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07



 やや遅めの朝方と言ったころ。即席パーティを結成し遠隔地を選んで行った、日を跨いでの狩りから帰ってきた僕とキティさんは、目の前の光景にあんぐりと口を開けていた。マヌケな顔をしている僕等をめったにない満面の笑みで迎えた金井くんは、飛び跳ねるようにしてことの次第を教えてくれた。



「アキバの街を合議制で自治しようっていう〈円卓会議〉が発足したんですよ!〈ハーメルン〉も解散して、新しい料理方法も公開されて──本当に〈腹ぐろ眼鏡〉さん、……いいえ、〈記録の地平線〉ログ・ホライズンと〈三日月同盟〉がやってくれたんです!」



 屋台から漂う料理の匂い、口々に料理の感想を話し合い口を綻ばせる〈冒険者〉たち。〈マジックライト〉の明かりに照らされたアキバの街並みは先日の決意も虚しく、僕等が留守にしている間にすっかり変貌を遂げていたのだった。






「なぁーにが『驚かせようと思って』だい!こっちは本当に肩透かしを食ったんだからねぇ!ちょっと聞いてんの……ちっ、切られたか」


「どうだった?多分同じ答えだろうけれど」


「ああ、その通りさ。あいつらめ、わざとアタシらに黙っていやがった。こっちは意気込んでたってのに」


「……でも、よかったじゃないか。若い子が率先してやってくれたのだから」



 僕がそう宥めると、キティさんはむくれながら焼き芋にかぶりつく。アキバの街には食欲を押さえつけられていた反動のように食べ物が溢れ、多くの人々がその喜びに湧いていた。立ち並ぶ露天こそ簡素なものだったが、どれも懐かしい味にあふれていて。緑に覆われた街並みは、祭りのような活気に包まれていた。


 キティさんにならい、僕も手に持った汁物を啜る。簡単なスープに見えるが、この世界に固形コンソメというものは存在しない。どうやら夜を徹して煮込んだらしいブイヨンの味が、口いっぱいに広がる。柔らかく煮込まれたキャベツやニンジンは甘く、ソーセージは肉汁を含んで味わい深い。体に染み渡る暖かさに目を細めながら、ぽつりぽつりと言葉を落としていく。



「僕はね、嬉しかった。こんな風に腐っていく街を、責任を持って変えていこうとする若者がたくさんいたことがね。別に年は関係ない、とも思うだろうが、それでも良い事だと僕は感じたよ」


「そりゃあ、アタシだってそうだよ。でもなんか悔しいじゃないか、知恵で年下に負けるなんてさぁ」


「最近の若者は賢いのさ、頭が柔らかいからね」



 僕達が座っているのは駅前の広場に繋がる一本の通りである。道幅の広さから密集するというほどの密度はないが、多くの〈冒険者〉が食べ歩きを楽しんでいる姿が見て取れた。

 商売っ気の強い〈冒険者〉は口々に商品を売り込んでいるし、仲間の分もまとめて買い、食べたいのを我慢して運んでいる〈冒険者〉もいる。中にはカップルなのか、一つの食べ物を分けて仲良く食事をしている男女カップルまでいたが、「リア充爆発しろ」と怨念を向けられているのは、プレイヤーの層を考えると致し方ないだろう。


 その誰もが、暗い顔をしていない。低レベルの〈冒険者〉が怯えることなく街を歩いている。〈大地人〉も〈冒険者〉に混ざって食事を買い求め、大したトラブルの起きずに新しい味に触れていた。この光景こそ、僕が望んでいたものだ。いくら致し方ないとはいえ、街が退廃的な雰囲気に包まれるのは御免だったし、食事はみんなで美味しく食べたかった。


 自由を標榜する〈冒険者〉の街、アキバ。この街と〈円卓会議〉の成立は、本当の意味での異世界の始まりだ。〈冒険者〉はもうお客様ではない、この世界で生活の地盤を築いた立派な住人となったのだ。

 ここから僕達の、本当の意味での物語が始まる。観客は舞台へと導かれ、アドリブだろうと大根役者だろうと、つつがなく舞台をこなさねばならない。──だが、それはさほど難しいことではないはずだ。かつてリアルだった世界では、我々とて一度きりの舞台を演じる物語の主役だったのだから。


