口の中から連れ出した。互いに開く唇の外で絡ませ合いながら、解いた髪を後ろで揺らす。

「ほら、出来た」

「……えっち」

「髪を解くのが?」

「……いまの、ベロで」

「そんなんで大丈夫? これから、もっとえっちなことするけど」

「……どんな?」

「そうだなぁ」

 まだ、身体は奥から、芯から熱い。気を抜けばすぐ頭のネジが外れてしまいそうになる。

 でも、こうして話しながら、時々は笑いながらの方が自分たちらしい気がした。それらしいムードより、リラックス。じゃれ合いの、遊びの延長みたいにふざけながら、中々ままならない方がしっくり来るなんて、最高に楽しいではないか。

 深いキスを何度か交わして、草間が溶けたタイミングでワンピースを持ち上げる。草間の頭はスポッと抜けて、両袖も片方ずつ、キスをしながら抜かせてゆく。

 草間は緊張してしまうから、このまま全部脱がせてしまおうかな。ふと、そんな風にも考えるけれど、そういえば見たことがない下着姿にはそそられる。

 再び横たえ、支えた頭を枕へ乗せ、有村は両腕を着いて上から見つめた。

「やっぱり、こっちも可愛い」

「……え……え? えっ、服……あ、服ぅ」

「ホント、ノッて来ちゃうとわかんなくなっちゃうね。すっごく可愛い」

「……なれてる」

「あんまり煽るとまた飛ぶよ?」

「どこで?」

「まぁまぁ」

 照れ屋な草間は真っ赤な顔をして、あまり見るなと言って来る。無理な話だ。じっくり見るし、楽しむとも。

 そうやって頭の中で茶化していないと、本当に、また飛びそう。そんな有村を、草間は知らない。

「コメントあるなし、どっちがいい?」

 鎖骨に、胸元にキスをして尋ねる有村に、草間は吐息混じり、「どっちの?」などと寄せた腕に隠されてしまった口で言う。

 うわぁ、どうしよう、すっごい可愛い。

 頭の中は既にバカでも、表面上は手慣れていて焦っていない有村くんを有村は必死で演じる。

「可愛いの好きだし、可愛い系かと思ってた。ので、セクシーな意外性にときめきが止まらない」

 前にベージュがどうのと焦っていた時、普段はもっと可愛いのを、と言っていた気がするのだけれど、草間の白い肌によく映えるピンク色の下着は淡い色こそ可愛いものの、ふんだんにあしらわている上品なレースの所為か、印象がどうにも色っぽい。

 この豊かなサイズの所為もあるのかも。因みに、口付けた胸の、正にマシュマロという柔らかさには驚愕している。顔を伏せているのをいいことに、目を見開いてしまうくらいには。

 どうしよう。今までにない柔らかさ。いや、これまでが無心の作業だっただけで、他にもいたかもしれないけれど、しかし気持ち良い感触と肌触りだな、どうしよう。

 きっと草間は気付かないのに、気付かれないように、有村は少し腰を持ち上げた。

「い、いつもは、うん……可愛いのが多いけど、そっちのが、よかった?」

「どうだろう。そっちは知らないしなぁ。キレイなの見せてもらったら、外していい?」

「……うん」

 鎮まれ。落ち着け。暴走するな。仁恵ははじめて。ゆっくりだ。ゆっくり。

 これまでで一番つらい苦行を強いられている有村のことも草間は知らず、口元を隠そうとして脇が閉まっただけだろうが、その肘で寄せられてしまうものへの配慮は、今日もない。

 待って。今の、避けてなかったら顔、埋まったけど。なんなの。いいのかな、避けなくて。いや、よくないな。待って。どうしよう。色々、無理かもしれない。

 指先はホックに触れているけれど、これを外すには少し呼吸くらいは整えないと、本当にマズい。動きを止めた有村の事情もやはり草間は気付かず、可愛い声がトドメを刺した。

「ほ、褒めてくれて、うれしい……会えたら、こういうこと、あるかもと思って……今日のは、とくべつ……」

――パチン。元々そう固くなかったスイッチが入った音がした。

 そう。こうなるかもと思って、そういう下着を選んで来たの。そういうことをしちゃうんだ。へぇ――抱かれる覚悟は出来てたわけね。

 ホックを外し、身体を起こした有村は無表情。

「可愛いことを言ってくれるね。嬉しいよ。ただ、煽るなって言ったよね」

「……だって、色々聞かれると、はずかしいから……」

「……そう。そうしたくて、煽ったの」

 途切れた思考。焼き切れた頭の中。

 夜の海のような深い色を瞳に宿した有村は再びに身体を倒して行きながら口を開け、欲しくて、欲しくて仕方がない白い肌へ、愛しい人へと沈んでいった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、もうどうしたら良いんですか!(どうもしなくていい) 落ち着かなくては!動揺が止まりません! 今回もどきどきをありがとうございました!
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