04-03.リベンジ
「出たわねぇー! 白トカゲぇーーー!!」
魔王様の部屋のバルコニーから身を乗り出して叫んだ。
「「!?」」
なんで魔王様まで驚いてるのよ。
「おいユズキ!! 何故出てきおった!? 危ないじゃろうが!!」
「愚問ね! 全て解決したからに決まってるじゃない!」
「じゃからって!」
「何ビビってるのよ! 一度は倒したんでしょ! そんな爬虫類ごとき魔王様の敵じゃないわ! 所詮は前座よ前座! そんな奴さっさと倒してしまいなさい!」
「ギャァァオオオオオオオオ!!!!!」
あら。この程度の煽りで人の言葉を忘れてしまうなんて。初対面時の高慢な態度は見る影も無いわね。
「馬鹿なっ!? 初っ端から第二形態出す奴があるかぁ!」
ソルヴァニールは陽炎のように身体の表面を揺らめかせている。所謂オーラだ。全身を極めて強力な光の魔力で覆ったのだ。魔王様も言った通り、第二形態へと移行した証だ。こうなったソルヴァニールは更に凶悪な攻撃を放ってくる。
聖剣を手放した勇者では何度挑戦してもこの形態を突破出来なかった。逆に言えば聖剣さえあれば勝てるのだ。所詮その程度の相手だ。魔王様と魔王軍の敵じゃない。
「魔王様! 受け取りなさい!!」
「なっ!?」
あ、やば。
私が全力で投げた聖剣は上空の魔王様には全く届かず、地面に向かって落下を始めた。
「うおっ!? なんだ!?」
「ザルカぁ~~~ス!!! 投げてぇ~~!!」
魔王様を指差しながら地上の牛馬男に向かって叫ぶ。
四天王一の怪力を持つザルカスは、足元に突き刺さった聖剣の柄に手を伸ばした。
「熱っ!? ええい!! ふんぬらばぁ!!!」
ザルカスは聖剣に手の平を焼かれて一瞬躊躇したものの、そのまま聖剣を勢いよく引き抜いて魔王様に投げつけた。流石のガッツだ!
「魔王様ぁ!!!」
「うむ!!」
魔王様が聖剣を受け取る直前、辺り一面が真っ白な光に包まれた。
「「「「魔王様!!!」」」」
配下達から恐怖と驚愕の声が上がった。
魔王様は結界の外だ。完全に光に飲み込まれてしまった。しかし心配は要らない。今の魔王様にあの程度の攻撃が通用する筈もない。私はそれを知っている。
「「「「魔王様!! うぉおおお!!!」」」」
配下達から大歓声が上がった。
光の中から無傷の魔王様が現れた。当然の結果だ。他ならぬこの私が用意した対抗手段だ。ここまでは全て計画通り。
ソルヴァニールの必殺技は完全に封じられた。
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魔王様とこの城を守り抜いたのはエルフの開発した防御機構だ。数百年前、私がエルフ達に作らせた品だ。魔力を変換して特殊な力場を発生させる、要するにバリア発生装置だ。
ソルヴァニールの必殺技は拡散型の範囲攻撃だ。単に魔族に対する特攻効果を持っているに過ぎない。魔王様の肉体は砕けても、エルフの科学技術で作られたバリアは貫けない。
ソルヴァニールがバリアを破るには収束型のビームを当て続ける必要がある。一周目に私が殺された方法だ。あれには多少の時間が掛かる。聖剣を装備した魔王様の攻撃を捌きながら使える手段ではない。
私は完成版を見たことは無かったが、個人装備用の小型バリア発生装置も無事に完成していたようだ。当然、魔王様の一度は勝ったという言葉でこの状況も想定はしていた。
そしてダメ押しの聖剣だ。ここに最強の盾と矛が揃った。攻防共に完璧だ。それでも唯一懸念点があるとすれば、聖剣は魔王様にスリップダメージを与え続け、バリアには魔力消費が伴う点だ。装置自体が負荷に耐えきれず破損する恐れもある。決着は早めに着けてもらうとしよう。ソルヴァニールはあくまで前座だ。真の敵は未だ姿を現してすらいないのだ。
