☆第三章☆
私の名前は桜 舞。
お兄ちゃんに恋をしております。
「今・・・なにか幻聴が・・・」
さっきから頭がクラクラしてきていています。
とりあえず、この場から─陸斗の前から逃げなくては!
私は走りました。今は、今は現実逃避をするべきだと思いますので。
家につきました。私は急いで部屋に行きました。気がつかぬ間に、自分の顔がぬれていたからです。
お兄ちゃんには、見せたくありませんもの。
ガタン!
久々に、音をたててドアを閉めた瞬間でした。
ため息をつき、人形を胸に抱き、人形に問いかけました。
どうしてなのですか?
どうして私の顔はぬれているのですか?
どうしてこんなに胸が痛むのですか?
確かに、彼氏のふりをしてもらった私が悪いのです。
でも、幼なじみの陸斗から、ずっと話は聞いていましたもの。陸斗には、好きな人がいたはずです。
それなのに・・・あれは嘘だったというのですか?
陸斗が初めて私につく嘘が、好きな人というとても、とても大切なことだったというのですか?
とても信じられる話ではありません。
「好きなんだ・・・ですか。」
もしかしたら、勘違いなのかもしれませんよね。何について言ったのか、わからないですし・・・。
でもでもでもでも、陸斗はまっすぐに私の方をみてました。あんな真剣な陸斗は、初めてでした・・・。
考えれば考えるほど、わからなくなってきます。
涙が止まらなくなってきたころ、ドアをノックする音が聞こえてきました。
「舞?大丈夫か?どうした?」
泣き声が、聞こえてしまっていたんですね。声の主はお兄ちゃんでした。
「入らないで・・・くださいっ!」
ボロボロこぼれる涙。ぐちゃぐちゃの髪。ぐちゃぐちゃの顔。
絶対、お兄ちゃんに見られたくありません。
「舞・・・?」
「入らないでくださいっ!嫌なんです!今は話したくありません!何が何でもここから出たくありません!」
「陸斗がきてる。心配してる。出なくていいのか?」
「出たくありません!絶対ヤです!そもそも原因は陸斗です!陸斗のバカ、あほっ!・・・あの、えっと・・・おひきとり願ってください!」
「・・・わかった。」
また・・・敬語になってしまいました。
私はあの日から一週間、部屋の中にいました。
ご飯は喉をとおってくれなかったんですけど、お兄ちゃんは毎日私の部屋まで運んできてくれました。
「あー。」
しばらく出していなかった声を、出してみました。
「陸斗ぉー・・・。」
私がこうなった原因の者の名前を呼んでみました。
「お兄ちゃん・・・。」
「舞?」
「・・・っ!」
まさかの返答に、私は驚きを隠せませんでした。
「舞、風呂はいろうな。飯もちゃんと食おうな。自分でできないなら入れてやる、食わせてやる。」
「嫌です。ここから出たくありません。」
「無理やりにでもしないと、お前死んじまうから。」
ガタッ
「なっ・・・は、入ってこないでくださいっ!」
「よっこいしょっ。」
「は、はなしてくださいっ!」
無理やり抱き上げられた私は、お兄ちゃんの腕の中にすっぽりとおさまりました。抵抗する力なんて、ありませんでした。
そのままお兄ちゃんは、階段を降りていきます。
「舞はひとりでかかえこみすぎなとこあるもんな。」
「・・・。」
そんなことありません。
「俺がもっとしっかりしとけばな。」
「・・・。」
お兄ちゃんはしっかりしてますよ。
「舞はよく頑張ったな。」
「・・・。」
頑張ってません。
「ひとりはつらかっただろ。」
「・・・。」
つらくなんか、ないです。
「あとで、ちょっとでいいから話そうな。」
「・・・。」
わかりました。
お風呂に入って、ご飯を食べて、少し落ち着いてから、私は話しはじめました。
言いたくありません。でも、お兄ちゃんに気持ちを言うという機会は、めったにないですし・・・話したいという気持ちもありますので。
「私が陸斗と付き合ってることは知ってるよね?」
「ああ。」
「でも陸斗はね、彼氏のふりなの。」
今までのこと、すべてを話しました。でも、私がお兄ちゃんに恋をしているということは話しませんでした。というより、話せませんでした。
そんな勇気、なかったです。
お兄ちゃんは怒りませんでした。彼氏のふりさせてるとか、相手の了承を得ていてもしてはいけないことだろうに、怒りませんでした。
お兄ちゃんは優しいです。
でも、怒るべき時に、ちゃんと怒ってほしいという気持ちもあります。
今回は、怒ってほしかったです。
怒ってもらった方が、楽になれた気がします。
私は、陸斗に謝った方がいいんでしょうか?
でもとりあえずは、顔を合わせておかないと。
怖いけど、私からいかなくてはいけません。
「舞は・・・反省しなくてはなりませんね。」
「そうだな。」
「舞は、悪いことしたんですよね。」
「そうだな。」
「舞、頑張ってきます!」
・・・何を頑張るといったのか、自分でもわかりませんが、頑張ってきます。陸斗とちゃんと、向き合ってきます。
呼んでくださった方、ほんとにありがとうございますm(_ _)m