04-06.娘の成長
「まさか魔王様とダンジョン攻略が出来るだなんてね」
想定通りにバリアは抜けられた。皆の頑張りに感謝だ。急いでダンジョンを攻略しよう。皆が無事なうちに帰るとしよう。魔王様と二人でならきっと間に合う筈だ。
「……なんじゃ。お主、全てを思い出したわけではないのじゃな」
あれ? 拗ねてる?
背後から抱えられて飛んでいるから魔王様の表情は伺えない。
「ごめんなさい。一緒に来た事あったかしら」
「女神のダンジョンは初めてじゃ」
「じゃあ他のダンジョン? 私が魔王様のママをやってる時に?」
「……」
あら。不機嫌そうね。顔が見えなくても伝わってくるわ。この子、意外とわかりやすいのよね。
「ごめんなさい」
「それは何に対する謝罪なのじゃ?」
「全てよ。忘れた事も。黙っていた事も。勝手な役割を背負わせた事も。あれもこれも。挙げだしたらキリが無いわ」
「それでもじゃ。全部謝れ。誠心誠意」
「ごめんなさい」
「まったく。母上は勝手が過ぎる」
「あら。もうユズキとは呼んでくれないの? なんならママでも」
「呼ばんぞ。お預けじゃ」
「またママって呼んでくれる?」
「そっちじゃないわい!」
「ご機嫌斜めね」
「誰のせいじゃと!?」
「ちょっと懐かしいわね。この感じ」
「母上はいつもそうじゃ! 全く成長せんではないか!」
「あら。おかしいわね。あなたの知っている私とは何もかも違っている筈なのだけど」
「……ユズキは本当にユズキなのか?」
「結局呼んでくれるのね♪」
「質問に答えよ」
「正直わからないわ。本来の私と今の私がどれだけ違うのかなんて。そもそも本来の私に戻れる可能性なんてあるのかしら? もうこのまま混ざったままじゃないかしら?」
「何故そのような事をしたのじゃ。女神の目を誤魔化すにしてもそこまでする必要は無かった筈じゃろうが」
「私には足りなかったからよ。一般常識も倫理観も。だからあの子の記憶を拝借したの。自分の記憶と混ぜ合わせて切り取って、矛盾の無いよう再構築したの。それが今の私。あの子の意思の強さを借りたかったのよ」
「強い意思なんぞあるものか。あやつはユズキを裏切ったじゃろうが」
「妹さんの為よ。彼女にはどうしても必要な事だった」
「やつも処分されるのがオチじゃ」
「でしょうね。本当に酷い事をしてくれるものだわ」
「他人事では無いのじゃぞ」
「だからあなたがいるんじゃない」
「我はそんな事の為に産まれてきたのではない」
「そうね。あなたが鍵となったのは偶然よ。元々は私が連れ回す為に準備していただけだもの」
「本当に我に出来るのか?」
「あら。また弱気になってしまったのね」
「……我は怖いのじゃ。お主の力になれぬ事が。何よりも」
「大丈夫♪ あなたはとっても強い子よ♪ 私の自慢の娘で恋人よ♪」
「……母上のせいじゃぞ」
「何の話? 心当たりが多すぎてわからないわ」
「まったく……。母上が言ったのじゃ。娘は母と結ばれるものじゃと。幼き我にそう教え込んだのじゃ」
「……あ~。なるほど。リリスさんの話ね♪」
「おい」
「ふふ♪ ごめんなさい♪」
「なんもかんも母上のせいじゃ」
「違いないわね」
「やはり目が離せぬな」
「頼りにしてるわ♪」
「母上に頼られたら我は誰に頼ればよいのじゃ」
「リリスさんがいるじゃない♪」
「そこは自分に頼れくらい言わんか!」
「私に頼ることなんて無いじゃない。あなたは私の全てを注ぎ込んで作り上げたんだもの。言わば私の上位互換よ♪ 自信を持ちなさい♪」
「このっ!! あんぽんたん!!」
ごめんて。
「冗談よ♪ 頼るも甘えるもいつでも遠慮なくどうぞ♪」
「……バカ」
ふふ♪
さて。呑気に話していられるのもここまでだ。そろそろ第一関門が見えてきた。
「なっ!? カミュラじゃと!?」
「アーフィスもいるわよ」
最初の中ボス部屋に現れたのは吸血鬼と鳥人の二人組だった。翼を広げて空からこちらを見下ろしている。
かつての四天王だ。私と共に女神へと挑んだ忠義者達だ。
そう。女神に鹵獲されていたのね。ごめんなさい。私はまだ細かい経緯を思い出せていないの。これもきっと記憶を混ぜた影響ね。もしかしたら最後まで思い出せないかもしれない。けれど確実にわかる事もあるわ。二人が私を逃がしてくれたのよね。気付けなくてごめんなさい。今解放してあげるからね。
「何故だ母上!? 二人は!」
「落ち着きなさい」
魔王様ったら。すっかり調子を崩してしまっているわね。そんな調子じゃ女神に勝てないわよ。
「久しぶりね。二人とも。私の声は聞こえているかしら?」
「「……」」
……これは影ね。やっぱり言葉による説得は無理そうだ。
あと一歩でも踏み込めばその瞬間に襲いかかってくるだろう。そんなところだけは律儀なのね。ボス戦の差し替えなんてしてきたくせに。そんな無法がまかり通ったのは、きっと私が一度も中ボス戦を経験していないからよね。
本来なら女神ダンジョンには、本編に登場する各ボスの強化形態が階層毎に一人ずつ配置されている。二人いっぺんに出してきたのはどんなカラクリかしら。これにもなにかしらの言い訳はある筈なのだけど。
「魔王様。遠慮しないで」
「じゃが!!」
「二人の為よ。私を信じなさい」
「っ!!」
魔王様は意を決して飛び込んだ。
案の定、吸血鬼と鳥人が攻撃を仕掛けてきた。二人のレベルはカンストしている。ソルヴァニール程ではないが、以前の二人とは比べ物にならない強さだ。しかしそれでも魔王様の敵ではなかった。魔王様は聖剣も使わずに二人を正面から相手取って圧倒してみせた。