 ふと、見覚えのある後ろ姿を見つけた。背の低い少年と、それに寄り添う少女。あまり見目を意識して見てはいなかったが、灰色の髪が地味に見えずなかなか可愛らしい姉弟だ。大人に合わせた台の上を覗こうと、少年が背伸びしているのが微笑ましい。僕は立ち上がって二人に近づくと、背後からそっと声をかけた。



「やぁ、二人とも。新しい食事の味は気に入ったかい?」


「ひゃあ!?……あ、あの時の〈冒険者〉さん!」


「オジサン!これすっげーな!甘酸っぱくて冷たくて、飲み物なのにオレンジの味がする!」


 僕の声に驚いたシシィちゃんとは対照的に、早速オレンジジュースを口にしたクラウスくんは歓声を上げた。弟を制止しようとするシシィちゃんにぐいぐいとクラウスくんがジュースを勧めると、やはり気になりはしていたのか、おずおずと口をつけた。途端に華やぐ表情を見ると、やはり女の子は甘いもの好きだよなぁ、と妙な感慨が生まれ、にこにこと見つめてしまった。


 しばらく夢中でジュースを飲んでいる二人を眺めていたのだが、僕の挨拶を流してしまったことに気づいたシシィちゃんが、慌てて頭を下げた。



「ご、ごめんなさい!せっかく挨拶してくれたのに……」


「いや、このジュースが美味いのが悪いんだ!〈冒険者〉ってほんとはこんなすげー食べ物食べてたなんてすげーな、俺毎日ジュースでもいい!」


「毎日ジュースじゃあまんまるの豚さんみたいに太ってしまうよ、クラウスくん。シシィちゃんもそんなかしこまらなくとも、新しい食事が画期的なのは僕も分かっているから、遠慮せずに楽しんでね」



 あわあわとジュースと僕の間で目線を右往左往させるシシィちゃんや、無邪気にジュース楽しむクラウスくんを叱りつけるほど、僕は鬼ではない。くすりと笑みをこぼしながら、かがんで二人の頭を撫でる。照れくさい顔をしながら撫でられる姉弟に露店の店員が顔をほころばせているのが見えたのは、多分僕だけだろう。



「はいはい、そろってほわっほわした空気ばらまいてんじゃないよ。いい傾向ではあるけどね?」



 店周辺に妙に和やかな空気が流れ始めたところで、キティさんに肩を叩かれた。生温かい笑みを浮かべたその顔に、気恥ずかしさが遅れてやってくる。他人の店先で親戚のおじちゃんをやっていたことに気づいてそそくさと横にずれると、店員まで生温かい顔をしているのが見えた、こら君、さっきまでもう少し春の日差しのような笑みだったろう。

 少々恨みの篭もった目で店員の青年を睨むと、目の前に木製のカップが差し出される。鮮やかなオレンジのラインが入ったカップの中身は、二人と同じオレンジジュースだろう。笑みを人好きのする愛嬌あるものに変えると、流暢なセールストークを投げかけてくる。



「まぁまぁ、お兄さんもひとつどうだい?オレンジはアキバ近郊のものだけど、そこになんと紀州みかんも混ぜてある!〈海洋機構〉特製果汁100%オレンジジュース、お安くしとくよ」


「紀州みかん!?よくあったね、フォーランドがあれじゃあ温州みかんは絶望的だし、安くはないだろうに」


「そこが〈海洋機構〉の腕の見せ所よ。とはいえ、あるのは偶然仕入れられた分だけ。販売に個数制限が必要なのは事実だけどな」


「──へぇ、当然仕入れルートの確保は計画してるんだろうね?」


 ならおひとつ、と言おうとしたところで声がかかった。キティさんが顔を伸ばして店員を覗き込んでいたのだ。すると何に驚いたのか、彼は身を竦めると突然頭を下げた。呆けたまま成り行きを見守っていると、くっくっく、と邪気のある笑いをキティさんが漏らし始める。



