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01-08.世話焼き魔王

 魔王様のベッドを占拠して早三日。


 いや。その前にも三日寝ていたのだから六日間か。


 流石にそろそろ頭も冷えてきた。システムメニューは余すことなく確認したが、あいも変わらずログアウトボタンだけが機能していない。ゲーム機側のメニューを呼び出す方法ってないのだろうか。いや、必ずある筈だ。この世界がゲームのままであるならば。或いはそうでなかったとしても。



「ユズキ? 調子はどうじゃ?」


 お盆を持った魔王様が部屋に入ってきた。お盆の上にはスープの皿が乗っている。魔王様が自ら給仕してくださるとは。至れり尽くせりだ。この三日間も欠かさず持ってきてくれてはいたけれど……。



「……ごめんなさい」


「頭は冷えたようじゃのう。方法は見つかったか?」


「いえ……」


「ならば先ずは食事じゃ。また暫く口にしておらんだろう。それでは頭も働かんぞ」


 ベッドに腰を下ろした魔王様は、自ら匙を持って私の口にスープを運んできた。



「お主、躊躇なく口に含んだな」


「美味しいです」


「そこはもっと恐れ多いだの騒ぐところじゃろうが」


「ありがとうございます。お優しい魔王様」


「ほんに調子のいい奴じゃ」


 とか言いつつ、何故か嬉しそうに匙を運び続ける魔王様。魔王様は他者のお世話全般が好きなのかもしれない。本当にお優しい魔王様だ。



「魔王様。先日は」


「よい。それ以上言うな。それから言葉遣いもな。以前のに戻せ。調子が狂うじゃろうが」


「……はい。魔王様」


「まあ、それは変わらんかったか。以前よりは感情が籠もっておるようじゃが」


「本当に感謝しているの」


「元はと言えば我のせいじゃ。それはおそらく間違いあるまいよ」


「……どうしてそう思うの?」


「なんとなくじゃ」


「気を遣ってる?」


「その問いにイエスと答える者はおらんじゃろ」


「ありがとう、魔王様」


「違う。我の直感は当たるのじゃ。じゃから我を信じて任せてみよ。必ずユズキの願いを叶えてやろう」


「どうしてそこまでしてくれるの?」


「お主が我の配下だからじゃ。それ以外に理由が必要か?」


「……いいえ。私は貴方様の忠臣です」


「おい。それは流石に調子に乗りすぎじゃろうが。どの口で忠臣なんぞとほざいておるのじゃ」


「信じてくださらないの?」


「バカ者め」


 魔王様は私の額を優しく小突いてからお盆を持って立ち上がった。



「次は風呂じゃ。行くぞ、ユズキ」


 はい。魔王様。




----------------------




「魔王様って着痩せするタイプなのね」


「おい。我は背を流せと言ったのじゃ。どこを触っておる」


「背はこんなに小さいのに」


「貴様」


「本当に綺麗だわ」


「……」


「勘違いしないで」


「何をじゃ」


「これは確認なの」


「わかるように話せ」


「この世界が私の想定した通りの空想なら魔王様の胸に触れる事は出来ない筈だった。その柔らかさを感じ取るなんてあり得ない事だった。そういう制約がある筈だったのよ」


「意味がわからんぞ」


「あら? 流石の魔王様でも?」


「おい。何か別の意味を込めておらんか?」


「何の話かしら?」


「ほう。そろそろ痛い目を見ないと気が済まんようじゃな」


「痛い思いはしたくないわ」


「……」


 痛っ。



「……魔王様?」


 魔王様が私を押し倒して馬乗りになり、腕を組んで見下ろしてきた。



「怒らせてしまったかしら?」


「何を惚けておる。誘ってきたのはお主の方じゃろうが」


「……本気?」


「何がじゃ? 我はただ実験に付き合ってやると言うとるだけじゃぞ?」


「……ごめんなさい」


「何を謝る事がある。お主が望んだ事じゃろう」


「そんなつもりは無かったの」


「ほう? つまりあれか? お主は我の幼気な容姿を見て思い込んでおったのじゃな? 我にその手の知識は無いと」


「いいえ。そんな事は考えていないわ」


「ならば説明がつかんではないか」


「勘違いよ。私は誘ってなんかいないわ」


「安心しろ。痛い思いはさせん」


「もう痛いわ。頭ぶつけちゃったの」


「それは悪いことをした。どれ。撫でてやろう」


 魔王様がゆっくりと倒れ込んできた。




----------------------




「~♪」


「……ケダモノ」


「お主が誘ったんじゃろうが」


「私病み上がりよ? そんな事するわけないじゃない」


「ならば言葉には気を付けることじゃな。次は加減出来んかもしれん」


「結局そういう目的だったのね。あの優しさは全てこの時の為だったのね」


「なんじゃ? まだ虐められ足りんのか?」


「結構よ。それよりしっかり働きなさいよ。人の身体使って散々楽しんだんだから」


「やはり仕置が足りんようじゃのう。今一度己の立場を理解させるしかないようじゃ」


「約束が違うわよ。一緒に調べてくれる筈でしょ」


「必要があるのか? 我と共に生きるのであろう? 二度と帰りたいとは口にせんと誓った筈ではないか」


「そういう魔王様こそ私を必ず帰すって誓ったじゃない」


「ふむ。困ったものじゃな。我らの誓いは相反したものとなってしまったようじゃのう。ならばどちらかを打ち消す他あるまい」


「魔王様ともあろうお方にそんな真似はさせられません。どうぞ私の誓いを破棄なさってくださいませ」


「安心せい。我がどちらの誓いも叶えてやろう」


「進軍するって? 本気?」


「無論じゃ。ユズキは我のものじゃ。ユズキが欲するものは我が手に入れよう」


「そうやって私を縛り付けるの?」


「うむ。魔王たるものその程度の甲斐性は持たんとな♪」


「……無理よ」


「我を信じよ」


「魔王様がどんなに強く賢くたって不可能よ。そもそも魔王様、この世界すら征服しきれていないじゃない」


「むぅ。痛いところを突きおるのう。じゃが安心せい。我が本気になれば三日とかけず平定してみせよう」


「無理よ。世界征服って人間だけが相手じゃないのよ?」


「うん? それはどういう意味じゃ? エルフの事を言っておるのではなかろう?」


「そう。やっぱり知らないのね。流石の魔王様でも」


「おい。もったいぶるでない。知っている事は全て話せ。お主は早く帰りたいのじゃろうが」


「この世界にはもう一人、いえ。もう一匹の実力者が隠れ潜んでいるの。魔王様はその前座なのよ」


「なんじゃと?」


 この世界にも間違いなく存在する筈だ。最凶の裏ボスが。

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