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01-05.優しい魔王

 おかしい。とっくに二十四時間は経過している。なのにゲームが終わらない。これはいったいどういう事なのか。



「何を悩んでおるのじゃ?」


「……えっと」


 私は少し悩んだ末、一か八かこの賢い魔王様に相談に乗ってもらうことにした。



「実は外の仲間が私を救い出してくれる手筈だったの」


「外の仲間じゃと?」


「ええ。この世界に入ってから一日経って出られなかった場合は、向こうから引っ張り上げてくれる予定でね」


「お主、勇者に憑依したのは意図的だったのか?」


「……それは事故よ」


「嘘つけ」


「……ごめんなさい。本当は偉大な魔王様に会ってみたかったの。私達にとってこの世界は過去の再現に過ぎないものだった。少なくともそう信じていたの」


「おい。未来から来たのかという問いには惚けておったではないか」


「……これは魔王様の認識に合わせているだけよ。本当はもう少し複雑なの」


「話してみよ」


「どうか許してください。私は自分の行いを恥じているのです」


「話せと言うておるのじゃ。これ以上隠し立てする方が不義理と心得よ」


「……私達にとってここは仮初の世界なの。過去の一部を再現した空想に過ぎない。その筈だった」


「ふむ」


「魔王様が出来る事は限られていた筈だった。あくまで筋書き通りにしか動けない筈だった」


「しかしそうではない。我には我の意思がある。つまるところ、実際に過去へと繋がってしまったというわけだな」


「ええ。もしかしたらそういう事なのかもしれない」


 そんな事は微塵も思ってないけれど。……微塵は言い過ぎかしら。過去云々はともかく、これがゲームとよく似た異世界だって言われたら否定しきれないかもしれない。



「なんじゃ? お主は我が仮初の存在であると信じておるのか?」


「……いいえ。今は違います」


「ならばそれが全てであろう。例え考えられぬ可能性であろうと、事実は事実として受け入れよ」


「はい。魔王様」


「その上でお主の疑問に答えるとするならばだ」


 あら。そっちも考えてくれるのね。



「一つは手段の問題じゃな。お主が紛れ込んだのはお主らが想像もしていなかった場所なのじゃ。当然引き上げる為の手段も当初想定されていたものでは通用せんじゃろう」


 それは最悪のパターンだ。けど心配は無い。私は嘘を付いている。魔王様を刺激しないように前提を誤魔化している。それ故この心配は杞憂にしかなり得ない。



「もう一つは時間のズレじゃな。お主の言う外の一日がこちらの一日であるとは限るまい」


 ……あ。それだ。考えてみれば当然の話だ。リアルタイムで魔王討伐なんてしていたら、どんなRTAプレイヤーだって数ヶ月は掛かるだろう。それではゲームとして都合が悪い。どんなに長くたって数十時間もあれば本編はクリア出来るものだ。


 現代人は忙しい。ゲームにそこまでの時間を注ぎ込めるわけじゃない。ゲーム内時間が現実と異なるのは珍しい事じゃない。考えてみれば当然の話だった。うっかりしすぎだ。



「何やら心当たりがあるようじゃのう」


「感謝します。魔王様」


「うむ。お主の疑問に答えが示されたのなら何よりじゃ」


 けど困った。倍率はどの程度かしら。下手をすると数年は帰れないかもしれない。あまりおかしな倍率って事はないと思うけど。やり過ぎれば脳に負担も掛かるだろうし。



「さて」


 やっぱりログアウトボタンを使って脱出するしかないわね。どうにか隙を見つけられないかしら。



「おい、ユズキ」


「え? はい。魔王様」


「我は悲しい。それが何故かわかるか?」


「……いえ」


「我が忠臣が我に黙って逃亡を目論んでおった」


 それは忠臣じゃないと思う。



「覚悟はできておろうな」


「魔王様」


「なんだ? 最後に言い残す事があるなら聞いてやろう」


「あの地点に戻った際に正確な記憶を引き継いでいるのは私だけよ。繰り返せば私が有利になるわ。いかな魔王様と言えど、いずれ取り逃がすかもしれないわよ」


「その程度で埋まると本気で思うておるのか?」


「……私はこの優しい魔王様と別れたくないわ」


「少々甘やかしすぎたようじゃのう」


「考えてみて。ループした先にいるのは今この場にいる魔王様じゃない。私に優しくしてくれた魔王様はどこにもいなくなってしまうの。それってとても怖いことだと思わない?」


「……」


「その時魔王様はどうなると思う? 私を手にかけた魔王様の道が続く? それとも巻き戻る前の世界ごと消えて無くなってしまうのかしら?」


「……前者はあり得ん。我も一部の記憶を引き継いでおる」


「それは根拠になり得るのかしら? 本当はただ否定したいだけなのでしょう? あなたも私と別れ難いと思ってくれているのでしょう?」


「……図に乗るでない」


「ねえ、魔王様。私と共に生きましょう? 私は決して裏切らないわ。もう二度と帰りたいなんて口にしない。そう誓うから。だから側に置いてほしいの。いつまでも可愛がってくださらないかしら?」


「お主……よくそうもポンポンとデマカセが出てくるものじゃな……」


 あら? 呆れさせちゃったかしら?



「まったく。本当にいい度胸しておるわ」


「あら。信じてくださらないのね」


「今この瞬間にも逃げようと隙を伺っておるではないか。そういうのわかるんじゃぞ。我を舐めすぎじゃ」


 まあそうよね。実際システムメニューを開いたら瞬時に即死ビームが飛んでくるわけだし。困ったものだわ。本当に。というかなんでゲーム内キャラが認識出来るのよ? ポーズ機能は無いわけ?



「なら諦める? 魔王様は小娘一人も心酔させられないのだと認めてしまうのかしら?」


「言葉に気をつけよ。うっかり手が滑るやもしれんぞ」


「私の魔王様がそんな事する筈ないわ」


「誰がお主のじゃ。バカ者。逆じゃろうが。お主が我のものなんじゃろうが。もう少し自覚を持たぬか」


「そう思って頂けるなら大切にしてくださるかしら?」


「お前次第じゃ。心を入れ替えて誠心誠意尽くすがよい」


「はい。お優しい魔王様」

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