第一幕 病、騎士、不信感
徳光の件から一週間ほどして、なかむらけは家族一丸となって試練の対策を練っていた。
「俺、徳光の件でわかったことは、戦って解決はできないってことだ。それぞれが心に秘めた何か、それをどうしようもなく突きつけてくるからな。」
楓の言葉に皆がうなずく。
「俺の場合は心。徳光は友情、といった具合に、自身のみにしか解決できない何かであること。そして、それに関して俺たち家族は干渉できないこと。」
楓は続ける。試練を一番に受け、何も情報がない状態で達成したものとして。
「最後に、身近にいる友のみが、試練に干渉できるということ。今のところわかっているのはこれくらいか。」
「一つ、気になったんだけどさ」
楓の話が終わったのを確認し。晧子が手を挙げる。
「試練の主。騎士だっけ?あれは何か関係あるの?」
憐命の女神・ローエングリン。それと、宿怨の騎士・アーヴェイン。
「関係があるかはわからんが、どちらもケルト神話のアーサー物語の登場人物。円卓の騎士の名だ。物語の中ではあんな特異な力を使うわけではないんだが・・・当の本人はそのへん教えてはくれないんでな。」
楓の返答に、少し離れたところで優雅に紅茶を飲んでいるロリンは
「私の試練は終わっているから私のことは話せる。でも私は本来ここには存在していないはずだから、それがどんな影響を及ぼすかはわからないんだ。だから、私は何も話さない。デス」
「とってつけたようにカタコト付け足すんじゃない。・・・まぁ、現状ロリンのいうことは正しいから、どうしようもないがな」
「・・・と、かたっ苦しい話はここまでにして、とりあえずご飯を食べよう。」
時刻は午後7時、夕飯時の会話である。
それから三日後。
「だから!!私は関係ないじゃない!!」
「んなこと言ってもどうにもならんだろうが!!」
珍しく、楓と晧子がけんかをしていた。
「第一、私は従姉妹なんだし、楓達みたいな化け物じみた力も持ってない!!なのになんで巻きこまれなきゃいけないのよ!!」
「だからそれを俺に言ってどうなるんだよ!!」
「何とかしなさいよ!!」
「無理に決まってんだろうが!!いい加減にしろ!!」
喧嘩の発端は些細な一言だった。
『巻きこまれた』。晧子が口にしたその言葉。
普段なら何気なくスルーされるはずの言葉に、怒りをあらわにしたのは楓だった。
そして、そんな状況を異常と見れたのは、香織のみだった。
「やめてよ・・・」
香織の声は届かず、二人の怒号にかき消される。
嫌だ。
見たくない。
こんな争い。
兄と、大好きな義姉の喧嘩なんて見たくない。
争いの発端は何??
義姉の言葉。
なら・・・
義姉を黙らせれば、この争いは終わる・・・
「・・・!!晧子!!」
晧子の喉を貫かんとした貫手は、寸前で気づいた楓の左胸を貫き、その手を赤く染める。
「・・・楓!!」
晧子の声に、我に返る。
自分は今何をした??
私はただ、争いを止めたかっただけ。
「・・・香織・・・さすがにそれはやりすぎだ・・・」
今なお心臓を貫かれながら、それでも香織を咎める楓。
どうして私が怒られるの??
私が、楓を貫いたから。
どうして。なんで。どうして・・・
「・・・!!ロリン!!」
「私を頼ってくれるのはうれしいけどね、あまり頼らないでほしいな。どんな影響があるかわからないんだか・・・」
もう片方の手で、うるさい銀髪を薙ぐ。あまりにも簡単に、それは両断され、血をまき散らしながら崩れ落ちる。
「人間の体は、こんなに簡単に壊れてしまう。」
香織の口が勝手に動き、誰に話しかけるでもなく独り言をつぶやく。
「香織・・・?」
晧子は見ていた。楓を貫く瞬間、ロリンを両断した瞬間。
香織が、笑っていたのを。
突如楓とロリンを襲った香織。
逃げるように外へ出た香織の前に現れる第三の騎士。
とめどない後悔の念が、香織に襲い掛かる。
狂気、それは誰しもが持つ物。




