きのこ魔マシュリンの婚活事情〜きのこの魔物に転生したけど、結婚は諦めません〜
結婚に夢を見て、婚活パーティに通い続けたアラフォーOL、木野。
理想は高すぎず、妥協もしすぎず。
「誠実で、頼れて、できればちょっと色気があって――」
そんな普通の願いを抱えたまま、彼女はある日、ぽっくりと死んだ。
目を覚ましたら、森だった。
正確には、森の中の――湿った倒木の上。
さらに正確に言えば。
「……え?」
喋る、きのこだった。
白く丸い傘。
ぷに、とした茎。
手足なし。
「……嘘でしょぉ……」
声は出る。だが動けない。
絶望。
しかし三日後。
「ま、いっか。」
意外と順応した。
湿気のある倒木をくり抜き、菌糸で内装を補強。
苔を編んでベッドにし、薄い樹皮を削って机を作る。
木の実ランプ、胞子カーテン、枝の椅子。
気づけば、森一番のDIY物件が完成していた。
「私ちゃん、天才じゃないのぉ?」
きのこ魔としての生活は、案外悪くない。
だが、ある夜。
完成した部屋でふと天井を見上げたとき、
胸の奥が、ぽっかりと空いた。
「……何かが、足りないわ。」
静かな森。
湿った空気。
……イケメンが、いない。
マシュリン(きのこ名)は、行動派である。
素材集めと称して森を歩き回り、魔力を吸収し、
ついにスキルを獲得した。
《菌床》
――好きな場所に、自らを“生やす”ことができる。
「移動スキルじゃないのぉ!」
レベル上げに励み、狙いを定めたのは隣国の城下町。
目標はただ一つ。
本屋。
そして、ついに。
本棚の裏に、こっそり発芽成功。
人の声。紙の匂い。インクの香り。
「文明……!」
そこで出会ったのが、本屋の小さなおばあちゃんだった。
「まぁまぁ、不思議なきのこねぇ」
天然人タラシなマシュリンは、世間話と人生相談でまんまと距離を詰める。
そして譲り受けた一冊。
その名も――
『魔国王族イケメン大全』
「きたわぁ……」
ページをめくる。
ドラグニル帝国、ドラグニド三世。
鍛え抜かれた肉体。
年輪を重ねた瞳。
背中の翼の広がり。
「熟年ドラゴニュート……最高なのよぉ……」
次のページ。
夜魔国第二王子。
若さ、鋭さ、将来性。
「これは育てがいがあるタイプねぇ……」
雑誌を抱きしめ、胞子が舞う。
ムフムフが止まらない。
彼女の野望は、天より高い。
「決めた!」
本屋の隅で、きのこが叫ぶ。
「私ちゃん、人型魔物になってイケメン王族に嫁ぐわよぉ!!」
その数日後。
森の中で、彼女は進化を選んだ。
《進化候補:人面菌》
――会話能力向上。
「喋れる幅が広がるのね!? 最高じゃないのぉ!」
光。
沈黙。
水たまりに映る、自分。
「……誰この顔。」
ぬるり、とした人面。
リアルすぎる口。
うるうるした目。
「私ちゃん、討伐対象よこれぇ……」
絶望。
泣いた。
泣いて、泣いて、泣いて。
体が溶け、土と混ざり、森と一体になった。
その時。
フォレストウルフが通りかかった。
土だと思って踏んだ。
ぐちゃ。
《条件達成:無意識完全擬態》
※通常、人面菌からの分岐成功率:0.03%
※本個体は“情緒過多型特殊進化”と認定されました
光。
再構築。
擬態系菌魔族、誕生。
そして、時は流れ。
技術国家ドドルフ。
鍛冶の女神を祀る奉剣祭。
炎の中に立つ王。
バハルド・グラン=ドドルフ
大きな体躯。
短く整えられた髭。
炎を背に、剣を掲げる姿。
その目は、強く、そして優しい。
マシュリンの胸が、きゅ、と鳴る。
「……あらぁ……」
炎が揺れる。
遠くで、狼の遠吠えがひとつ。
彼女は、静かに微笑んだ。
「私ちゃん、次は王城の庭に生えるの。」
菌床が、淡く光る。
婚活は、まだ始まったばかり。