「まさか姐さんだったなんて、失礼しましたっ!」


「いいさ、気づかないのも仕方ない。アンタはもう数年も前の顧客だからね……で、あまり客にペラペラと儲けのネタを話すと、よくないんじゃないかい?これからはギルド同士の情報共有も進むだろうけど、まだタネをばらすには早いんじゃないかねぇ」


「すんませんっ!どうかこのことは、内密に……」


「じゃ、ジュースまけな。アタシも鬼じゃない、マイナス金貨五枚で手を打つよ?」



 この世界の金貨五枚は、現実の五十円よりそこそこ重い。泣く泣く五枚分を値引きしてジュースを出してきた青年にひっそり同情しつつも、ありがたくカップを受け取った。口を付けてみると、オレンジの爽やかな酸味とみかんの甘味が口当たりのよい、飲みやすいジュースだと関心する。誰が開発したのかは定かではないが、これは絶妙な配合である。


 苦笑とともに二人のやりとりをしばらく眺めつつ、ぽつぽつ姉弟と話していたのだが、周囲に人の流れが出来ていることに気づいた。足早に歩いていく人々の言葉に耳を傾けると、「〈円卓会議〉の発表が」「集会に行かないと」という内容が聞こえてくる。じっと耳を澄ませていると、キティさんのいじりから逃れた店員が説明してくれた。



「ああ、中央広場で午後から〈円卓会議〉の集会があるんだよ。今後の方針とか、色々決意表明みたいなことを話すって次第さ。うちのギルマスももちろん参加するよ」


「おや、そんな催しがあるのかい?この雰囲気はむしろ、お祭り騒ぎに近い気もするけれど」


「はは、ある意味そうだねぇ!もうみんな張りきっちまって、今日は大盤振る舞いの無礼講だって話さ。俺も後から配膳役で行かなきゃなんないんだがよ」


「そうか、なら僕も向かってみるとするよ。……ああ、ジュースご馳走さま」



 まいどあり、とからり笑った店員にカップを返して背を伸ばすと、中央広場の方向へ向き直る。控えめに手を振って姉弟に別れを告げると、二人とも元気よく振り返してくれた。そのようにして中天をやや過ぎた太陽の下、広場へ向かっていくと、どんどん人の数が増えていく。広場へ着く頃には、アキバじゅうの〈冒険者〉が集まっているのではないかと錯覚するほどの人の山が出来上がっていた。入りきらない人間は近隣のビル内部にまで入り込み、じっと突貫で設営されたであろう壇を見つめている。


 僕とキティさんもその最後列に並び、ことの成り行きを見つめる。しばらくして出て来た11人のギルドマスターたちは概ね拍手をもって迎えられた。税の導入や〈円卓会議〉のメンバー選定基準など、多くの疑問点こそあったかもしれないが、それらは全て納得のいく説明がなされた。彼らの設立は必要だったと感じていた人間が多かったのも、受け入れられた理由のひとつなのだろう。やはり街は、暗いより明るい方がいい。



「この度アキバの治安を維持し、そして運営する〈円卓会議〉の議長を務めることになりました。〈D.D.D〉のギルドマスター、クラスティです」



 〈D.D.D〉のギルドマスター、クラスティくんが挨拶すると、辺りは拍手と歓声に包まれた。無理もない、大規模戦闘レイド攻略争いのトップを突き進む最大手ギルドの長ともなれば知名度も段違いだろう。その表情は集会の熱気の中でも涼しげで、〈狂戦士〉の二つ名にはあまり似合わないようにも思える。遠くに小さく見えるその顔を眺めながら、集会の内容を聞いていく。


 新体制の樹立や〈円卓会議〉からのクエスト発行、〈妖精の輪〉フェアリーリングの調査など。街を上げての多数の計画が告げられると、再び大きな歓声に包まれた。特にクエストの発行は、戦闘における目標を失っていた戦闘ギルドには朗報と言えるだろう。現代技術と精霊などの魔法技術を融合した新型機関は、生産ギルドには挑戦しがいのある壁だ。

