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03-05.一縷の望み

「メイちゃん。お願いがあるの」


 メイドゴーレムのメイちゃんは私の願いを聞き届けてくれた。私は久しぶりに部屋の外へ出る事を許された。



「好キニ使エ。魔王サマカラ許可ハ頂イテルデス」


「ありがとう」


 私は前魔王様の私室を訪れた。この部屋は生前のままの状態で残されている。本当に私の部屋とはよく似ている。だからこの部屋にならあるかもしれない。私の探し物が。



 魔王様のお母様。ごめんなさい。どうか許してください。これはきっと魔王様の為になる筈なんです。


 私は心の中で祈りを捧げてから故人の部屋を漁り始めた。目的のものはすぐに見つかった。見つかってしまった。本当にあっさりと私の手の中に転がり込んできた。まるで最初からそこにあるとわかっていたみたいに。



「どうしてこれまで……」


 お母様はこのゲームをプレイしていたのだろうか。この世界との類似性に気付いていたのだろうか。魔王様の名前はこのゲームから取ったのだろうか。



 私はゲーム機を起動してソフトを読み込ませた。そこにはクリア済みのセーブデータが残されていた。もしかしたらと思いながらそのデータを選択した。


 画面に表示されたのは魔王城内のセーブポイントだ。そこから少し進むと魔王様が現れた。



『ふっはっはっはっは!! よく来た! 勇者よ!』


 このゲームに音声は無い。テキスト欄に文字が表示されるだけだ。それでも魔王様がそこにいる。どれだけ勇者達に追い詰められても折れずに高笑いを続けている。


 私はリセットボタンに手を置いた。少しだけ気持ちを整えてから意を決して押し込んだ。


 一度タイトル画面に戻され、再びセーブデータを選んだ。勇者達はセーブポイントに戻された。


 今度は魔王様と反対の方向に進んでみる。少し進んだ所で脱出用アイテムの存在に思い至り、アイテム欄を開いて使用した。


 魔王城の入口まで戻ってきた。それから飛行の魔法を選択し、女神の泉を管理する村へと飛んできた。


 村を突っ切って森の中を奥へ奥へと進んでいくと、記憶の通りに女神の泉が現れた。



 少し呼吸を整える。緊張してきた。やはりトラウマになっているようだ。既に勇者のレベルは最大値だ。このまま話しかければソルヴァニールが現れる筈だ。


 何か弱点が見つかるかもしれない。回復薬の量は……少し心もとない。これではギリギリかもしれない。検証するにはもう少し余裕が欲しい所だ。仕方がない。一旦王都にでも向かうとしよう。



 また来た道を引き返す。森も地味に長い道のりだ。やっぱりこのまま挑んでしまおうか。検証を行う前に一度倒してトラウマを晴らしておくべきかもしれない。そもそも既に倒してしまっていたなら意味がない。泉に話しかけても何も起きない筈だ。グダグダだ。全然気持ちが落ち着かない。たかがゲームなのに。ここで負けたからって現実の私達に影響がある筈も無いのに。



 ……。


 …………。


 ………………。



 結局万全の準備を整えてからもう一度泉に戻ってきた。ここまで随分と時間が掛かってしまった。そろそろ夕食の時間だろうか。誰も呼びに来る様子はない。もちろん魔王様だって来る筈もない。きっとまだ忙しく働いていることだろう。



 意を決して女神の泉に向かって話しかけた。


 記憶の通りに女神の言葉が表示された。いくらか言葉を交わした後、ソルヴァニールが現れて戦闘が始まった。



 ……。


 …………。


 ………………。




 ……なんだ。倒せるじゃん。


 再びリセットボタンを押した。セーブ地点はソルヴァニール戦の直前に変えてある。もう一度やろう。今度は戦い方を変えてみよう。魔物由来の武器を装備して倒す方法が存在するか検証してみよう。



 ……。


 …………。


 ………………。



 ……もう一度。




 ……。


 …………。


 ………………。



 ……もう一度。




 ……。


 …………。


 ………………。



 ……もう一度。




 何度も何度も繰り返した。


 聖剣を手放した勇者では一度たりとも勝てはしなかった。


 ……もう一度。




----------------------




「ユズキ……」


 ユズキは長い事母上の部屋に籠もっている。


 食事も摂らず、休みもせず、一心不乱に挑み続けている。


 ユズキは気付くだろうか。或いは既に気付いているのだろうか。


 ユズキの求める答えは存在するのだろうか。或いは明確な問いすら無いのだろうか。手の届く僅かな手掛かりに縋っているだけなのだろうか。




 ユズキと話したい。


 ユズキに話したい。



 ……ダメだ。立ち止まっている場合ではない。残された時間はそう多くはない。奴らは必ず気付く筈だ。準備を急がねば。もう二度と失うわけにはいかんのだ。再び会えたこの時間を決して奪わせはしない。その為ならば女神であろうと討ち滅ぼそう。この魔王の名と約束に誓って。我は必ず成し遂げる。

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