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きのこ魔マシュリンの婚活事情〜きのこの魔物に転生したけど、結婚は諦めません〜

作者: ぬぁ。
掲載日:2026/03/01

 

 結婚に夢を見て、婚活パーティに通い続けたアラフォーOL、木野。


 理想は高すぎず、妥協もしすぎず。

「誠実で、頼れて、できればちょっと色気があって――」

 そんな普通の願いを抱えたまま、彼女はある日、ぽっくりと死んだ。


 目を覚ましたら、森だった。


 正確には、森の中の――湿った倒木の上。


 さらに正確に言えば。


「……え?」


 喋る、きのこだった。




 白く丸い傘。

 ぷに、とした茎。

 手足なし。



「……嘘でしょぉ……」


 声は出る。だが動けない。


 絶望。


 しかし三日後。




「ま、いっか。」


 意外と順応した。




 湿気のある倒木をくり抜き、菌糸で内装を補強。

 苔を編んでベッドにし、薄い樹皮を削って机を作る。

 木の実ランプ、胞子カーテン、枝の椅子。


 気づけば、森一番のDIY物件が完成していた。


「私ちゃん、天才じゃないのぉ?」


 きのこ魔としての生活は、案外悪くない。




 だが、ある夜。


 完成した部屋でふと天井を見上げたとき、

 胸の奥が、ぽっかりと空いた。


「……何かが、足りないわ。」


 静かな森。


 湿った空気。


 ……イケメンが、いない。





 マシュリン(きのこ名)は、行動派である。


 素材集めと称して森を歩き回り、魔力を吸収し、

 ついにスキルを獲得した。


 《菌床》


 ――好きな場所に、自らを“生やす”ことができる。


「移動スキルじゃないのぉ!」


 レベル上げに励み、狙いを定めたのは隣国の城下町。


 目標はただ一つ。


 本屋。


 そして、ついに。


 本棚の裏に、こっそり発芽成功。


 人の声。紙の匂い。インクの香り。


「文明……!」




 そこで出会ったのが、本屋の小さなおばあちゃんだった。


「まぁまぁ、不思議なきのこねぇ」


 天然人タラシなマシュリンは、世間話と人生相談でまんまと距離を詰める。




 そして譲り受けた一冊。


 その名も――


『魔国王族イケメン大全』


「きたわぁ……」




 ページをめくる。


 ドラグニル帝国、ドラグニド三世。



 鍛え抜かれた肉体。

 年輪を重ねた瞳。

 背中の翼の広がり。


「熟年ドラゴニュート……最高なのよぉ……」




 次のページ。


 夜魔国第二王子。


 若さ、鋭さ、将来性。


「これは育てがいがあるタイプねぇ……」





 雑誌を抱きしめ、胞子が舞う。


 ムフムフが止まらない。


 彼女の野望は、天より高い。


「決めた!」


 本屋の隅で、きのこが叫ぶ。


「私ちゃん、人型魔物になってイケメン王族に嫁ぐわよぉ!!」




 その数日後。


 森の中で、彼女は進化を選んだ。


 《進化候補:人面菌》


 ――会話能力向上。


「喋れる幅が広がるのね!? 最高じゃないのぉ!」




 光。


 沈黙。


 水たまりに映る、自分。


「……誰この顔。」


 ぬるり、とした人面。


 リアルすぎる口。


 うるうるした目。


「私ちゃん、討伐対象よこれぇ……」


 絶望。


 泣いた。


 泣いて、泣いて、泣いて。


 体が溶け、土と混ざり、森と一体になった。




 その時。


 フォレストウルフが通りかかった。


 土だと思って踏んだ。



 ぐちゃ。


 《条件達成:無意識完全擬態》

 ※通常、人面菌からの分岐成功率:0.03%

 ※本個体は“情緒過多型特殊進化”と認定されました


 光。


 再構築。


 擬態系菌魔族、誕生。





 そして、時は流れ。


 技術国家ドドルフ。


 鍛冶の女神を祀る奉剣祭。


 炎の中に立つ王。


 バハルド・グラン=ドドルフ



 大きな体躯。


 短く整えられた髭。


 炎を背に、剣を掲げる姿。


 その目は、強く、そして優しい。


 マシュリンの胸が、きゅ、と鳴る。


「……あらぁ……」


 炎が揺れる。


 遠くで、狼の遠吠えがひとつ。


 彼女は、静かに微笑んだ。


「私ちゃん、次は王城の庭に生えるの。」


 菌床が、淡く光る。


 婚活は、まだ始まったばかり。





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