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【完結済】チュートリアルで負け続けたら魔王様に束縛されました  作者: こみやし
04.勇者と魔王の最終決戦

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04-09.最終話




「マスター。惑わされないでくださいまし」


「え? うん。もちろん。大丈夫。騙されてないよ」


 だってメイちゃん達も言ってたし。私の魂は間違いなく前魔王のものだって。今更私が偽物だなんて話にはなり得ないわ。無いってことは……つまり?



「私の偽物もいるって事?」


「偽物はお前だ」


 頑なだなぁ。



「取り敢えず帰ってもいいかしら?」


「……好きにしろ」


「一緒に来てくれる?」


「……」


 これは同意かしら?


 あ。飛び上がって近づいてきた。



「ねえ、魔王。一つ聞きたい事があるんだけど」


「……」


「もしかして私以外の誰かをモニタリングしてる? それで私を偽物だと思ったの?」


「……そんな筈が」


「それ、もしかして以前の私が用意したダミーじゃない?」


「……」


「あなた騙されていたのよ」


「……違う」


 本当にぃ?



「どのみち魔王様が私を起こすまでにはまだ少し時間がかかる筈よ。それこそこっちでは何年もかかるかも。その間はあなたが魔王を務めて頂戴。ついでに残りの疑問点も一緒に解消していきましょう」


「……」


 異論は無いようだ。




----------------------




「……」


「!?」


 今のは……む? 我は縛られておるのか? うん? なんじゃこれは。この程度で……動かぬ……。



「ピーガーピーピー」


 え?



「ガーガーピーピー」


 あっれぇ?



「シー!! 静かに! 喋らないでください!!」


 む! やはり貴様は!



「あなたは魔王ですね?」


 同意する手段が無いぞ。なんか口からは変な音しか出ないし。身体は動かせないし。うん? 耳と目は正常なのだな。



「落ち着いてください。今からその身体の制御プログラムを流します。どうか私を信じて大人しくしていてください」


 貴様を信じるだと? ユズキを裏切った貴様をか?



「柚希さんにも困ったものです。あの子は詰めが甘いんですから」


 なんだ? いったいどういう事じゃ?



「じっとしていてくださいね」


 じっともなにも、一切身体が動かせんのじゃが……あれ?



「まだダメですよ……70……80……90……はい。終わりました。動いて大丈夫です」


「お主は……」


「おや。もう喋れるのですか。流石は柚希さんの用意したプログラムですね」


「……何がどうなっておるのじゃ」


「説明は後です。それより柚希さんを目覚めさせるのでしょう? そちらは私ではどうにもなりません。どうか柚希さんをお願いします」


「う、うむ。なんじゃかわからんが、協力感謝する」


 早速ユズキの眠る装置に近づいた。ユズキは大型のカプセルに包まれて眠っている。これがユズキを閉じ込めている装置だな。制御装置は……ふむ。……アクセス開始。



 「シュコー」と音を立ててカプセルの蓋が持ち上がった。



「音は要らないでしょうに。コールドスリープ装置でもあるまいし。どうしてこういうの付けたがるんでしょう」


 馴れ馴れしいやつじゃな……。


 本当にこやつはユズキを裏切っておらんのか? ユズキは記憶を確認しておったのじゃぞ? 演技というわけにもあるまいに。ならば気が変わったのか。まあいい。何にせよ協力してくれたのじゃ。今はこやつよりユズキじゃ。



「……」


「ユズキ! おい! 目を覚ませ!」


「……?」


 なんだ? 何を不審がっている?


「……あっれぇ? なんでボクが目覚めてんのぉ?」


「何を言っておるのじゃ!?」


「……なんでもないよ、魔王様。おはよ。手筈通りだね♪」


「嘘つけぇ!?」


「まあ、うん。ごめん。ちょっと失敗しちゃった」


「お主そんなんばっかじゃろうが!」


「あはは~♪ 天才が聞いて呆れるねぇ~♪」


「自分で言うな! 自分で!」


「もうこれは蛇足に過ぎないからとっととネタバラシをさせてもらうけど、ボクは本来の柚希じゃない。柚希が斬り捨てた記憶と人格の一部だ。もっとわかりやすく言えば、ボクこそが偽物だ。けどなんか手違いでボクが出てきちゃった。という事で魔王様。もう一度ボクと一緒に来てくれるかな? 本物の柚希を迎えに行こう♪」


「かっる!? お主はそれで良いのかぁ!?」


「何をどう考えても今の状況の方が悪いでしょ。それと時間が無いよ。もうこの身体が目覚めちゃったからね。奴らが見に来るのも時間の問題だ。それに柚希達の時間は今この瞬間にも進み続けている。さっさと戻らないと柚希がおばあちゃんになっちゃうよ」


