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彼と彼女のソロプレイ  作者: 秋野終
第九章 主人公たる少年少女
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あいたいよ

 ベンチに腰掛けてツリーを見つめ、一時間、二時間、三時間と過ぎて行く中、紅茶は二杯目。既に、足へ下ろした草間の手の中で冷めかけている。

 後ろを通る人が増え、草間は携帯電話で時間を見た。七時過ぎ。四階フロアには飲食店が並んでいるので、大体、その頃かなと思っていた。

「……おなか、空かないな」

 撮影の前と合間に、久保がメールをくれた。写真付きで、今日の衣装は久保にとても似合っている。落合からもメールが来た。愛犬モカにサンタの帽子を被せてみたが、ちっとも嬉しくないモカは真顔。送ってくれた写真で、草間は少し笑った。

 忙しい店の手伝いの合間を縫い、鈴木と山本もそれぞれ、メールをくれた。忙しくて死にそうだけど、そっちはどう。そんなメールだ。夕方になって雨が降り出したのもメールで知った。外はとても冷えていて、鈴木が言うに、マジで雪になりそう、らしい。

 ひとりで座っているけれど、ひとりぼっちじゃないのは心強い。度々メールが届いては、その都度、優しさに触れる。

『ツリーの写真撮って送って!』『昼メシ食ったかー?』『その紅茶、どこの?』『ここの紅茶も美味しいらしいよ』『寒くない?』『晩メシ食ったかー?』『雨、みぞれっぽくなってきたんだけど!』『撮影終了。寒過ぎ』『外見える? 見てみ。マジで降った』『ヤバいよ、仁恵。マジで雪!』『肉まん、うまい』『絵里奈合流。寒くてめっちゃ機嫌悪いヘルプ』

 十時を過ぎて、藤堂からもメールが来た。

『すぐ行くから、つらくなったら言えよ』

 泣いてしまいそうになるから、返事は途中までしか返せなかった。

 増えた人も減って行き、屋内にいても足元はシンと冷えている。摺り寄せてみるけれど、寒いものは寒い。

 来てくれる、ここで会えると、本気で思っているわけじゃない。ただ、来てくれる、ここで会えると、本気で信じているだけ。

「……寒い。早く来てよ、有村くん……」

 下がってしまう顔を上げ、草間は横へフルフル振った。

 泣かない。自分で決めて来たのだから。絶対に泣かない。たとえ、このまま十一時を過ぎてしまっても。

「……少し、歩こうかな」

 ジッとしているから寒いのだ。ただ座っているから、寂しくなる。

 草間はベンチから離れ、空になったカップを捨てて、当てもなくフロアを歩いた。

 シャンシャン。シャララ。昼間はデートへ向かう幸せな人に見えただろうけれど、夜に着飾ってひとりで歩く女の子は、フラれてしまった可哀想な子みたいだ。紙袋を提げて、プレゼントすら受け取ってもらえなかった子みたい。

 そう見えないように、草間は元気よく歩いた。空腹でもないのに、美味しそうだなと思いながら店先の食品サンプルを覗いたりして。

 大きな歩幅で、颯爽と歩いた。元気に歩いた。けれど、笑顔は作れなかった。

「……さみしい」

 口に出したら膝が折れてしまいそうになり、蹲ったら立てない気がしたから、近くの手摺りに掴まった。

 目の前には煌びやかなイルミネーション。青、赤、紫、黄色、緑。こんなにも色とりどりに輝くのに、カラフルな世界にいる色の魔法使いがそばにいない。

「……有村くん……」

 一番そばにいてほしい彼だけが、いない。

 みるみる力が抜けていく。膝が曲がり、立っていられなくなる。掴む手摺りは頭の位置を越え、腕が徐々に伸びていく。

「有村くん」

 たくさん我慢したのに、堪えたのに、涙が零れてしまったらもう、人目など気にしていられない。

「有村くん!」

 どうしても会いたくて、精一杯の大きな声で呼んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一人じゃないけど、一人で頑張ったんですもんね。 涙くらい流したら良いんですよ! 大きな声くらい出したらいいんですよ! 負けるな草間さん! と、うるさくてすみません。いつもどきどきさせていた…
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