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マッチ売りの少女の悲願

作者: 森中 隼人

冬の寒い時期に、お世辞にも綺麗とは言えないボロボロの洋服を着ている一人の女の子が街の広場に立っていた。時刻は午後八時過ぎ。彼女は村人の哀れみと好奇心が入り混じった視線にさらされていた。彼女は傍からみたらマッチを売っているように見えた。


しかし彼女はマッチを売るためにそこにいたわけではなかった。彼女は探していたのだ。ある男の顔を。ある男とは街の有力者であり、その男のせいで彼女の一家は街から追放されたのだ。そう、彼女が今ここにいる理由は一つ。復讐するためである。彼女は両親に心配をかけたくなかったため、黙ってここに来ていた。家を出る時、彼女の母親が話しかけてきた時、彼女は涙がでそうであった。もう二度と家族に会えないと分かっていたからだ。彼女はその男を殺す気でいた。だが、神様は残酷にも、彼女のその悲願すら叶えてあげなかった。


彼女は長時間、吹雪にさらされたことにより体調を崩しその場に倒れこんでしまった。いや倒れるというよりも、崩れ落ちるという表現の方が相応しかったかもしれない。女の子が倒れているのにも拘わらず、街の人達は誰も彼女に声をかけようとしない。彼らの世界には彼女が存在していなかったのである。ただその時、唯一彼女に声をかけてきた男がいた。彼女が復讐したかったあの男である。彼女はその男の顔を識別できたのかどうか分からないが、最後の力を振り絞って、マッチを一本、その男に手渡した。男はちょうどタバコを吸いたかったので家に持ち帰ることにした。


男は家に帰ると、彼の奥さんと子供が幸せそうに迎え入れてくれた。男は夕食を済ませる前に、寝室でタバコを一本吸うことにした。そう彼女がくれたマッチを使って。男は一服済ませると、灰皿にタバコを捨て家族が待つ、リビングへと向かっていった。しかし、タバコの火は完全には消えていなかったのである。小さかった炎が灰皿から床へと落っこち・・・。


数十分後、街では消防車のサイレンがけたたましく鳴りひびいていた。燃えていたのは街の有力者の家。消火活動は苦戦しているようだった。誰もが火事に気をとられていたので、街の広場にできた小さな雪の塊に目を向ける者はいなかった。


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