 周囲から、いくつもの囁きや話し合いの声が聞こえる。新しい市場を開拓しようと皮算用するもの、遠くのダンジョンへ遠征するためのルートを相談するもの、元の世界で専門職に就いていた人間を探すもの。内容は様々だが、どれもわくわくした空気が混ざったものだ。なんだか嬉しくなってきてしまう。


 そのようにして成り行きを見守っていた僕は、不意にキティさんに腕を引かれた。何かと思って振り返れば、にやりとした笑みで続けようとした言葉を封じられてしまった。



「ぼさっとしてるんじゃないよ、こんな場所でじっとしてたら食いっぱぐれちまう!」


「いや、キティさん!?……おや」



 ずるずると引きずられていった先で、突然大量の食事を抱えたこれまた大量の職人が現れた。簡素なものは串焼きから、豪華なものは大きなパエリアやシチューのパイ包みなどが運ばれていく。祭りの屋台のように焼きそばやたこ焼きなどの粉ものまで混じり、さらにはかなりの数の酒まで運ばれる。

 僕が唖然とする横で、キティさんは相変わらずおかしそうに笑うだけ。会場がどよめいていると、三大生産ギルドの代表が高らかに声をあげる。



「本日を!めでたい祝祭日の最初の一日にする!」


「この料理を〈海洋機構〉、〈ロデリック商会〉、〈第8商店街〉からの祝儀にします!倉庫に貯めたありったけの美味いもの、全部ご提供させていただきますよっ!」


「もちろん味は保証しますよ。我ら生産ギルドが技を凝らした料理の数々、どうぞお楽しみください」



 途端、弾けたように喝采が起きた。後はもう飲めや歌えの大騒ぎ、ともにアキバの未来を語り合いながら、夜は更けていったのだった。








「うぃ、っく。ちっと飲みすぎちまったかねぇ……」


「おばさん酒臭っ!?って、いでっ、いででででで!アタマ掴むなって!!」


「アッハハハハハハハ!なんだいアンタは飲まないのかいぃ?」


「赤間くんは未成年だからね、お酒はダメだよ!?」



 帰宅後、先に帰っていた赤間くんを悲劇が襲った。ふらふらと足取りのおぼつかないキティさんを羽交い締めにし、ソファへと運ぶ。暴力行為を働かれた赤間くんはしばらく唸っていたが、落ち着くと椅子に座った僕に水を出してくれた。冷たい水を喉に流し込みつつ、ほうっとため息をつく。疲弊というより、安堵から漏れたものだ。


 お祭り騒ぎは大好きだが、あそこまでの熱気に混ざっていると頭が茹で上がってしまいそうになる。それでもめいいっぱいに楽しんだのは、久しぶりの宴会だったからだろう。リアルでも飲み会は嫌いではなかったし、全体で一つの空気を共有するのは宴の席でこその楽しみだろう。そういえば若いころはなかなか馴染めなかったなぁ、としみじみと思い出してしまう。

 さっきの集会も街路で酔っ払って寝てしまう〈冒険者〉がいたなぁ、とか。こっそり酒を飲んで怒られるリアルは学生の〈冒険者〉がいたなぁ、とか。会場の隅でひっそり咲く恋の花までかつての故郷とそっくりで、少しだけホームシックになったような気がした。


 そうしてぼんやりする僕の目の前に、涼しげなグラスに盛られたシャーベットが置かれる。黄色い色のそれはレモン味だろう。グラスの反対側には、レモンのように光る蜜の髪を持った少年が座っていた。



「会場で貰ってきました。さっぱりしますよ、これ」


「気遣いの男だね、金井くんは。そういうことができる子はモテるよ?」


「そういうからかいはケティさんで間に合ってますよ」



 そう言いながらも照れたように笑う金井くんは、本当に素直だ。誰一人として希望通りに呼ばなかったキティさんの希望を叶えてやっているあたり、根が善良な子だとも思う。そもそもあの三人自体見ず知らずの自分を信じていてくれるわけで、どうにも僕には眩しく見える。

 そう思いつつありがたくシャーベットをいただけば、目の覚める香気が口の中に満ちる。砂糖が控えられたレモンシャーベットは少しほろ苦く、しかしながらすっきりとした酸味で舌を楽しませてくれた。


