04-02.秘密の鍵
客観的に事実だけを纏めてみよう。あり得ない事だとか、ここが異世界かゲームかだとかは脇に置こう。
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一つ目。前魔王の名前は誰も知らなかった。
魔王様には母上、或いはママと呼ばせていたそうだ。メイドゴーレムからの呼称はマスターで、他の者達は魔王様だ。
魔王を退位した後は基本的に引き籠もっていた為、元魔王だとか、前魔王だとか呼ばせた事は無かったらしい。
ただしこれは魔王城内での話だ。エルフの国でどうしていたのかは不明だ。それはメイちゃん達では知らない情報だ。魔王様ならば知っているだろう。当然エルフ達もだ。どうにかして聞き出す方法はないだろうか。
……いや。私が知る必要はないのか。魔王様が今ここに至っても隠し続けているのだから。前魔王様の具体的な情報は問題の本質とは関係が無いのかもしれない。或いはどうしても女神にだけは知られるわけにいかないのかもしれない。
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二つ目。前魔王の肉体は今でも現存している。
魔王様が封印処理を施してある場所に隠したそうだ。その場所についてはメイちゃん達ですら知らされていない。これも知っているのは魔王様だけだ。
私の魂をそちらに戻す方法はないだろうか。魔王様にならきっと出来る筈だ。そうすれば多くの謎が解けるかもしれない。前魔王の脳がまだ無事ならの話だけど。
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三つ目。私は前魔王の部屋を知り尽くしている。
これを偶然の一致とするのは無理がある。しかも思考に妙な制限まで掛かっている。この部屋は私の部屋だ。誰かが、或いはかつての自分自身が記憶と思考に手を加えたのだ。その証拠と言い切れるだろう。
四つ目。私に前魔王の記憶はない。
これも三つ目と同じだ。誰かが意図的に抹消したのだ。
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五つ目。魔王様は私を母と呼んだ。
六つ目。メイちゃんは私をマスターと呼んだ。
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認めよう。証拠は出揃っている。前魔王の魂は私のものと同一だ。それを前提に考えてみよう。私を前魔王の生まれ変わりとして一から洗い直してみよう。
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私には異世界、私にとってのかつての現実世界。その記憶がある。つまり私は一度向こうの世界に転生した事になる。
この世界で前魔王であった私は、何らかの理由で命を失い、向こうの世界に生まれ変わった。
そしてリメイク版のプレイを切っ掛けに、この世界へと転移してきた。或いは転生した。
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けれど渡ってきたのは魂だけだ。私の肉体は今も向こうの世界に残っている筈だ。火葬が済んでいなければの話だけど。
とにかく転生だろうが、転移だろうが、ゲームにログインしているだけであろうが、これだけは間違いのない真実だ。
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私の魂は勇者の肉体に取り憑いた。
魔王様が私の魂を引き出して肉体の情報を上書きした。
今現在の肉体は私の魂の情報を元に再構築したものだ。
知識として知っているのはそこまでだ。具体的な方法は私にはわからない。あくまで魔術的なものなのだろうか。
それともやはりこの世界はゲーム世界なのかしら。私の記憶から最も強くイメージできる姿を引き出したのだろうか。
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この世界と繋がった理由は私が前魔王の生まれ変わりだったからなのだろうか。
……いや。それでは時系列があべこべだ。
この世界はリメイク版の影響を受けている。リメイク版が発売されたのはつい先日の出来事だ。とっくに前魔王が没した後だ。前魔王が仕込んだにしては不自然だ。
前魔王は原作版を参考に基礎を作り、女神はリメイク版を参考に環境を整えたのだろうか。
……なんだか回りくどい。もっとシンプルな筋書きがありそうな気がする。
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……。
…………。
………………。
魔王様の言っていた「油断」ってどういう意味かしら。
魔王様が探していたのは本当にバグの方法だったの?
この原作版には何が隠されているの?
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……。
…………。
………………。
……もし仮に。これは本当に仮の話だ。
私がこの世界に"来た"のが初めてじゃなかったとしたら。
もし、前魔王が私のアバターだったのだとしたら。
……この部屋は"今の私"が作り上げたものなの?
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私がこの世界にログインしたのは二回目だった?
私は一度も転生なんてしていなかった?
この部屋は、或いはこの世界そのものすらも、私が作り上げたものだった?
