桃は流れて
偶にはこんな馬鹿な話を。
昔、昔、あるところにおじいさんとおばあさんが──。
そんな語り出しがお伽噺の定番ですが、残念ながらそこには誰も住んではいませんでした。辺境過疎地というものは得てしてそういうものなのです。
なのでおじいさんが山に芝刈りにいくこともなく、おばあさんも川に洗濯にいくという姿を見ることもなく、川上から桃が流れて来ても誰も拾う者はありません。
人知れずただただ流れ行く大きな桃。
異常な大きさを誇る桃。
その怪しさに鳥にも魚にも忌避したのであろうか、海に出てさえもそれに近寄るものもなし。
そしてある日、それはとある島の浜辺へと打ち上げられた。
されどやはり誰も近付くものはない。
お天道様とお月様、そして星たちが見守る中、ただただ無為に日が過ぎて行く。
そしてその桃がいよいよ腐ろうかというある日──。
「だあーっ!
どうなってんだよ、この物語はっ!
主人公の俺が延々放置ってあり得ないだろっ!」
桃の中から怪しい子どもが飛び出した。
当然ながら一糸纏わぬ姿である。
「いや、そんなメタな解説はいいから」
メタな発言をするその子どもは、ナレーションに対してまでツッコミを入れる。近年の作品は自身が物語のキャラクターである自覚はあったとしてもあくまでもそれは自己完結であり世界の外部であるナレーション等にツッコミを入れないのがお約束なのに。流行テンプレを無視したそれは正にKYといえるであろう。というわけで彼の名前はKY太郎に決定──。
「決定じゃねぇ!
桃から産まれたんだから桃太郎だろ! お前の方こそ空気を読めよっ!」
つまらぬことに拘るツッコミ太郎。いっそウザ太郎と呼ぶべきか。
なんにしても丸出し状態で凄んでみても滑稽なことに変わりなく、これが大人ならば猥褻物陳列罪で通報案件である。
「……ぐっ! そ、そこは仕方がないだろ。人間っていうのは服を着たまま産まれてくるものじゃねえんだし」
変なところで常識のあるメタ太郎。
だがそれをいうならば人間は桃からは産まれない。
「お? 第一村人発見!」
人影?
いや、ちょっと待て。まさかその格好で突撃するつもりでは……。
「おりゃー!!」
まさかの本当の突撃。
相手の背後からの奇襲。
馬乗りとなりひたすらにど突く。
ど突いてど突いてど突き回す。
なんて酷い。これが自称主人公のすることか……。
「よ~し、アイテムゲット♪」
酷いのはそれで終わりではなかった。
なんと彼は相手の衣服をひん剥いたのだ。
それも身に纏う物全てを。つまり相手は完全な丸裸。鬼だ……。
「いや、どうやら鬼なのはこいつみたいだぜ。
ということは、ここは鬼ヶ島ってことだな。つまりこれは物語が本来の軌道に戻ったってことか。ならばこのまま鬼どもをぶちのめしゃいいってことだな」
結果良ければ全て良し?
なんとも酷い暴論である。
しかしこれが彼の言う通りならば物語の辻褄は合ってしまう。
だが、これで良いのか?
「いいんだよ、物語っていうのは主人公のためにあるんだから。
さあ、そうと決まればここの鬼どもを皆殺しだっ」
……どうやら、この物語は桃太郎ではなく鬼太郎であったようだ……。
外側だけでなく内部の性根も腐ってました。




