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なかむらけ外伝  作者: 椿姫
香織の孤独宗論
17/19

第五幕 闇、叛逆、終末感

遡ること数時間前。香織は自身の心の中にいた。


『産まれた時から共にある俺を剥がすということは、文字通り半身を裂かれるのと同義』『そもそも、俺を剥がす方法なぞ存在しない。身体ごと殺す以外にはな』


モードレッドが語りかける。私が語りかける。


私は生まれた時から心に居座る彼を感じていた。


彼は最初、私の守護霊だと宣った。


思えば、その時に楓に相談していれば、こんなことにはならなかったかもしれない。


今更そんなことを考えてもどうにもならないのはわかっている。でもどうしても考えてしまう。


あの時ああしていれば、こうしていれば。


それはただの後悔だと、理解している。


過去は変えられない。そんなことはわかっている。


それでも、考えずにはいられない。


それが私の弱さだと。理解している。


楓も徳光も、過去を後悔することはない。


どうしても比べてしまう。


なぜ、私は彼らのようにはなれないのだろうと。


『あいつらは純粋にバカなんだよ。それに、どんな結末も受け入れ、切り替える冷酷さがある。』


モードレッドは、私に対してのみ、友達のように接してくる。それが、私を懐柔しようとしての行動だとわかってはいる。


でも、家族すら知らない私の闇を、彼だけは知っている。


『…ん、楓から連絡だ。あいつら、ついに覚悟が出来たみたいだな。』


今私の身体の主導権を握っているのはモードレッドなので、おそらくメールでもきたのだろう。


覚悟。


覚悟か。


私は、覚悟して何かに臨むことはなかったな、と。


今更、そんなことを考えてしまう。


それはそうだ。


私の周りには。


私を守ってくれる人達が


私を閉じ込める人達が。


いつだって側にいたのだから。










「遅刻だぞ。モードレッド」


「それは失礼。正確な場所までは書かれていませんでしたので。」


時は戻り、モードレッドは三人の前に現れた。


「三人…それも、主力なしで私とやり合おうとは。舐められたものですね?」


「言ってろ。俺たちだけで充分なんだよ。」


「ふむ。その様子だと、私の能力を理解したようですね。」


『まぁそういうことだ。だから、最適な人選のつもりだが、何か不満はあるか?』


楓はモードレッドの持つ携帯からそう言う。どこにいるかはわからないあたり、あの長男は何か企んでいる。


否。企んでないとおかしい。


目の前の三人は、既に一度私の力を見ている。


なら、恐怖はどこかに必ず残っている。


「優しさで教えてあげますが、私を彼女から引き離すことは不可能です。」


俺の言葉に、三人は動揺した様子はない。おそらく、楓が逆転の秘策を思いついたのだろう。


「やってみなきゃわからないじゃん?」


そう言って皓子が鎌を展開する。あれは楓作の連結式戦闘用鎌『ヴァルキリー』か。


「鎌とは、また使いづらい武器を選んだものですね。剣とか銃とかあったでしょうに。」


「ほっとけ。わたしにはこれが一番しっくりきたんだよ。」


何か特別な効果を付与した…と言う線は薄いか。そんなものを付与すれば、対価で彼女の身体では戦闘などとても無理だろう。


「まぁ、どこにいるかわからない楓も、あなた達を殺せば出てくるでしょう。レディーファーストです。仕掛けるのはあなた達からでいいですよ。」


「俺は男だが…それにお前も女じゃねーか」


徳光のツッコミは無視するとして、俺は相手の分析に移る。


…やはり、一番厄介なのは彩香だろう。あの怪力では死なないまでも骨を砕かれる。真っ先に潰す。


皓子は…唯一武器を手にしてはいるが、所詮ただの人間。脅威にはなり得ない。


徳光は…つい先日試練を突破してはいるが、能力の使用は制限が付いているはず。それに、事象剪定は大きな弱点がある。


「のんびり考え事してると、首狩るよ?」


皓子の声とともに、皓子が目の前に現れる。これは想定内。