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この部屋に存在する数々のレトロゲーム。
リメイク版を制作したゲーム会社がこんなものを仕込む筈がない。そんなの倫理に反している。こんな状態のままで販売する筈がない。だから仕込んだのは私自身だ。それ以外にあり得ない。だとしたらいつ仕込んだのか。
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リメイク版を購入した私が改ざんを行った?
本当にそんなことが出来るの?
私にそんな知識も経験もない。少なくとも今の私にその記憶は存在しない。……本当にそうか? 私は何の会社に勤めていた? ……思い出せない? なんで? 会社に行かなければならないことは覚えていたのに? これも忘れてる? 記憶が書き換えられてる?
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それともゲームの機能を利用した?
【想像を現実にする機能】
例えばこのゲーム内にはそんな機能が存在するとか? 魔王様が私の肉体と部屋着を再構築したのはその機能を利用した?
かつての、前魔王時代の私は、ゲームソフト一つ一つを記憶の中から再現した?
そんな事が技術的に可能なのだろうか。
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だとするなら、世界の歪みは全て私の想像が原因なの?
元々は原作版に忠実なゲーム世界だった?
私が幾つもの変化を齎した事で歪んでしまった?
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「前魔王」とは、魔王を倒して城を乗っ取ったかつての「勇者」だった?
私は魔王様を新たに生み出した?
私はもう一度ゲームを楽しむ為に記憶を書き換えた?
全ては私が始めた事だった?
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この世界は魔王様と私が出会ったところから始まったのではなく、既に一度エンディングを迎えた後の世界だった?
一から世界をやり直すのではなく、新たな魔王様を育て上げた後、自分自身を新しい勇者として生まれ変わらさせた?
だからソルヴァニールが現れた?
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私はこのレトロゲームに何かヒントを隠したの?
例えば全ての記憶を取り戻す為のトリガーとか。
魔王様はそれを探していたの?
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……いや。
それなら魔王様の口にした「油断」の意味がわからない。
それは「希望」と呼ぶべきものだ。
女神の見落とし的な意味で「油断」と称したのだろうか。
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だとしたら女神は、全ての黒幕であった「私」の思惑とは違う目的で動いているのだろうか。
もし女神の真の目的が本当の意味での世界のリセットなのだとしたら。
あまりにも元のゲームとかけ離れ過ぎてしまったこの世界を完全に初期化するつもりなのだとしたら。
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魔王様は記憶を失うだけでは済まない。
完全に消滅してしまう。
今の魔王様は私の想像が生み出した偽物だ。
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本当にそうだろうか。
まだいくつも疑問がある。
一つは痛覚制限。
一つは年齢制限。
一つは倫理制限。
一つは時間制限。
そのどれもがゲーム内から書き換えられるものとは思えない。仮に他三つには抜け道があったとしても、時間制限だけはどうにもならない。これはゲーム機側の機能だ。強制終了だけは免れない筈なのだ。
そもそも記憶を書き換えるなんて危険な真似が許されるとは思えない。仮に【想像を現実にする機能】なんてものが存在するのだとしても、一般流通のソフトウェアであるなら越えられないラインがある筈だ。安全機能を一般人が破るなんて絶対に出来ない筈なのだ。
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つまりそんな事が出来た時点で十分な知識がある筈だ。
それこそゲーム開発者レベルの知識だ。
ならば特別な機能なんて要らないのかもしれない。
私は開発者側の人間だったのかもしれない。
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これでは妄想が過ぎるだろうか。少しばかり考え過ぎてしまっただろうか。今重要なのは世界と私の真実なんかではないのかもしれない。
きっと全てを解き明かす鍵は、今手元にある、このレトロゲームの中に含まれている筈だ。私はそれを見つけ出すだけでいい。どうやって仕込んだのだとかはどうでもいい。それは後で調べれば済む事だ。或いは条件が揃えば勝手に思い出す筈だ。今は女神を倒す事だけを考えよう。
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話は随分とシンプルになった。今やるべきことが明確になった。そうと決まれば後は魔王様がやっていた事を真似ればいい。ゲーム画面の一つ一つを調べ尽くして、私の記憶にある本来の原作版との相違点を見つけ出すのだ。
そしてそれを仕込んだのは私自身だ。この世界がどんなものであれ、それだけは揺るがない真実だ。
つまり私なら見つけられる筈だ。
考えろ。私ならどこに仕込む。
私なら……。