「グギャァァァァァアアアアア!!!!」
ソルヴァニールの纏うオーラが虹色の輝きを伴い出した。早くも第三形態だ。流石にいくらなんでも早すぎる。まだ一度も攻撃なんてしてないのに。これは少しマズいかしら。
この形態では更なる耐性を獲得する。聖剣による物理攻撃以外の一切が通用しなくなる。それまで通用した女神由来のデバフもだ。さらには怯み耐性までもが付与される。
魔王様はいったいどうやってこれを突破したのだろう。実はその具体的な手段って知らないのよね。エルフに急ピッチで武器でも作らせたのかしら。かと言って大砲やらバリスタやらを作っても当たる筈も無い。仮にミサイルがあったとしても決定打にはなりえまい。
聖剣の隠し場所は魔王様でも知らなかった筈だ。少なくとも今回の周回では、つい先程私が回収するまでそのままだった。
或いは第三形態に移行する前に倒しきったのかしら。あの高慢な性格を利用すればそんな手もあったのかもしれない。もしかして私足引っ張っちゃった? すみません……。
これでもゲーム上では大した問題ではなかった。普通に殴り続けていれば勝てる形態だ。何故なら移行する時点で残り体力が極めて少ないからだ。通称悪足掻き形態なんて揶揄されていた。あくまでギリギリの戦いを演出する為の特殊形態に過ぎなかった。
しかし今は一切消耗していない状態だ。ゲームとは大きく前提が異なっている。
逆に言えば、ゲームとは違って消耗も伴う筈だ。ソルヴァニールだってあの形態の維持を長く続ければ、いずれガス欠を起こすだろう。
とにかく問題なのは、ソルヴァニールが冷静にビームを照射し続けた場合だ。魔王様の攻撃を意に返さず、城を焼くことを優先してきた場合、間違いなく魔王様は間に立ってでも庇うだろう。それが唯一の負け筋だ。
「くっ!!」
魔王様も気付いているのか、躊躇する事なく斬り掛かっていった。しかし攻撃が通じていない。今のソルヴァニールの鱗は聖剣すらも弾くらしい。これは想定外だ。
ソルヴァニールの硬さもだが、おそらく魔王様と聖剣の相性も問題だ。魔王様は剣の扱いも達者だが、流石に聖剣の力は引き出しきれていない。今の聖剣はただ硬いだけの棒だ。刃毀れを起こしたみたいに切れ味も落ちている。流石にぶっつけ本番はマズかったか。
「「魔王様を援護せよ!!!」」
「「「「「おぉぉぉおおお!!!!」」」」」
配下達が遂に動き出した。リリスさんとバシルの四天王コンビが部下達と共に魔法を放つ。攻撃魔法と支援魔法が一斉にソルヴァニールと魔王様を包みこんだ。
事前に魔王様から言い含められていたのだろう。彼らは誰一人として結界の外に出ていない。流石の練度と忠誠心だ。主一人を最前線に立たせる抵抗は想像を絶するものだろう。支援のタイミングも完璧だ。こちらだってリソースを無駄にする余裕はない。それを誰もが正確に理解している。
魔王様の攻撃が少しずつ通りだした。最初はかすり傷に過ぎなかったものの、次第に深い傷を残すようになった。聖剣によって付けられた傷はすぐには再生しないようだ。ソルヴァニールの純白の鱗が段々赤黒く染まり始めた。
「ギャァァオオオオオオオオ!!!!!」
ソルヴァニールが怒りに燃えている。がむしゃらに光を放出しながら、魔王様を直接掴み取ろうと手を伸ばして藻掻き続けている。こちらには目もくれていない。その調子だ。もう少し。頑張って。魔王様。
ここで私に出来るのは信じて見守る事だけだ。私は女神の相手をする必要がある。何より私が命を落とせば全ての努力が無駄になってしまう。
頑張って、皆。
もうすぐよ。今度こそ全てに決着をつけてみせるわ。