次いで繰り出される鎌の一閃を避けず、真意を確かめる。


「…チッ」


予想通り。皓子は鎌を寸前で止め、距離をとった。


「なるほど、私を殺しにきた、と言うわけではないようですね」


「当たり前だろ。わたし達は香織を助けるためにきてるんだよ。」


「約束通り一撃目は譲りましたので、ここからは虐殺させていただきます。」


今度はこちらから、皓子の背後に移動する。そのまま貫手を心臓めがけて…


「…くっ!」


背に鎌の刃を差し込んで受け止められる。だが甘い。


「これは人と人の試合ではなく、禁じ手なしの殺し合いですよ?」


貫手をそのまま押し込み、鎌ごと弾き飛ばす。人間の膂力では防御など不可能。それは理解していると思っていたが、理解していない様子。これは…


「なるほど、考えましたね楓、」


『あ、バレた。そりゃバレるか』


楓は、特別な指示をしていない。つまり、この戦いには意味を込めていない。


「あなた、この三人を捨て駒にしたのですね?」


『んなわけねーだろ。大事な妹達だぞ。それに、まだ終わってない。』


「私が言うのも変ですが、あなたが出ればもう少しマシだったのでは?」


『いいや。こいつらの方がうまくやる。』


楓はこの言葉を最後に電話を切る。







「さて、上手くやれ。今のところ、皓子しか突破口を開けないからな。」







「父さん。射角左に5度調整。3秒後に射撃。」


「静也くんは右に7度。8秒後ね」


「「了解」」


ところ変わってビルの屋上。悠生と静也はそこから長距離の狙撃で三人を援護していた。


「父さん。これは多分。楓も気づいてないと思うんだけどさ。」


「なんだ。」


「香織とモードレッドは、最初から一つの存在だったんだよ。正確には、香織の中の闇が、名前を与えられてると思うんだ。はっきりとはわからないんだけど…





あれは。香織の別側面な気がする。」












どれくらい戦っている?


まだ多分5分も経ってない。


後ろの二人はとうに倒れ伏し、私も鎌を杖にしてやっと立てている状態だ。


鎌を持つ手は震え、身体はとうに限界を超えている。


視界が霞み、吐きそうになる。


それでも、堪えなければ。


ここで膝をついたら、二度と立ち上がれない。


どうして私だけ。


そんな声が聞こえた。


「…香織?」


その幻聴は、香織の声だった。


私だけが。守られている。


皓子の方が弱いのに。


どうして皓子は肩を並べて戦えるのに、私は守られてるの?


どうして、どうして、どうして…


「香織!」


叫ぶ。


届くか届かないかじゃない。届かせる。


「香織は弱くなんかない!」


私にしか理解できないこの痛みを。焦りを。


ありったけ声に乗せて叫ぶ。


喉が裂けても構わない。


届け、届け、届け!!!!!




「今更擁護しても、もう遅いんだよ。」


その声は、香織の声で。


でも、香織モードレッドは。


涙を流していた。






「お前達は、俺たちがどんな気持ちで敵対しているのか知らない。」


「お前達は、香織の痛みを知らない。」


「お前達の優しさが、香織にとってどれだけ辛かったか知らない。」




「だから。俺が分からせる。」


「俺たちの望みは。香織の望みはただ一つ。」




お前達と、肩を並べることだ。







「なに…それ。そんな…そんなことをずっと、考えていたの?」


香織モードレッドは頷く。


「香織…貴女は…」


「皓子。退がれ。」


いつのまにか、楓が隣にいる。


「事情が変わった。あそこまで融合してちゃ、切り離すのは不可能だ。いや、最初から一つだったのか?なぁ…香織よ」


香織、と呼ばれたモードレッドは、微笑を浮かべる。


「やっと気付いたんだ。楓にも分からないことってあるんだね。」


「当たり前だろ。人の気持ちは言わなきゃ伝わらない。推測こそできるが、合ってる保証はないからな。それで、お前の望みはわかった。俺の行動がすべての元凶だってのもわかった。それで、どうする?」