 しばしの間、無言でシャーベットを食べる。金井くんは多弁な方ではないため、そう気まずい沈黙ではない。どのくらいそうしていただろうか、不意に金井くんが口を開いた。



「アキバはもう安心です、自治組織だってできました。これで、やっと旅に出られますね」


「どうしてそれを」


「街のほぼ真ん中で、大声で何かしら話しましたでしょう?そんなことをしたら、記憶に残っているひとの一人や二人居ますよ」


 

 ──あれを見られていたのか、と思わず頭を抱える。本心であることは事実なのだが、あの時は爆発に近い状態で語ってしまったのでドン引きされてもおかしくないはずだ。幸いにして引いた様子こそないが、内心で若干の距離を置かれているんじゃないかと疑念を抱いてしまう。それに、それにだ。



「……僕らのことは気にしないでください、所属したいギルドは大体決まってるんです。今回の演説はいい決め手になりました」



 少しだけ苦笑の混じった笑みに、やはり気を遣わせてしまった、と眉が下がる。彼らの面倒を見る役割を背負っているというのは確かに旅を自粛した理由の一つだが、けしてそれだけが理由というわけではない。一月半は共に過ごした彼らとの別れが、少々惜しかったのもあるのだ。……だが、それを言ってもまた気を遣われるのが目に見えているのも事実だった。黙り込んでいる僕に、金井くんはさらに言葉を重ねる。



「それに、旅に出てもきちんと帰ってくるんでしょう?それなら土産話、楽しみにして待ってますから」


「それはもちろんだけれど、でも別に君たちは──」


「ナーサリーさんの代わりに家をピカピカにして、三人で待ってますよ。あ、ケティさんもでしたね」


「──え?」


 焦って続けようとした僕の声ににかぶせられた言葉に、一瞬だけ思考が止まる。その様子を見た金井くんは何に慌てたか、今度は先ほどの僕のように焦って続く言葉を紡ぐ。



「あ、いえ!ナーサリーさんが嫌というなら自分たちで住む場所を探しますから、」


「そうじゃなくて、ね?ギルドホールじゃなく、僕の家でいいのかい」


「えっ……ギルドって、そういう決まりあるんですか?」


 とぼけたように首を傾げる金井くんに、拍子抜けしてしまった。つい零してしまった乾いた笑いに、目の前の彼はさらに焦り出す。「そんな顔をするほど嫌でしたか」とか「悲しませるつもりじゃ」としどろもどろになるのが、またおかしくてたまらない。

 結局は僕の一人相撲で、彼らにはその気なんてさらさらなかったというのが最高におかしかった。よくよく考えれば、帰る“家”というのはいくつあってもいいものだ。それをウジウジと悩んでしまったのだから、そんな若者のような自分は尚のこと笑えて仕方がない。どうやら僕は、頭の作りまで見た目に引きずられつつあるようだ。


いい加減笑いの止まらない自分に泣きそうになったのを見て、僕はようやく笑うのを止めた。不安気にこちらを見る金井くんに、できるだけ柔らかい表情を向けた。


「悲しんでいるように見えるのは、そういう顔だからだよ。悲しいのでなく、うれしいんだ。三人ともここを出ていくんじゃないかと、なんとなく思っていたから」


「そんな!僕らはたくさんお世話になりました、そんなにあっさり出て行ったりしませんよ。むしろ、ここに置いておいてほしいといいますか……」



 あわあわと腕を動かす金井くんを押しとどめて、手の平を差し出す。しばらくきょとんとした顔でそれを見ていた彼も、重ねるように手を差し出した。しっかりと、堅く握手を交わす。ちょうどそのタイミングでキティさんが「ロック鳥の丸焼きいっちょ~…」と寝言をほざいたため、二人一緒に吹き出してしまう。



「今後ともよろしくお願いします、ナーサリーさん」


「はい、こちらこそ。三人とも、お願いするよ」



 いつもより何倍も暖かい夜、僕の家を守ってくれる存在ができました。






ただでさえ筆まめとは言えないのに、執筆が遅れぎみで危機感を感じてしまいます。

書きたい場面を出力しようとして燃え尽きてばかりなので、ちょっと気合いを入れ直したく。



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