「……お強くなられましたなぁ」
「アーフィス!? まさかお主!?」
「……酷いですわ、マスター」
「ごめんね、カミュラ」
既に二人は虫の息だ。身体が崩れかけている。
「まだじゃ!!」
魔王様は二人に力を流し込み始めた。
「……なりませぬ。魔王様」
「……おやめくださいまし。魔王様」
この行為に意味は無い。そんな事をしても二人は戻ってこない。女神ですら役割からは逃げられないのだ。ましてやこの二人は元の肉体ですらない。あくまで写し取られた偽物だ。このダンジョンに現れるのはそういう者達だ。二人はとっくに命を落としている。しかし。けれども。それでもだ。ここには二人の魂がある。
「大丈夫。あなたになら出来るわ。魔王様」
「……」
思い出して、魔王様。あなたは既に経験済みよ。私の魂から肉体を引き出してみせたでしょ。女神のリセットに抗ってみせたでしょ。死して尚、魂を繋いでみせたでしょ。あなたの力は女神にだって負けないわ。この世界の真の支配者はあなたよ。言ったでしょ。あなたは私の上位互換なの。これは嘘でも誇張でもないわ。言葉通りの意味なのよ。私は待っていたの。あなたが真の力に目覚めるこの時を。……それでも本当は私が全てを終わらせてあげたかったのだけどね。けれどその必要も無かったようね。流石は私の魔王様ね♪
二人の朽ちかけた肉体に変化が現れた。
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「ははうえ! ははうえー!!」
「おや。魔王様。御母君をお探しですかな。本日も私室にてお過ごしになられておりますよ」
「よんでこい!」
「御意」
まったく! 母上にも困ったものだ! もーとっくに昼過ぎだぞ!
「かみゅらはどーした!」
「マスターノ命デ動イテルデス」
「なぜだ! してんのうはわれのはいかぞ!」
また我に無断で動かしおったな! これでは仕事に差し障るではないか!
「内容ハ聞カサレテナイデス」
「まったく! ははうえはまだか!」
速度自慢のアーフィスなら呼ぶくらいすぐだろ!
「も~。そんな引っ張らないで~」
「やっときた!」
「はぁ~い~♪ 魔王様ぁ~♪」
「ははうえ!! せつめーせよ!」
「ノンノン♪ 母上じゃなくてママだってば♪」
「うるさい! しつもんにこたえよー!」
「も~。おこりんぼね~」
「ははうえ!」
「落ち着いて、魔王様。突然説明しろとだけ言われても何の事だかわからないよ」
「すべてだ! なにをコソコソうごいてる!」
「あら。バレちゃった?」
「とーぜんだ!」
「さっすがボクの魔王様♪」
「まじめにこたえろー!」
「色々あるのさ。ママにもね」
「きょうというきょうはゆるさんぞー!」
「あら。それは困ったね。そうだ。どうせならデートに行こっか」
「そんなひま! あるかー!!!」
「またちょっとエルフの国に用があるの♪ 魔王様も一緒に行かない?」
「どうせしめだすだろー!」
「大切な話をしてる時はね。けどほら。それ終わったらいつも通りにさ」
「ははうえはあのくにばっかだ! ひきこもりのくせに!」
「庭園にも出てるじゃん」
「そーじゃない!」
「色々忙しいのさ。それともデートしたい? 魔王様がどうしてもって言うなら城下デートでもいいよ?」
「うそつきー! てきとーなことばっかりいいおって!!」
「え~。そんな事ないよ~。魔王様が素直に甘えてくれるなら城下の査察だってなんだって付き合うよ♪」
「だれがあまえるかー!」
「もう。そんな寂しい事言わないで。ママ泣いちゃうよ?」
「なきたいのはわれのほーだぁー!!」
「あら。よっぽどお困りなんだね。いったいどうしたのさ。ママに相談してみ?」
「ははうえのせーだろーがー!!!!」
「あらら」
「なんではなしてくれんのだ!」
「必要な事だからだよ」
「いーつもそれだー!」
「ごめんね、魔王様」
母上の頑固者め! どうしていつもそうなのだ!
「あら。お取り込み中のようですわね」
「ううん。良いところに帰ってきたね、カミュラ。丁度話が終わったところだよ」
「おわっとらん!! かってにおわらすなぁーーー!!!」
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母上が亡くなったのはそれから程なくしてからだった。同時期にカミュラとアーフィスも姿を消した。当時の我には何一つ理解出来なかった。正直今でもわからない事ばかりだ。
ユズキから引き出せた記憶はそう多いわけじゃない。多分に推測も交えて現状を把握しているにすぎない。
それでも母上は戻ってきた。ユズキは我を必要としてくれている。相変わらず言葉は足りないが、それでも我の成すべき事は理解した。
母上は待っておったのだ。我が育ちきるのを。この世界が進み始める時を。
「「魔王様」」
「我に従え。今度こそ」
「「はっ!!」」
「うふふ♪ 遂に取られちゃったわね♪」
「とうに継いでおるわ」
「そうだったわね♪ 娘が立派に成長してくれてママ嬉しいわ♪ 泣いちゃいそう♪」
「後でたっぷり泣かしてやるのじゃ! 今度こそ隠し事は無しじゃ!」
「もちろん♪ その為にもね♪」
「行くぞ!! 女神を討つ!! 我に続け!!!」
「「「御意!!!」」」