「もちろん。みんなを倒すよ。」


「なっ…」


「黙ってろ皓子。後は任せて休んでろ、限界だろう」


楓は私の言葉を当然のように受け止める。


「そうなると、俺は本気でお前を殺しに行かなきゃならないわけだが、勝つ自信でもあるのか?」


「あるよ。現に一度勝ってるじゃん。」


「あれは片付けないように加減してただけだ。それに、お前がモードレッドの因子を持っているなら。俺には勝てない。」


感じる。楓の中にある因子の一つ。あれは…


「アーサー王。モードレッドの父親であり、叛逆の相手であり。モードレッドを殺した存在だ。」


「俺たちはお前に殺されない。ふん縛ってでも家に連れて帰るぞ。」


「やれるものならやってみなよ。お兄ちゃん」


「…お前、俺がそう呼ばれるの嫌いなの知ってて煽ってるな?」


「当然。もう勝負は始まってるんだよ。」


私はモードレッドの持つ邪剣、カララントを楓に突き刺す。


「…なんで」


楓は、その一撃を避けることも、防ぐこともなく。



その裏切りの剣は、胸へと深く突き刺さる。


「なんで?変なことを聞くなよ。妹の癇癪に付き合うのは兄貴の義務だろ。」


そういう楓の胸からは、どくどくと血が流れる。本当に、細胞操作すらしていない。


「そんな変な義務で…死んでもいいの?」


私の問いに、ゆっくりと頷く楓。


「すまなかった。お前の気持ちを汲んでやれなくて。」


そんなことを、楓は言う。


「お前と静也が生まれた時、俺は兄として、お前達を守ると誓った。それが裏目にでるなんてな…」


「そんな…こと」


「香織。よく聞け。俺はもうすぐ死ぬ。でも、お前のせいじゃない。これは俺が招いた結果だ。」


楓は、この後に及んで私から罪の意識を取り上げようとする。


「やめてよ…楓を殺したのは、私だよ。」


「…まぁ、そういうと思ったよ。だから、お前に罪の意識は持たせない。」


見ると、楓の胸の血は凝固し、栓のようになっている。


「事象に対して結末を選択する…こう言う使い方もできるんだな。」


振り返ると、徳光が立っていた。しかし、その目に光はなく、無意識に楓の結末を選択したのがうかがえる。


「香織、戻ってこい。俺たちはもう、お前を弱いだなんて思ったりしないし、お前の闇も受け止める。」


「でも…それじゃ試練は…」


「試練ならクリアしたさ。香織の試練は『信頼』。俺たちを信じて、全てを打ち明けた。その時、試練は達成されたのさ。その証拠に今、お前の中にモードレッドはいない。完全に融合し、香織と共にあるからな。」


言われて気がついた。心の中にいつもいた、彼がいない。


「最初は俺も気づかなかったよ。試練は香織に対してではなく、俺たち全員に対してのものだなんて。」



楓は笑う。


でも、ただ一人、私だけは。


「ごめんね、楓…」


涙が頬を伝う。


「カララントが邪剣といわれる理由、それは…」


この剣で傷付けたものは、決して治癒することはない。


それが、邪剣カララント。叛逆を目論み、憎悪と悲哀に囚われたモードレッドの持つ能力。


楓はゆっくりと倒れる。


胸の傷は、再び血を吐き出す。


最強のはずの兄を、自分の手で死に追いやる感覚。


その感覚を最後に、私の意識は閉ざされた。




「楓が…死んだ?」


スコープ越しに状況を見ていた悠生が驚愕する。


今までどんな傷も治していた細胞が、全く機能していない事を意味するそれは、本当に。


楓という存在の死を意味していた。

兄の死、意識の喪失。


残された家族の前に、新たな試練が降りかかる。


その前に、次回は今までのおさらい。

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