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03-06.決裂

「はぁ~~~~~~~」


 クソデカ溜息。そりゃ出るよね。



「お久しぶりです、魔王様。面目次第もございません」


「言う程経っとらんじゃろ。たかが十日程度じゃ。それで餓死っておかしいじゃろ。普通の人間でもあるまいし」


 そんな事言われても……。



「いや。そうでもないのか。やはりそういう事なのじゃな」


「何の話?」


「……なんでもない。まったく。あれだけ苦労したのにまた一からやり直しじゃ。次は食事を忘れるでないぞ。ゲームは一日一時間までじゃ」


「それは短すぎるわ。せめて二十時間は」


「十二時間じゃ。それ以上は認めん」


 流石に一時間は冗談だったか。……うん? なんで魔王様がそんな言い回しを?



「ほれ。早速動くぞ。お主もなんぞ目的があるのじゃろ」


 認識していたのね。やっぱり覗いていたのかしら? けどそれなら私が倒れた事にも気付いていたんじゃ?



「ああそれと。なんにせよこうして会えたのは嬉しかった。今度は部屋から出て顔を見せに来ておくれ」


 魔王様はそれだけ言い残して飛び立ってしまった。




----------------------




 気付いたら謁見の間だった。


 たぶん後ろからメイちゃんに殴られたのだ。一撃だった。


 一周目は誅殺、二周目は自害、三周目は餓死、四周目は撲殺。どれも碌な死に方じゃない。死んでる時点で碌なものでもないけれど。




「魔王様」


「……すまん」


「謝罪より申開きを聞きたいわね」


「……しくじった」


「それで私を殺させたの?」


「すまん」


「いいえ。ありがとう、魔王様。約束を果たしてくれて」


 もし魔王様が一人だけで逝ってしまったら次の周回には記憶が引き継げない。私は再び一人になってしまう。


 今の魔王様が私の魔王様でないのだとしても、例え私を利用しているに過ぎないのだとしても、大切に想ってくれているのは間違いない。それがわかっただけで私は救われる。


 だからもう少しだけ。もう一度歩み寄ろう。



「手を組みましょう」


「……そんな言い方をしないでおくれ」


「それはどういう意味? まさか本気で私が魔王様の真意に気付いていないと思っているの?」


「実際気付いてなんぞおらんだろうが。何故我の言葉を信じてくれんのだ」


「魔王様自身が一番理解している筈よ」


「……それでもだ。どうか信じておくれ」


「何故拘るの?」


「ユズキを愛しているからだ。それ以外何がある」


「もう嘘を付くのはやめましょう。私を利用したいならしてもらって構わないわ。私は魔王様の側に居られればそれだけで幸せなの。例え心が伴っていなかったとしてもね」


「っ!! ふざけるなぁ!!!」


「!?」


「我が!! 我がいったいどんな想いで!!」


「知らないわよ!! 何も話してくれないじゃない!!」


「話せぬのじゃ! 何故それがわからんのじゃ!!」


「わかるわけないでしょ! 私にわかるのは魔王様が私を愛してないって事だけよ!!」


「違う! 違うのじゃ! 何故信じられぬのじゃ! 我はユズキの魔王じゃ!! そう何度も言っておるではないか!」


「口先だけじゃない! 愛してるって言いながら口づけの一つもしてくれないじゃない!!」


「それは!」


「証拠だってあるのよ!! ほら! 見なさいよ! あんたは偽物よ! 私の恋人ならここに出てくる筈だもの!! 私の魔王様ならそうだってわかるのよ!!」


「ふざけるな! ふざけるなふざけるなふざけるなぁ!! なんだ貴様は!! 我の言葉より女神のシステムを信じると言うのか!! そんな馬鹿げた話があるものかぁ!!!」


「!?」


 泣いている……。あの魔王様が涙を流している……。


 今までこんな魔王様を見たことは無かった……。


 魔王様はいつだって自信に満ちあふれていた。それは私と距離を置いてからも変わらない。その姿は言葉よりも雄弁に必ず何かをやり遂げるてみせると告げていた。


 ……魔王様はずっと示してくれていた。けれど私は見ないフリをしていた。気付かないフリをしていた。魔王様が頑張るのは魔王様自身の為であると信じ込もうとしていた。私を愛してくれない魔王様が私の為に頑張ってくれているだなんて信じる事が出来なかった。



「魔王、さま……ごめんなさい……そんな……つもり……」


「……いや。すまん。確かに我は嘘を付いた。ユズキの言う通りじゃ。我はお主の魔王ではない」


「え……」


「お主の望む我は永遠に失われた。どんな奇跡であろうと取り戻す事は叶わんじゃろう。我が持ち得るのはその記憶だけじゃ。付随する想いは別のものへと置き換えられた。すまんな、ユズキ。我はお主の望む形でお主を愛しているわけではないのじゃ」


「……置き換えられたとはどういう意味ですか?」


「……我は気付いてしまったのじゃ。お主の中に眠る母上の存在に」


「……は?」


「お主は母上の転生体じゃ。流用したと言った方が正しいかもしれんがな」


「……意味がわからないわ」


「愛してはおるが恋人としては見ておらん。それは確かに真実じゃ」


「なによそれ……」


「我はかつて恋をした。自らが育てた娘に本気で言い寄ったのじゃ」


「そんな話が!」


「当然受け入れられるものと思っていた。しかしとんだ思い違いじゃった。今にして思えばあれは恋ですらなかったのじゃろうな」


「だから!!」


「あの子の眼差しが忘れられぬ。我にとって初めての恐怖じゃった。初めて愛する娘に嫌われたのじゃ」


「それが何だって言うのよ!?」


「同じ過ちは繰り返せぬ」


「ふざけないで!! これ以上わけのわからない事言わないで!!」


「愛している。母上。しかしこれは恋ではない」


「っ!! 馬鹿にしてるの!? まさか仕返しでもしてるつもりなの!? いい加減にしてよ!! そうやってまた嘘を付くの!? 本当に私の事なんてどうでもいいの!? あなただって私を大切にしてくれてるんだって思ってたのに! 利用価値があるだけだってわかってても嬉しかったのに! ふざけないで!! 私の魔王様を返してよ!! あなたになんか用は無いのよ!! もう消えてよ! 私に付き纏わないでよ!! 私が欲しいのはあなたなんかじゃない!! 家族ごっこがしたいならあの子とすればいいでしょ!! 私を巻き込まないでよ!! あなたなんて大っっ嫌いよ!!!!」


「……やはり信じてはもらえぬか」


「当たり前でしょ!!!」


「……すまんなぁ……ユズキ」


 魔王は少しの間上を見上げて呆けた後、堪えきれなくなったかのように玉座の上で膝を抱えて泣き出した。



「泣きたいのはこっちよ……私の魔王様を返してよ……」


「すまぬ……すまぬ……」




 ただ二人の啜り泣く声だけが響き続けていた。

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