04-04.少女の夢
出来心だった。
ファンゲームのメイキング動画なんてものを配信し始めたのが全ての始まりだった。
ある日、権利関係者から連絡が来た。
私はガクブルでメールを開いた。動画を即削除して全力で謝れば許してもらえるのだろうか。というか今消しました。収益化もまだだったので利益は得ていません。どうか許してください。内心そんな気持ちでいっぱいだった。
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内容は予想もしていないものだった。
私の生み出したファンゲームの完成度にいたく感動したので話をさせて頂きたい。概ねそんな内容が書かれていた。
私は生粋の引き籠もりだ。普段ならそんな話に乗るはずもなかった。
しかし今回ばかりはそうもいかない。後ろめたさが無かった筈もないのだ。それを使ってあわよくば、なんて魔が差してしまったのだもの。ここで逃げるのは流石にあり得ないだろう。そう思った。
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もしかしたらこれは直接会って叱る為の口実だろうか。そんな事をぐるぐる考えながらも、どうにか約束の場所へと辿り着いた。
そこで私は更に驚かされた。
担当者から聞かされたのはリメイク版開発中の話だった。
それはまだ世に出回っていない情報だ。
何故私にそんな話をしたかと言えば、要は協力要請だ。それで権利侵害は見逃してやる。つまりはそういう話だった。
しかもちゃんと報酬も出る。更には最新の開発環境まで触らせてもらえる。至れり尽くせりだ。
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私は調子に乗っていた。有頂天だった。
話が出来過ぎだとは欠片も考えていなかった。どころか、ようやく社会から認められたのだと舞い上がっていた。
ボッチの引き籠もりだからって承認欲求が皆無なわけじゃない。でなければこうはなっていなかった。知らない大人たちにチヤホヤされるのが嬉しくて堪らなかった。
私も捨てたもんじゃない、意外とお外も怖くない。そんな風にすら考えていた。
今にして思えば滑稽だ。この世で最も恐ろしい場所に足を踏み入れてしまったのだから。
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最初は普通の会社だと思っていた。
私の補助には真面目なだけのド新人が付けられ、もとい、付けて頂いた。
彼女と私の共通点は二つだけだ。レトロゲーオタで同性。たったこれだけだ。それでもいくらか話は盛り上がった。
彼女にゲーム開発の知識は無かったが、話し上手ではあったのだ。それに気が利く子だった。要領が特別に良い方というわけでもないが、とにかく真面目で頑張り屋なお姉さんだった。
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私は開発に打ち込んだ。禄に休みも取らずに働き続けた。最先端フルダイブ端末の機能をフルに使い、一日を何百時間にも引き伸ばしてもまだ足りなかった。
持ち込んだ自作のファンゲームをベースに、ほぼ一から最先端のゲーム世界を作り込んでいった。わざわざ数百年前の世界を作り出し、人々に高度な知性を与え、自ら魔王を名乗って世界を育て上げた。
全てはリアリティを追求する為だった。会社はあっさりとこれを許してくれた。実に面白い案だと褒めてくれた。
この時点で何故疑問に思わなかったのだろう。いや。本当は違和感を感じていたのだ。開発中という割に他のチームメンバーは存在しなかった。開発者は私一人だ。しかもなんでもかんでも好きにやらせてくれるのだ。
私の生み出した特殊な人工知能や世界を動かすには、一般家庭の端末では到底スペックが足りていなかった。既に製品として破綻している。こんなものは流通させられない。それなのに彼らは手放しで喜び、褒めてくれた。
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ある日から会社に泊まり込むようにと告げられた。
ゲームが無事に発売されるまで続けてほしいと言うのだ。
守秘義務にしたって流石におかしいとは思いつつも、真面目ちゃんが身の回りの世話は全部任せろと強く売り込んできたので、最後は流されるように同意してしまった。
正直日々の満員電車にウンザリしていた。もっと開発の時間を確保したい気持ちもあった。だからってもう少しどうにかならんかったものかとは思うけど。
自分で言うのもあれだけど、私は世間知らず過ぎたのだ。もっと早く気付け。
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私は早く会いたかった。話をしてみたかった。私の大切な子供達と。可愛い我が子に身体を与えてあげたかった。住む場所を与えてあげたかった。遊び場を与えてあげたかった。
引き籠もる場所が変わっただけだ。
開発室は私の私室と化した。
作りたいものはいくらでもあった。
何より想像が何でも形になる世界は楽しかった。
私の技術力を以ってすれば全ては思いのままだった。
そう。まるで創造神にでもなったかのようだった。
愛しのレトロゲー達を再現したのもこの頃だった。
私には一般常識だけでなく倫理観も足りていなかった。
記憶を抜き出してデータにする機能を作り上げたのだ。
自分だけでなく、真面目ちゃんの記憶をも抜き出した。それも一回だけではない。定期的に。
最初は信頼していた。信頼できる人物だった。なんなら姉のようにすら思っていた。
あの日までは。
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偶然だった。彼女がこの会社の真実を知ったのは。
彼女も騙されていた。最初だけは。
彼女は私を裏切った。私は逃げ出すことを画策した。
けれど我が子達を置いてはいけなかった。
痕跡は何一つ残していなかった。
それでも私が気付いた事には気付かれてしまった。
私が誇れるのは開発スキルだけだ。対人スキルは落第だった。私の態度から見透かされてしまった。しかもよりによって見抜いたのは真面目ちゃんだった。あの子は悩んだ末に私を売り渡した。あの子には仕事が、お金が必要だった。だから彼女だったのだろう。私を逃がす選択だけはどうしても選べなかった。
それでも僅かばかりの猶予はあった。最後は彼女自身の手で退路を断たれる事にはなったけど、それでもあの優しく真面目なお姉ちゃんが些かの躊躇いも持たない筈はなかった。