「長々と喋っておるのはお主の方じゃろうが!」


「失敬。ボクってばお喋り好きだからね。ごめんごめん。早速始めよう。君も一緒に来るかい?」


「遠慮しておきます。時間稼ぎが必要でしょう?」


「何から何まで悪いね」


「私は一度裏切りました。気を遣う必要はありません」


「信頼しているよ。お姉ちゃん」


「いってらっしゃいませ。柚希さん」




----------------------




「魔王様!」


 リリスさんが駆け寄ってきた。



「……リリス」


 偽魔王にも思うところがあったようだ。彼女の名を小さく呟いて、彼女の抱擁を黙って受け入れた。



「おかえりなさい! ユズキも! 本当によくやってくれたわ!」


 いつの間にか機械女神の巨体が消えていた。偽魔王様が片付けてくれたようだ。



「意外と気付かないものなのね」


「マスターとは成り立ちからして違いますわ」


 なるへそ。そもそも魔王様はこの世界の存在だもんね。その完全な写し身ともなればデータ上は見分けが付かないわけか。



「「アーフィス!?」」


 男達も向こうで再会を喜び合っている。幸い被害は出ていないようだ。まさかこんな奇跡があるとは。流石は魔王軍。流石は魔王様だ。




----------------------




 撤収を終えた私達は一先ずリリスさんに全てを明かす事にした。



「えぇ!? 魔王様が魔王様じゃない!?」


「……」


 何故か偽魔王はここまで魔王様を演じてくれていた。リリスさんの手前だからだろうか。やけに素直だ。娘に弱いところもそっくりそのまま再現してしまったらしい。やっぱり普段から記憶の同期でもしていたのだろう。本当は何もかも筒抜けだったわけだ。それでも一線を越えない限りは襲撃をしかけてこなかった。ソルヴァニールを動かすにも手続きが必要だからとかってだけでなく、この偽魔王なりに何かルールを決めていたのかもしれない。



「一先ずこの子に魔王様を務めてもらうわ」


「……勝手に決めるな」


「魔王様……」


「……少しだけだ」


 グッジョブリリスさん♪



「後は流れで。魔王様のアクション待ちよ」


 ある日突然私が現実世界に戻るのか、或いは魔王様が再びこの世界に迎えに来てくれるのかはわからない。


 とにかく後は待つしかない。魔王様の留守を守るとしましょう。ついでに偽魔王を生体管理システムから切り取る方法も見つけないとだ。世界の方は後で圧縮して魔王様の現実の身体に移すけど、その時に端末側と紐付いたままの偽魔王は連れていけない。完全なこの世界の住人に戻す必要がある。



「まだまだ働いてもらうわよ♪ カミュラ♪」


「はい、マスター」


「我々モ」


「もちろん♪ メイちゃんズの事も頼りにしてるわ♪」


「それよりユズキ! あなたいったい何者なの!?」


「それも今から話すわ♪」


 全てを伝える事にしたって言ったでしょ♪ 伝えるべきことは魔王様の事だけじゃないもんね♪




----------------------




 長い時が経った。魔王様はまだ現れないのだろうか。


 この世界の時間は加速したままだ。だいたい向こうの一時間がこっちの百年だとするなら、向こうで五分過ごせばこっちは八年程経過する事になる。そりゃ時間もかかるわ。もう数年は待たなきゃダメかもしらん。



「お前は紛い物だ」


 時たま魔王が呪詛を吐く。まるで私を引き留めようとするかのように。本当はただそう信じていたいだけなのかもしれない。自分と同じ境遇の相手が欲しいだけなのかも。




----------------------




 私の魔王様が現れない。


 早く来て。でないと浮気しちゃうよ。




----------------------




 魔王様。


 最近リリスさんと魔王の仲が怪しいです。


 さっさと迎えに来ないと寝取られちゃうよ。……私も。




----------------------




「ユズキ!!」


 念願の魔王様が現れた。……もう一人の私を連れて。



「まさか浮気してたの? それで遅くなったの」


「んなわけあるかぁ!」


 よかった。本物の魔王様だ。



「随分と待たせてくれたわね。それで? その私は何?」


「ボクが誰かって? ふふ♪ 君がそれを聞くのかい? 時間は十分にあった筈だ。答え合わせといこうじゃないか♪」


「今初めて会ったのに答えも何もないでしょうに」


「あれ? おかしいな。ボクはもっと賢い筈なんだけど」


 これはバカにされているのかしら?



「ボクの相手に相応しいのはこちらの魔王様かな♪」


「なんだお前は。どっから現れた」


 素気なく振り払われるもう一人の私。



「魔王様」


「ユズキ」


 ガシィッ!



「な~んか嫌な感じ。見せつけてるの?」


 うん。



「ちょっと付き合ってよ。魔王様」


「……いいだろう」


 え? 何? なんで臨戦態勢?



「おい! そんな事しとる時間は無い筈じゃろうが!」


「大丈夫だよ、少しくらい」


 もう一人の私と魔王が並び立ち、私と魔王様に向かい合った。どうやら一戦おっぱじめるつもりらしい。



「本物と偽物。どちらが向こうの世界に帰るべきか。その決着をつけようじゃないか♪」


「話が違うじゃろうが!」


「私は戦いたくないわ。今の魔王とだって長い付き合いだもの。私の魔王様程じゃないけど、大切に想っているのも間違いないわ。だからもう偽物だなんて呼びたくないの。ということで今からあなたが"ノクスクレム"よ。魔王様には新しい名前を授けるわ」


「今か!? それ今やる事か!?」


「ノクスとクレムに分けるのはどうかな?」


「ダメよ、それじゃ。その名前は丸パクリだもの」


「おい。何故それを我に押し付けるのだ」


「私の魔王様を逃がす為の囮にするからよ」


「まったく。ユズキは勝手過ぎる」


「頑張ってね♪ 色々取り調べとかもあるかもだから♪」


「それがお前達の為になると言うなら引き受けよう」


「ちょっと待つのじゃ!!」


「「なに?」」


「なんじゃお主ら! 何でそんな仲良くなっとるんじゃ!」


「魔王様が待たせすぎたせいよ」


「ユズキは我のものだ」


「ふざけるなぁ!!」


「ふふ♪ これはチームを組み替えなきゃね♪」


 もう一人の私が指をパチンと鳴らすと、魔王様二人の位置が入れ替わった。しかもフィールドまで変わっている。コロシアムの真ん中に私達が立ち、魔王軍の皆が席に着いている。




 私&魔王ノクスクレム vs もう一人の私&魔王様



 魔王様は私を取り戻す為に。


 魔王ノクスクレムは私の魔王となる為に。


 もう一人の私は気まぐれで。


 私は流されて。



 正真正銘、最後の戦いが始まった。

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